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☆第二十八話 ボスがいた!☆
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その日の午後から、グラン商会が協力のもと、お守り回収作戦が始まった。
繁華街を貫く大通りの、中央に噴水のある広い十字路で、シーデリアの支店が簡易式の交換所を設け、道行く人々へ呼びかける。
『皆様、こちらの会場にて現在、グラン商会の特別割引チケットの交換配布を致しております♪ チケットをご希望の方は、こちらの品物と交換を致しております♪』
支店長であるお嬢様自身が声を張り、メイド長がチケットを掲げ、店員さんたちが中身を抜いてあるマイマイ商店のお守りを、一際高く掲げていた。
シーデリア自身が交換所で頑張る事で、犯罪組織はより「お嬢様ごときが必死」と思い込むと、シーデリアは読んでいる。
そして、町内会の人たちの噂話で聞きつけていた、主に主婦の方々も、お守りを持参して交換開始を並んで待っていた。
交換所の警備という名目で、自警団の女性団長ドングリウルと女性副団長のシーム、更に自警団員たちが六人が、周囲に気を配っている。
「ずいぶんと、人が集まりましたね…」
「団長、わたし、緊張してます…っ!」
身を固くする新人の女性団員へ、優しく告げる副団長。
「大丈夫ですよ~。万が一にも 火炎魔法が発動されたとしても、対策は考えてありますから♪」
何者かによって、このオドサンの街へ持ち込まれた、火炎の魔方陣が描かれた羊皮紙。
マイマイ商店というナゾの新店舗によって、お守りに偽装されて店舗開店の配り物として、既に広く人々の手へと渡ってしまっている。
衛士隊と自警団は、シーデリア発案の「グラン商会の割引チケットと交換して羊皮紙を回収」という作戦を承認し、今はその作戦を実行中なのであった。
どれ程の羊皮紙が集まるかは未確定だし、集める事そのものも危険ではある。
もし今この瞬間に、テロ組織が火炎魔法を発動させたら、街はパニックに陥るだろう。
しかし現状、シーデリアの作戦以上に被害を防ぐ手立ては無いのだ。
「もし魔法が発動されても、この中央通りなら 燃える建物もないですし…」
大きな噴水もすぐ近くなので、もし人的被害が出ても、大怪我に繋がる可能性を最小限に収められる。
「とにかく…私たちは出来うる限り、そして早急に、皆が手にしている羊皮紙を集めきるのです!」
今も、チケットとの交換を聞きつけた人々が、衛士隊が密かに見張っているマイマイ商店へと、お守りを貰おうと押しかけていた。
「衛士隊の作戦は、一旦でもマイマイ商店のお守りを品切れにする事です。新たな羊皮紙の街への持ち込みは、既に衛士隊によって設定された様々な持ち込み禁止品とともに、不可能となっていますから…」
なので、現在マイマイ商店にある在庫のお守りで、この街への羊皮紙拡散は終了となる筈である。
勿論それは、衛士隊と自警団にとって希望的な計算という側面も、否めない。
しかし現状では、精一杯の対応策でもあった。
賑わう交換所を注視しつつ、ドングリウルたち自警団も、今は作戦の成功を祈るしか出来ない。
羊皮紙の回収完了が先か、犯罪組織に気付かれてしまうのが先か。
ジリジリとした焦燥感に追われながら、ただ時間だけが過ぎてゆく。
距離を開けた混雑も一段落して日が沈みかけた頃、交換所へ、ある意味で待ちに待っていた報告がもたらされた。
自警団員でも足早な青年が、息を切らして駆けて来る。
「え、衛士隊よりの報告をいたします! 件の商店のお守り配布が、品切れにより終了致しました!」
「そうか…っ!」
少なくとも、危険な羊皮紙のこれ以上の拡散だけは、防げた。
「これで…あとは、マイマイ商店への衛士隊の突撃を待つだけだ…っ!」
シーデリアたちが集めている羊皮紙は、荷物の配送業者に変装をした衛士たちの荷車によって、街の中でも広い公園の池がある中央へと、運搬されている。
もちろん、大通り交差点中央での交換所開設や、清掃を理由とした公園の使用禁止も、街の行政者からの許可を得ての実行であった。
