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残虐姫、改め、猫かぶり姫
しおりを挟む「あれは王子か」
自分の教室に着いたレンカは人だかりの中心にいる
黒髪の優男を指さして俺に尋ねた。
「いきなり男漁りっすか?そうですよ、あれがアケボノの第2王子、
その隣も隣国の王子っすね」
「はしたない言い方をするな。婿探しだ」
「同じようなもんでしょう」
「さすが王子、顔がいいな、お前と違って」
「へーへー、どうせ俺は落書き顔ですよ」
「お前ももう表情を少し引き締めていれば・・・いや、うん」
「んだよ。」
「いや、ところであの方々に話しかけようと思うのだが、
私の恰好は大丈夫か?」
「別に、いつでも話しかけたらいいんじゃないんすか」
「ああ、では行ってくる。お前は待ってなくていいぞ」
「任務なので、見てますよー」
面白くない。
いきなり王子に話しかけに行ったレンカを横目で見ながら、
眉間にしわを寄せた。
確かにそれが目的で来てんだからしょうがないけど、
なんか面白くない。
なんだ、俺はあの顔が良くて身分が高い王子様達に
嫉妬してんのか?
何でだ。
レンカは俺には向けなかった笑顔を王子に向けた。
周りに花でも咲いたようなその笑顔にまんまとアケボノの王子は
見惚れている。
「あいつ、すげーな」
それとも女という生き物がそういうものなんだろうか。
しかし。
「この残虐姫が!汚らわしい!マホロバに帰りなさい!」
王子達の後方にいた少女が金切声を上げた。
「血に汚れたマホロバの女が!」
「お前などこの学園にいる資格がない」
「汚らわしい手を王子から離しなさい」
少女に続くように周りから非難の声が次々と飛んでくる。
「やべっ、」
俺は真っ先に今朝あった出来事を思い出した。
ここからはレンカの後姿しかわからない。
あの翡翠色の瞳を怒りをたたえて、周りを睨みつけているのだろうか。
というよりあんな恐ろしい女に突っかかるなんて
女って随分命知らずだな。
どうやら今朝の出来事は広まっていないらしい。
一応憲兵には情報統制を敷いていたから知られていないわけか。
ただもたもたしていればレンカがキレて
また刀を振り回すかもしれない。
俺は想像して青くなっていく。
そんなことになったら、マホロバとの関係悪化、
もしくは戦争の火種に・・・。
「・・・・うっ」
俺が慌ててレンカの元に近寄ろうとすると、
いきなりレンカはうずくまって片膝をついた。
「どうしたのですか、レンカさん」
王子がうずくまったレンカを心配して肩に手を置く。
「・・・・うっ、ぐすっ、」
「レ、レンカ?」
「レンカさん?」
俺は思わずその場に立ち尽くし、唖然とした。
それは王子も同じだったらしい。
「・・・ひどい、わ、わたくしは皆さんと仲良くしたいのに。
なぜ、そんなひどいことを、・・・うっ、ぐすっ、」
嘘泣きだ。
俺には嘘泣きだとわかっていた。
わかっているはずなのに、なぜかレンカの涙には心を揺さぶられる。
レンカのことをなんも知らない、会ったばかりの王子様なんざ
イチコロだろう。
「レンカさん、すいません、取り巻きが失礼をしました。
どうか、どうかご無礼をお許しください。
僕の部屋で顔を冷ましましょう。立てますか?」
「・・・はい」
王子は恭しくレンカの手を取って立たせようとする。
俺はずかずかと王子とレンカの間に入り、すかさずそれを制した。
「すんません。俺、その人の小間使い兼監視を任せられてる
者なんすけど」
「ああ、スイラか。君のことはお父様からよく聞いているよ。
まれにみる天才児だって。一緒の学園に通えてうれしい」
「あー、はい、あざっす。それでそのお姫さん、今日ちょっと
本調子じゃないみたいで。俺、一応身の回りの世話任されてる
立場なんで保健室連れてってもいいすか」
「僕の部屋で休ませようか?」
「すんません、さすがに王子様の手を煩わせるわけにも
いかないんすよ。この人のこと世話すんのは上からの命令なんで」
「お父様からの命という訳だね」
「そうなんす。いやーすげー申し訳ないんすけど、そういうことで」
俺はレンカに近寄り、その顔を覗き見る。
そしてうげーっと後悔した。
その顔にはありありと『余計なことをしやがって』と
書いてある。
鋭い眼光で俺を睨みつけていた。
「ほら、行きますよ、お姫様」
俺が手を取り、立ち上がらせると先ほどの恐ろしい形相はどこへやら。
弱弱しく傷ついた女を演じている。
「・・・ごめんなさい。ご迷惑おかけしました」
王子に向かってしおらしくお辞儀をし、素直に俺の手にひかれて
廊下へと出た。
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