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☆第四話 目指せ小説家デビュー!☆
しおりを挟む正人は、シーデリア嬢を街まで送る事にした。
(色々と聞かれても 答えづらいけど…こっちも、何も知らないし)
送り届ければ自然と街まで行けるし、その間に、この世界の事を聞きたい。
オドサンの街は、海とは反対の方角で、成人男性の足でも、歩いて半日程かかるらしい。
(ふむ…もう超人って事だけは、バレてるし。飛んで行くか)
「シーデリア様、僕の事は、どうかご内密に…」
「まあ、ナゼですの? マサト様ほどの闘士様でしたら――ひゃあ!」
問い返すレディーをお姫様ダッコで抱えて、ユックリと飛翔。
森の樹々よりも高く上昇をすると、シーデリアは怖くて眼を閉じ、正人の首へと抱き付いて来た。
「ご心配なく。シーデリア様を落として仕舞う様な事など、決して致しません」
「は、はぃ…まぁ…♪」
恐る恐るに目を開けた少女は、森の上空という、生まれて初めて見た景色に感動し、大きな瞳を潤ませている。
「それでは、ぉ…オドサン? の街まで、空の散歩を楽しみましょう」
「はぃ…」
怖がらせないようにユックリと移動を始めて、少しだけ速度を上げる。
太陽が西へ傾く時間なので、向かう東の地平線には無数の星が煌めており、山の遙か向こうには、都市らしい明かりも見えて来た。
飛びながら、正人はシーデリア嬢へ質問する為の設定を、考える。
「えぇと…実は僕は…海で遭難したらしく、人のいない浜辺で倒れていたところを、急ぎの旅人に助けられまして」
「まぁ…」
ほぼ記憶を無くしている自分にマサトという名前を与え、特に怪我などしていないマサトに安心して、旅人は急いで去って行った。
「という次第なのですっ!」
「そ、そうなの ですか…」
(よしっ、納得させられたぞっ!)
と正人は思っているけれど、シーデリア嬢の美顔は、怪訝を隠せていない。
旅人は、ナゼ服をくれなかったのかしら?
記憶喪失の遭難者を見付けたら、近くの漁村へでも連れて行く方が、自然なのでは?
とか色々と考え、そして目にした超人的能力や、今も空を飛んでいる事などを含め「マサトは過去を知られたくないのでは…」と推察をして、お嬢様は詮索を止めた。
「それで…僕からも少々、お尋ねしたい事が…」
「はい♪ なんなりと」
ユックリと一時間ほどの帰還飛行で、正人もこの世界というかオドサンの街について等、色々と聞いた。
「書物ですか? そうですね…最近は、私たち庶民でも購入が出来る程に、生産も価格も安定している。と 聞かされております♪」
とか。
「英雄物語や魔物討伐の冒険譚…古くからの伝承など、昔ながらの書物も喜ばれておりますが…最近は、新たに創造された物語などが、人気のようだと聞かされております♪」
など。
「新たに創造…?」
「はい♪ 主君の仇を討った四十七人の剣士たちの物語や、伝承にはない新たな英雄物語などです。皆様も、物語の創作に とても意欲的なようですわ♪」
「そ、そうなんですか…っ!」
(ならば…僕の小説だってっ!)
子どもの頃から、ヒーローに憧れている正人である。
そのジャンルの創作であれば、正直、誰にも負けない自信があった。
(! それにっ、今はこうして、本当にヒーロー然として人助けもしているんだっ!)
まさしく実体験であり、自分以上にリアルなヒーロー物語を創作できる人間なんて、この世界にはいないであろう。
これはもう、夢にまで見た小説家としての生活も、確実だ。
その為のスタートとして、暫しの仕事勤めなど、苦でも無い。
(僕の人生はっ…いま花開いたのだっ!)