「さて…あとは」
「こ、交換に来る方たちが、皆…チケットとの交換を、し終われば…っ!」
ドングリウルもシームも、魔方陣が発動する際の魔法の光が発せられない事を、今は祈るのみである。
数時間と前になる、この日の朝。
「今日いよいよ、羊皮紙とチケットの交換だ。たしか、お昼過ぎからだったよな…っ!」
シーデリアからの連絡では、繁華街の大通りで、午後から開催されるとの事。
「とにかく午前中は、いつも通りで、ボスの気を探ろう!」
午後の交換会が開催される時には、正人は仮面ヒーローとなって、密かにシーデリアの警護をすると、お嬢様本人だけでなく自警団にも伝えていた。
なので、午前中はいつも通りの廃鉄回収で走り回りながら、街の中でボスの悪意を探す正人。
「…やっぱり、感じられないな…」
まだ午前中の間に、急ぎ足でいつもの仕事を終えると、業者へ荷車を返却して日当を受け取って、人のいない場所でヒーロー姿となり、超高速で街の上空へジャンプをする。
「一番目立たないのは 街のかなり上空だから…それっ!」
一瞬で五百メートル程にまで飛翔をすると、滞空しながら街を見下ろす。
「交換会の場所は…あ、シーデリアさんだ」
超人視力で真上から探すと、ゴマ粒よりも小さな人々の中で、金髪お嬢様がハッキリと見えた。
簡易作りな交換所で、チョコマカと動きまわってお客さんを集めている様子は、なんだか人形劇のようで可愛い。
「あはは…と、周囲に危険は…うん、なさそうだな」
専属護衛のメイト長である黒髪のアリスも側にいて、更に交換所でチケットを求める人々を仕切りながら、自警団の人たちも目を光らせている。
「…周囲も、怪しい人物や気配はなし。えぇと、マイマイ商会は…」
視線を動かして、火炎魔法の魔方陣が描かれた羊皮紙をお守りに偽装して配布をしている、テロ集団のお店を見る。
「…まだ配ってる…。いったい、どれだけの羊皮紙を持ち込んでるのか…」
とはいえ、開店祝いのお守りを受け取る人々は、むしろ高級商店グラン商会の割引チケットが目当てらしく、皆お守りを受け取るというよりも競って奪うような迫力だった。
そして、件のお店から見えない建物の陰などでは、一般民に変装をした衛士隊たちが、油断無くお店を注視している。
「こっちも大丈夫…ん?」
街全体が見下ろせる程の俯瞰だから、気付いたのだろう。
お店が正面から見える、潜む衛士隊よりも更に離れた店舗同士の隙間みたいな狭い裏路地で、一人のフードマンが、ジっと身動きもせずに件の商店を監視していた。
「……なんだろう…なんか気になるな」
フードを深く被っている男性とはいえ、特に怪しい出で立ちでもない。
それでも正人が気になったのは、正人自身も自覚出来ていない、微弱な悪意を発していたからであった。
まだ日中という時間帯もあるのだろう。
街全体では、特に犯罪者の悪意は、息を潜めている感じ。
とにかく正人は、フードマンに注意をしつつ、街壁外の周囲を探り、テロ組織のボスの気配も探し始めた。
「それにしても…街の外で 身を潜められるとすれば…」
見回すと、港が接している西の海や、砂漠とか草原へと続く街道が南北へ延びていて、海の反対方向の陸側には、少し離れて小高い山がある。
「常識的に考えれば、山だけど…」
果たして、街で火炎テロを起こそうと企んでいる人物が、そんな常識的な隠れ方をするだろうか。
「ふむ…あ、あの森って…」
山の手前から北方へ大きく曲がった、草原地帯へと続く街道沿いに少し深い森があり、そこは、髭のリーダーが街の開墾計画に従って開拓を請け負っていた場所だ。
そう思い出すと、この世界に来て仕事の無い自分の面倒を見てくれた中年男性の、人懐っこい笑顔が思い出される。
「リーダー、早く仕事を始めたいだろうな…」
などと別の事を考えてしまうと、まだ悪意探索の能力に支障が出る事を、現在の正人は自覚が出来ていなかった。
再びシーデリアやフードマンへと意識を向けて、火災テロだけでなくお嬢様の身の安全を護る事を、あらためて意識した。
滞空したままで特に緊急という事態も起こらず、やがて太陽が西に傾いて、遠くの海へと沈んでゆく。
「…今のところは、コレといった危険は無し。ん?」
