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☆第十二話 ヒーロー完成!☆
しおりを挟む数分を経て、脱衣室から着替え終わった正人が出て来た。
脱いだ服を小脇に抱え、その身体には、シーデリアが手作りをしたヒーロー・スーツを纏っている。
「に、似合ってますか…?」
「まぁ…なんと凛々しい…♪」
ときめく笑顔の金髪お嬢様と、感心をした美顔の黒髪メイドだ。
二人の感想に、正人もテンションが上がる。
「そ、そうですか…っ! 良かった~っ! もし、この衣装が僕に似合わなかったら、どうお詫びをすれば良いかと…っ! でもっ、このスーツ本当にっ、格好良いですよっ!」
平均よりも少し髙い身長に、ある程度は鍛えていたので引き締まっている身体。
そして平均より整った面立ちは、ヒーローに憧れ続けた青年の正しい心が、キリっと逞しく表れていた。
赤色と青色で縦分けされたヒーロー・スーツは、ワンピース・タイプではなく上下に二分割で、下はスラックスで、上は腰まで丈がある。
ベルトも様になっていて、サイズも少しユッタリと作られているので、動くのに支障は無い感じだ。
背中のマントは足首までと長く、背後から見た身体のシルエットを隠してくれている。
そして、金属製の胸部エンブレムとマスクは、繊細な羽のディテールが綺麗だ。
手袋とブーツは、正義の証と言える白色で、スーツやマントの黄色と一緒に、ワンポイントとして機能している。
「とっ、とても素晴らしいスーツですっ、シーデリア様…っ!」
色味が目に痛々しい以外は、まさしくヒーローらしいデザインであった。
「マサト様に、とてもお似合いで…私もアリスも、頑張った甲斐がありました♪」
「ぁぁあっ有り難う御座いますっ! 僕はっ、このスーツでっ、街の皆さんの平和を――ムっ!」
感謝を述べる正人は、窓のずっと向こう、商会通りの歩道に、悪の気配を感じ取る。
「? マサト様、いかがされまして?」
衣装に不具合があったのではと、お嬢様は困惑をした。
「…この近辺で、犯罪行為が行われようとしてます! 僕は、これからすぐに 対処をしに向かいます!」
青年の確信ある表情と言葉に、黒髪メイドも驚いている。
「マ、マサト殿は、そのような予知もできるのですか?」
「予知では無く、気配が見えます。この店舗から、北へ四ブロックほど離れた…少し狭い裏路地でしょうか!」
言いながら、正人がリビング北側の窓を開けると、外は陽が落ち始めて、薄暗く変わりつつあった。
「その地区でしたら…最近、物取りが出没をすると、皆が噂をしておりますわ!」
「なるほど…それでは、僕は現場へ向かいます! 失礼します!」
新たなスーツを身に纏ったヒーローが、窓から空へと飛び出して、北の裏路地へと飛翔をする。
「マ、マサト殿…本当に、魔法の発光もなく…」
手を振って見送ったシーデリアは、唖然とするメイド長のアリスに、ワクワクの笑顔で言い出した。
「アリス、アリス♪ 私たちも、現場へ急行ですわっ♪」
「えっ…それは、危のう御座います!」
「大丈夫ですわ♪ 物陰からコッソリと、マサト様のご活躍を拝見させて戴くだけ ですから♪」
「あっ、お嬢様!」
アリスの引き留めを聞く前に、シーデリアは玄関から飛び出してしまう。
「…致し方なしっ!」
護衛でもある黒髪のメイド長は、ドレスに隠した防御ガジェットを確認しつつ、お嬢様の後を追って走った。
シーデリアの別宅から四ブロック離れた路上で、裕福そうな初老の男性が一人、帰宅の脚を急いでいる。
「は、早く帰らなければ…っ! 帰って、妻にこの薬を…っ!」
どうやら、病に伏せている奥さんの為に、高価な飲み薬を買ってきた帰りのようだ。
そんな、奥さん想いな男性の前へ、三人組の覆面強盗が立ち塞がる。
「ぃよお、今晩はぁ、旦那さんよぉ」
「なっ、なんだキミたちはっ?」
三人組はみな、黒い覆面と暗い色の帽子で顔を隠しているものの、服装も体格も種族もバラバラ。
リーダーらしいノッポ男は大きなナイフを手に持ち、恰幅の良い小柄な男は両掌から魔法の輝きを放ち、大柄な筋肉質男は大きな掌に大きな棍棒を握っていた。
それぞれの種族は、人間とホビットとオークだろう。
三人は、コンビネーションよろしく初老男性を取り囲むと、カツアゲを始めた。
「大した用じゃあない。懐の金と物を全て、ここへ置いて行きな」
「ケッケッケッ、言う通りにしねぇとさぁ」
「オ、オラたちが、痛い目ぇ、見るんだでぇ」
「馬鹿っ、痛い目見せてやる、だ! 俺たちが痛い目ぇ見てどうすんだっ!」
「? あぁ、アニキ、すまねぇだ」
少々間抜けではあっても、三人の凶器や体格を考えると、従うしかないだろう。