ヒーローとして人を助け、小説家として寿命まで生きてゆける。
そう思うと、嬉しくて堪らない。
「あっ、有り難う御座いますっ! 僕、頑張りますっ!」
「? は、はい…」
街へ到着をした頃には、陽もすっかり沈んでいた。
「それでは、これにて 失礼をいたします」
「マっ、マサト様…っ!」
大都市オドサンの南大通りに面した大店「グラン商会」の裏口へ、シーデリア嬢をソっと下ろした正人は、せめてお礼をと引き留めるお嬢様へ、笑顔で別れを告げて飛び去る。
「…マサト様…ハっ!」
シーデリア嬢は、紳士的な葉っぱマスクの青年を見送りつつ、見てしまった男性のシンボルが頭を過ぎり、また頬を染めた。
「! シーデリアお嬢様っ!」
佇む真っ赤なお嬢様を発見したのは、会話に気付いて門から出て来た、年上眼鏡侍女のアリス。
夜の街を飛びながら、正人のワクワクは止まらない。
「とにかくっ! この街で仕事を探して、住む処と紙とインクを手に入れて…っ! うはは~っ♪」
約束された小説家への人生を想い、正人は遙か上空の成層圏まで飛び上がり、全力で回転してしまったりした。
翌朝。
朝陽の中で見たオドサンの街は、いわゆる中世RPGの街に似ていて、住宅街の殆どが木造の二階建て。
人々の服装も簡素で、外灯などの技術も、電気ではなく魔法の光を使うらしい。
無一文な正人は街で色々と聞き回り、日当が貰える肉体労働を見付けた。
「街の外を開発するから、岩とか大木を取り除く作業か。今の僕にピッタリだ♪ とはいえ…超能力とか、バレない方が 静かに暮らせる筈だよね」
それはきっと、どこの世界も同じだろう。
それから数日、怪力を生かしつつも岩の重さに苦労する芝居などをして、日当を貰う日々を過ごす。
「お前、マサトって言ったな。見てくれの割りに、体力があるじゃあねえか。気に入ったぜ、ガッハッハ!」
ヒゲ中年の現場リーダーに言われ、仕事仲間たちとも打ち解けてゆき、安い宿屋も教えて貰った。
住むところを整えて、一番最初に買ったのは、もちらん紙とインクとペン。
借りた自室で、服やベッドを整えるよりも、まずは小説の創作を始めた。
そんな一ヶ月の間、シーデリア嬢がメガネ侍女長のアリスを伴い、日々お忍びで街へ出てマサトを探していた事など、知る由も無い。
正人の生前の生活習慣というか、今は食べなくても死なない身体だけど、コーヒーを飲みながらの小説執筆とか、そういったお金も使ったりしていた。
ヒーローとしての超能力を得て、悪人退治や攫われた女性の救出などを果たした正人は、根源的な願望が叶っていると言って良い。
それでも小説家になりたいのは、まさに、生前の人生の後半を費やした「夢」だからである。
「服も食事も、なんとかなって来たし…小説も、いよいよ完成だっ!」
正人は、朝から夕方までの肉体労働と、大衆浴場で汗を洗い流す以外の、全ての時間を執筆に費やしたのだ。
そしてある朝の、窓から差し込む朝陽を受けて、マサトの歓声が沸き上がる。
「っ出来たぞおおおっ!」
ついに描き上げた、全二十ページの中編小説。
「タイトルは『超人アダムの冒険』だっ! ぅぉおおっ、小説が完成したあああっ!」
感涙に咽せるのは、人生の成功が約束された小説を描き上げたという達成感。だけではない。
前世では小説をパソコンで書いていたので、細かい修正や書き直しも、作業としては、さほどの苦労も無かった。
しかし紙にインクで書くという事は、一文字でも失敗したら、用紙一枚を全て書き直す。
という作業であった。
「うぅ…大変だったなぁ…」
慣れない作業に四苦八苦しながら、あるいは失敗続きの自分を投げ出してしまいそうになったりもしつつ、苦労を乗り越えて完成した原稿は、何物にも代えられない宝物。
「仕事は昨日で辞めさせて貰ってるしっ! 早速っ、出版社へ持ち込みだぁっ!」
手持ちの服の中から、割とこざっぱりした服装で自室から駆け出した正人は、常人としては目を見張る程の駆け足で、出版社へと向かった。
オドサンの街の大商会には、王国から認められて運営されている「王立会社協会」もあり、そういった組織は、街の中央に整理された大商業地域に集められている。
シーデリア嬢の実家であるグラン商会も、中央地域より南側にお店があるものの、立地としては中央寄りだ。
街の人々に聞いた話や、雑貨屋さんで購入をした小説などで住所を調べていた正人は、中央会社地区で、件の会社を見付ける。
「海竜印刷出版商会…ここか♪」
四階建ての赤煉瓦で、小さいけれど立派な感じである。
隣接している建物も、デザインはそれぞれだけど、同じ位の高さで建てられていた。
「……っそれでは…っ!」
海竜出版の入り口に立つと、やはり緊張は拭えない正人。
これまでの前世、何年も何年も小説の持ち込みや賞レースへの投稿を続け、デビューどころか激励賞にすら、引っかかった事がないのだ。
「ごくり…ぃやっ、大丈夫だっ! この世界はっ、ヒーロー物の娯楽にっ、飢えているんだっ! 僕はっ、この小説でっ、小説家としての人生をっ、歩み出すんだっ!」
自分に言い聞かせて奮い立ち、正人は編集事務局のある三階まで、階段を上った。
三階フロアーは、十人ほどの編集作業者たちがいて、みな忙しそうに働いている。
電話もない世界なので、持ち込みは基本、アポ無しだ。
「ぁあの…っ!」
「ん? お、持ち込みですか?」
正人に気付いた、恰幅の良い中年の男性編集作業者が、柔らかい笑顔で挨拶をくれる。
「は、はいっ! ぁあのっ、小説を…っ!」
「ああ、はいはい。では、こちらで拝見 致しましょう」
「あっ、有り難う御座いますっ!」
震えながら、テキストを収めた紙袋を両掌で差し出すと、編集者は両掌で丁寧に受け取って、正人を近くのテーブル席へと、案内をしてくれた。
編集者は、すぐに正人の原稿を開けて、目を通してくれる。
「…………」
(…は、始まった…っ!)
テキストをチェックして貰う緊張感は、高校受験の合格発表にも似ている。
いつまで経っても、それは気絶しそうな心持ちであり、慣れる事などなかった。
正人としては静かな時間が十数分と過ぎて、編集者が、原稿を丁寧に整えて。
ゴクり…。
「いやいや、楽しませて戴きました」
「そっ、それでは――」
はたして。
~第四話 終わり~
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