マイマイ商会のお守り配布が、なにやら終了したらしい。
お守りというか、割引チケットと交換するためにお守りを貰おうと押しかけていたお客さんたちの間に落胆が広がり、その様子を衛士隊と一緒に見張っていた自警団の若い団員が、シーデリアの交換会場で警護を務めるドングリウルたちの元へと走る。
「お守りが底を尽きたのか…」
そう理解をして、気になっていたフードマンを見ると、団長へ報告に走った若い団員と同じようなタイミングで、街の門へと小走りで急いでいた。
「やっぱり、お店の様子を見張っていたんだ…っ!」
自分の感働きに喜びつつ、シーデリアの周囲に危険が無い事を再度確認して、上空から早歩きのフードマンを追跡する。
「北の門へ向かってるのかな…やっぱりそうだ。…門から出して貰えたって事は、身分証は持ってるのか。しかし、こんな時間にどこへ…?」
フードマンは背後を気にしつつ、ランタンを灯して草原へ続く暗い街道を急ぎ、そして森へと潜んで行った。
「森? なんで――ハっ!」
正人の頭へ、閃きが降りてくる。
「あの人物は、あきらかにマイマイ商店を監視してた。この時間にお守りが品切れになって…日が暮れ始めているのに、急いで森へ向かっている…」
そしてその森は、髭リーダーが開拓計画を延期されてしまった場所でもあった。
「…もしかして、あのフードマンはテロの仲間で、お守りが無くなった事を、テロの隠れ家へ報告に行った。その隠れ家が、あの開拓延期になった森に…っ!」
そう考えると、頭の中でパズルがカチカチと綺麗に嵌まる感覚が。
「とにかく、確かめようっ!」
森の上空へ素早く飛んだ正人は、空から透視能力を使って森を探索し、フードマンを見付ける。
「いたっ! 森の奥へ向かってるぞ…あっ、小屋があるっ!」
足下の悪い森の中を頑張って進むフードマンの向かう先に、山小屋と呼ぶには大きな、木製二階建ての建築物があった。
そして正人が、魔法を使える悪意を意識すると。
「………いたっ!」
木造屋敷の二階の、奥と思える場所から、魔法使いの悪意が、強く感じられる。
そして、正人がまずは自警団へ報告に向かおうとした、その瞬間に、事態が急転を見せた。
~第二十八話 終わり~
繁華街を貫く大通りの、中央に噴水のある広い十字路で、シーデリアの支店が簡易式の交換所を設け、道行く人々へ呼びかける。
『皆様、こちらの会場にて現在、グラン商会の特別割引チケットの交換配布を致しております♪ チケットをご希望の方は、こちらの品物と交換を致しております♪』
支店長であるお嬢様自身が声を張り、メイド長がチケットを掲げ、店員さんたちが中身を抜いてあるマイマイ商店のお守りを、一際高く掲げていた。
シーデリア自身が交換所で頑張る事で、犯罪組織はより「お嬢様ごときが必死」と思い込むと、シーデリアは読んでいる。
そして、町内会の人たちの噂話で聞きつけていた、主に主婦の方々も、お守りを持参して交換開始を並んで待っていた。
交換所の警備という名目で、自警団の女性団長ドングリウルと女性副団長のシーム、更に自警団員たちが六人が、周囲に気を配っている。
「ずいぶんと、人が集まりましたね…」
「団長、わたし、緊張してます…っ!」
身を固くする新人の女性団員へ、優しく告げる副団長。
「大丈夫ですよ~。万が一にも 火炎魔法が発動されたとしても、対策は考えてありますから♪」
何者かによって、このオドサンの街へ持ち込まれた、火炎の魔方陣が描かれた羊皮紙。
マイマイ商店というナゾの新店舗によって、お守りに偽装されて店舗開店の配り物として、既に広く人々の手へと渡ってしまっている。
衛士隊と自警団は、シーデリア発案の「グラン商会の割引チケットと交換して羊皮紙を回収」という作戦を承認し、今はその作戦を実行中なのであった。
どれ程の羊皮紙が集まるかは未確定だし、集める事そのものも危険ではある。
もし今この瞬間に、テロ組織が火炎魔法を発動させたら、街はパニックに陥るだろう。
しかし現状、シーデリアの作戦以上に被害を防ぐ手立ては無いのだ。
「もし魔法が発動されても、この中央通りなら 燃える建物もないですし…」