「わ、解った…! 金はやる!」
言いながら、狙われた男性は右掌で、懐からサイフを取り出して、見せる。
しかしリーダーの男は強盗に慣れているらしく、男性がさり気なく背後へ隠した左手も見逃さなかった。
「んん…? 左手に隠しているのは、なんだぁ?」
「こっ、これは…っ!」
男性が、左手に持った薬の包み袋を見せて、説得に掛かる。
「これは、妻の薬なんだっ! 一刻も早く、飲ませなければならないんだっ! 頼むから、金はやるからっ、もう帰してくれっ!」
初老男性の必死な懇願を、しかし強盗のリーダーは、笑う。
「ほほぉ…つまりそれだけ、高価なお薬ってわけか。そいつも売れそうだぁ」
「ケッケッケ、寄越せよ、さぁ」
「やっ、やめてくれ…っ!」
小柄男の差し出す掌から、薬袋を護って後ずさるものの、背後は大柄なオークに塞がれている。
「オラぁ、オラが寄越すだぁ」
「オラに寄越せだ馬鹿」
逃げ場の無い初老男性が、薬袋を死守する為にうずくまった時、四人目の男性の声が、強盗リーダーのすぐ背後から聞こえた。
「馬鹿はお前さんたちだ、この強盗どもよ」
「っうわっ! 何だっ!?」
驚いたノッポなリーダーが、距離を取るために初老老人の向こうへと飛び退く。
悪党たちの包囲から開放された初老の男性は、優しい声に顔を上げて、その一種異様な姿に驚かされつつ、想わず訪ねた。
「あ、あなたは…?」
街灯の明かりの下でも、目に痛い派手なカラー。
顔と胸部を飾る金属の羽は、やはり光を反射して目に痛かった。
見てくれよりも色使いが印象的なマスクの男性が、声を掛ける。
「私の名は、アイアン・アダム。もう大丈夫です。この三人は僕にまかせて、あなたは早く、そのお薬を奥様へ」
「ア、アイアン…? あっ、は…はぃっ!」
ヨロヨロと立ち上がった初老男性を、苦々しく睨み付けるリーダーの目配せで、小柄強盗が魔法攻撃を仕掛けた。
「逃がさないさぁっ! 魔法緊縛さぁっ!」
術者の眼前に光のサークルが出現をして、次の瞬間には魔術のロープが目標へと襲い掛かる。
「うわぁっ!」
光の蔦が、初老男性の脚と、アイアン・アダムの全身に絡み付いた。
「ケッケッケェッ! 暴れ牛十頭すらあ、絞め殺すロープなのさぁっ! これで二人ともさぁっ、煮るも焼くも――」
「大丈夫ですよ」
術者が勝ち誇っている合間に、アダムは障害物など何も無い動きで魔法のロープを引き裂いて、初老男性に絡んだロープも蜘蛛糸の如くで、取り除く。
「あぁ…ぁぁ、有り難う御座いますっ!」
初老男性は、アダムと名乗った猥名ヒーローに感謝を捧げつつ、病床の妻を救う為に走り去った。
「てっ手前ぇっ!」
強盗リーダーは、アダムの異常な怪力を見ながらも半信半疑で威嚇をして、そして恰幅の良い強盗魔術師は、ショックを受けながらもリーダーに続いて凄む。
「どっ、どんな手品さぁっ!」
「む…手品だと…?」
自身の超パワーを手品呼ばわりされて正人がムっとしたのは、自身への侮辱ではなく、力を授けてくれた女神様を侮辱されたと感じたからだ。
「僕のこのパワーは、この世界の平和を護れと、女神様から授けられし聖なるパワーであるのだっ! それを手品などと…女神様への侮辱! もう許さんっ!」
怒りのあまり目から怪光線が出そうになって、マスクの奥がギラりと光る。
「ひぃっ!」
その姿は、まるで人に仇為す怪異のそれだ。
そんな現場を、少し離れた物陰で見守っている、シーデリアとアリス。
「アリスっ、聞きましてっ?」
「はい、お嬢様。どうやらマサト殿は、女神からの祝福を受けた…いわゆる聖人であると」
「ここここのっ、化け物さぁっ!」
アダムに怯えた魔術師強盗が、持てる限りの攻撃術式を向けてきた。
「火炎氷槍雷撃竜巻緊縛停止――」
「なんのっ!」
叫ぶに任せて放たれた様々な攻撃魔法を、アダムは腰に両の拳を充てて胸を張り、大胸筋だけで全てを受ける。
――ッゴオォッ、シャキンンッ、バリバリバリッ、-ビュゴオオォッ!
「なるほど、こうやるのだな」
あらゆる属性の魔法攻撃を受け流すアダムは、その力を一瞬で覚えて、盗賊団へと跳ね返した。
「っぅわ馬鹿ぎゃあああああっ!」
「なんでなんでなんでさぁっ、ぎひいいいいいいいっ!」
「んだだだだっ!」
三人纏めて魔法攻撃を受けた強盗団は、ボロボロに焼け焦げたり氷結したりしながら、最後の時間停止で硬直しながら気絶。
攻撃を受けた際にオークが手放した棍棒は、アダムの頭上へ落下をして、頭に当たって二つに割れる。
「さて、この三人は やっぱり詰め所へ…ん?」
強盗団を退治したアダムの前に、新たな人影たちが現れた。
~第十二話 終わり~
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