残虐姫の小間使いになりまして

ハヤイもち

文字の大きさ
4 / 6

問答と痛み

しおりを挟む
ガタゴト。

車内は気まずい沈黙状態が続く。

この女、やりやがった。

俺の頭の中はそれでいっぱいだった。
まさか、一般人を殺すなんて。
憲兵に任せればよかったものを、自分の手で。
なんのためらいもなく。

・・・・綺麗だった。

その一言が自然に出てきた瞬間に、俺は「は?」と思考が一瞬吹き飛んだ。

一閃。
彼女が刀を振るったのはそれだけだった。
それだけで複雑につながる人体から頭部がすっぱりと綺麗に切り離された。

腕のいい処刑人でもあんなに見事に首を切断することはできない。
しかもこちらに突進してくる相手、つまり動いている相手に対してだ。

魔法も使っていなかった。

いや、違う。

勝手に頭の中で行われるレンカの分析に対して、慌てて首を振って
思考を中断させる。

こんなことを分析したいわけじゃない。

この目の前の女がどれだけ危険なのかはっきりわかった。

「・・・・なんで」

「あ?」

俺の言葉はどうやら声に出ていたらしい。
レンカがこちらを振り向く。

「・・・・なんで、殺したんだ?」

無意味な質問だとわかっているのに言葉が勝手に出てくる。

「私に刃を向けたからだ」

ほら、こうだ。
予想通りの答えにげんなりする。

「・・・王族だからってそんな偉いのかよ」

唾を吐くようにこぼした言葉にピクリとレンカが反応する。

「・・・私は人間に貴賎があるとは思っていない」

「は?」

じゃあ、なんで・・・。

「平等だからこそ、剣を振るわなくてはいけないのだ。
そうでなければあそこに転がっている死体は私だ」

レンカはだいぶ遠くなった人だかりの方を顎でしゃくる。
ここからでは見えないが、人だかりの中心にはまだ死体が転がっている。

「王という立場に胡坐をかいていられる平和ボケしたこの国の人間には
わからないだろうがな」

彼女はまた口をつぐんだ。
俺も押し黙る。
馬車はただガタゴトと音を立てて、学園へと向かう。



※※※


「くれぐれも学園では暴力沙汰、殺傷沙汰は起こさないでください」

「ここにいる者たちは貴族だろう。私もそこまで馬鹿じゃない」

馬車が学園に到着し、割り当てられた自室に案内されたのち、
レンカに対して俺はくぎをさしていた。

こんなところで事件など起こされたら、それこそマホロバとアケボノの
関係悪化は防ぎようがない。

「あんた、わかってんですか?」

「私が誰彼構わず気に入らなかったら剣を振るう女に見えているようだな。
安心しろ。お前が見ていないところではうまく猫をかぶってやる。
それよりお前は12歳だろう。
ここは高等部だから、お前は中等部か小等部に所属するのではないのか?」

学園は小等部、中等部、高等部に分かれている。
年齢ごとに所属する部が異なり、15歳以上のレンカは高等部、
12歳の俺は中等部、もしくは小等部に所属するのが通常だ。

しかし。

「あ、俺は飛び級で高等部所属になったんで大丈夫っす」

「・・・。」

そしてレンカは嫌そうに顔を顰めた。
学園に行けば監視の目がなくなるとでも思ったのだろうか。

「親のコネか?」

「別にどう考えてもいいですけど。
一応この歳であんたのお守り任せられる理由を
考えてほしいっすね」

こんなことを言っているが、自分では他の人よりも少し要領がいい
だけだと思っている。

そして要領が良くても、人生結局楽はできなかった。
逆に他国の王族の監視なんていう面倒な役割を押し付けられている。
これなら普通に農村とかで生まれて、一生畑を耕しているほうが良かった。

「なるほど。お前のような子どもが監視によこされたときは
私も随分となめられたものだと思ったが。」

しばらくレンカは口元に手を当てて考えてから
俺に向き直った。

「・・・お前、私の監視などうんざりだろう。
どうだ、学園にいる間だけでも監視の任を解いてはどうだ」

「つまり、さぼれと」

「いや、必要ないといっているんだ」

「残念ながら、その提案に乗るほど俺、バカじゃないんで。
ついて回られるのがうっとうしいなら、あんたから見えないように
監視するので大丈夫です。」

「・・・・はぁ」

これまたレンカは嫌そうに顔を顰めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

皆が望んだハッピーエンド

木蓮
恋愛
とある過去の因縁をきっかけに殺されたオネットは記憶を持ったまま10歳の頃に戻っていた。 同じく記憶を持って死に戻った2人と再会し、再び自分の幸せを叶えるために彼らと取引する。 不運にも死に別れた恋人たちと幸せな日々を奪われた家族たち。記憶を持って人生をやり直した4人がそれぞれの幸せを求めて辿りつくお話。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

処理中です...