大きな噴水もすぐ近くなので、もし人的被害が出ても、大怪我に繋がる可能性を最小限に収められる。
「とにかく…私たちは出来うる限り、そして早急に、皆が手にしている羊皮紙を集めきるのです!」
今も、チケットとの交換を聞きつけた人々が、衛士隊が密かに見張っているマイマイ商店へと、お守りを貰おうと押しかけていた。
「衛士隊の作戦は、一旦でもマイマイ商店のお守りを品切れにする事です。新たな羊皮紙の街への持ち込みは、既に衛士隊によって設定された様々な持ち込み禁止品とともに、不可能となっていますから…」
なので、現在マイマイ商店にある在庫のお守りで、この街への羊皮紙拡散は終了となる筈である。
勿論それは、衛士隊と自警団にとって希望的な計算という側面も、否めない。
しかし現状では、精一杯の対応策でもあった。
賑わう交換所を注視しつつ、ドングリウルたち自警団も、今は作戦の成功を祈るしか出来ない。
羊皮紙の回収完了が先か、犯罪組織に気付かれてしまうのが先か。
ジリジリとした焦燥感に追われながら、ただ時間だけが過ぎてゆく。
距離を開けた混雑も一段落して日が沈みかけた頃、交換所へ、ある意味で待ちに待っていた報告がもたらされた。
自警団員でも足早な青年が、息を切らして駆けて来る。
「え、衛士隊よりの報告をいたします! 件の商店のお守り配布が、品切れにより終了致しました!」
「そうか…っ!」
少なくとも、危険な羊皮紙のこれ以上の拡散だけは、防げた。
「これで…あとは、マイマイ商店への衛士隊の突撃を待つだけだ…っ!」
シーデリアたちが集めている羊皮紙は、荷物の配送業者に変装をした衛士たちの荷車によって、街の中でも広い公園の池がある中央へと、運搬されている。
もちろん、大通り交差点中央での交換所開設や、清掃を理由とした公園の使用禁止も、街の行政者からの許可を得ての実行であった。
「さて…あとは」
「こ、交換に来る方たちが、皆…チケットとの交換を、し終われば…っ!」
ドングリウルもシームも、魔方陣が発動する際の魔法の光が発せられない事を、今は祈るのみである。
数時間と前になる、この日の朝。
「今日いよいよ、羊皮紙とチケットの交換だ。たしか、お昼過ぎからだったよな…っ!」
シーデリアからの連絡では、繁華街の大通りで、午後から開催されるとの事。
「とにかく午前中は、いつも通りで、ボスの気を探ろう!」
午後の交換会が開催される時には、正人は仮面ヒーローとなって、密かにシーデリアの警護をすると、お嬢様本人だけでなく自警団にも伝えていた。
なので、午前中はいつも通りの廃鉄回収で走り回りながら、街の中でボスの悪意を探す正人。
「…やっぱり、感じられないな…」
まだ午前中の間に、急ぎ足でいつもの仕事を終えると、業者へ荷車を返却して日当を受け取って、人のいない場所でヒーロー姿となり、超高速で街の上空へジャンプをする。
「一番目立たないのは 街のかなり上空だから…それっ!」
一瞬で五百メートル程にまで飛翔をすると、滞空しながら街を見下ろす。
「交換会の場所は…あ、シーデリアさんだ」
超人視力で真上から探すと、ゴマ粒よりも小さな人々の中で、金髪お嬢様がハッキリと見えた。
簡易作りな交換所で、チョコマカと動きまわってお客さんを集めている様子は、なんだか人形劇のようで可愛い。
「あはは…と、周囲に危険は…うん、なさそうだな」
専属護衛のメイト長である黒髪のアリスも側にいて、更に交換所でチケットを求める人々を仕切りながら、自警団の人たちも目を光らせている。
「…周囲も、怪しい人物や気配はなし。えぇと、マイマイ商会は…」
視線を動かして、火炎魔法の魔方陣が描かれた羊皮紙をお守りに偽装して配布をしている、テロ集団のお店を見る。
「…まだ配ってる…。いったい、どれだけの羊皮紙を持ち込んでるのか…」
とはいえ、開店祝いのお守りを受け取る人々は、むしろ高級商店グラン商会の割引チケットが目当てらしく、皆お守りを受け取るというよりも競って奪うような迫力だった。
そして、件のお店から見えない建物の陰などでは、一般民に変装をした衛士隊たちが、油断無くお店を注視している。
「こっちも大丈夫…ん?」
街全体が見下ろせる程の俯瞰だから、気付いたのだろう。
お店が正面から見える、潜む衛士隊よりも更に離れた店舗同士の隙間みたいな狭い裏路地で、一人のフードマンが、ジっと身動きもせずに件の商店を監視していた。
「……なんだろう…なんか気になるな」
フードを深く被っている男性とはいえ、特に怪しい出で立ちでもない。
それでも正人が気になったのは、正人自身も自覚出来ていない、微弱な悪意を発していたからであった。
まだ日中という時間帯もあるのだろう。
街全体では、特に犯罪者の悪意は、息を潜めている感じ。
とにかく正人は、フードマンに注意をしつつ、街壁外の周囲を探り、テロ組織のボスの気配も探し始めた。
「それにしても…街の外で 身を潜められるとすれば…」
見回すと、港が接している西の海や、砂漠とか草原へと続く街道が南北へ延びていて、海の反対方向の陸側には、少し離れて小高い山がある。
「常識的に考えれば、山だけど…」
果たして、街で火炎テロを起こそうと企んでいる人物が、そんな常識的な隠れ方をするだろうか。
「ふむ…あ、あの森って…」
山の手前から北方へ大きく曲がった、草原地帯へと続く街道沿いに少し深い森があり、そこは、髭のリーダーが街の開墾計画に従って開拓を請け負っていた場所だ。
そう思い出すと、この世界に来て仕事の無い自分の面倒を見てくれた中年男性の、人懐っこい笑顔が思い出される。
「リーダー、早く仕事を始めたいだろうな…」
などと別の事を考えてしまうと、まだ悪意探索の能力に支障が出る事を、現在の正人は自覚が出来ていなかった。
再びシーデリアやフードマンへと意識を向けて、火災テロだけでなくお嬢様の身の安全を護る事を、あらためて意識した。
滞空したままで特に緊急という事態も起こらず、やがて太陽が西に傾いて、遠くの海へと沈んでゆく。
「…今のところは、コレといった危険は無し。ん?」
マイマイ商会のお守り配布が、なにやら終了したらしい。
お守りというか、割引チケットと交換するためにお守りを貰おうと押しかけていたお客さんたちの間に落胆が広がり、その様子を衛士隊と一緒に見張っていた自警団の若い団員が、シーデリアの交換会場で警護を務めるドングリウルたちの元へと走る。
「お守りが底を尽きたのか…」
そう理解をして、気になっていたフードマンを見ると、団長へ報告に走った若い団員と同じようなタイミングで、街の門へと小走りで急いでいた。
「やっぱり、お店の様子を見張っていたんだ…っ!」
自分の感働きに喜びつつ、シーデリアの周囲に危険が無い事を再度確認して、上空から早歩きのフードマンを追跡する。
「北の門へ向かってるのかな…やっぱりそうだ。…門から出して貰えたって事は、身分証は持ってるのか。しかし、こんな時間にどこへ…?」
フードマンは背後を気にしつつ、ランタンを灯して草原へ続く暗い街道を急ぎ、そして森へと潜んで行った。
「森? なんで――ハっ!」
正人の頭へ、閃きが降りてくる。
「あの人物は、あきらかにマイマイ商店を監視してた。この時間にお守りが品切れになって…日が暮れ始めているのに、急いで森へ向かっている…」
そしてその森は、髭リーダーが開拓計画を延期されてしまった場所でもあった。
「…もしかして、あのフードマンはテロの仲間で、お守りが無くなった事を、テロの隠れ家へ報告に行った。その隠れ家が、あの開拓延期になった森に…っ!」
そう考えると、頭の中でパズルがカチカチと綺麗に嵌まる感覚が。
「とにかく、確かめようっ!」
森の上空へ素早く飛んだ正人は、空から透視能力を使って森を探索し、フードマンを見付ける。
「いたっ! 森の奥へ向かってるぞ…あっ、小屋があるっ!」
足下の悪い森の中を頑張って進むフードマンの向かう先に、山小屋と呼ぶには大きな、木製二階建ての建築物があった。
そして正人が、魔法を使える悪意を意識すると。
「………いたっ!」
木造屋敷の二階の、奥と思える場所から、魔法使いの悪意が、強く感じられる。
そして、正人がまずは自警団へ報告に向かおうとした、その瞬間に、事態が急転を見せた。
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