異世界に転生した守銭奴は騎士道を歩まない?

ただのき

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15・魔女の秘薬

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 おー。居る居る。門のところまで来ると、まるで死屍累々といった様が目の前に広がっていた。
 いや、ゾンビの様に青褪めてたり土気色した顔色をしてても、一応生きてはいるんだけどさ。
 「うーあー」と意味のない言葉を吐きながら身じろぐ様は本当にゾンビみたいだった。
 まあ、この辺にはアンデット系の魔物は居ないから実物は見た事が無いんだけど。

「この様な醜態を晒してしまい、申し訳ありません」
「いえ、誘ったのはこちらですし、こうなる事は何となく分かっていましたから」
「しかし、最終的に選んだのは彼らなので。……一番飲んでいた貴殿が平然としておられたので油断しておりました」
「あー、自分で言うのもなんですが、この辺では少し名の通った大酒飲みなんですよね。なので、釣られて飲んだ連中はこうなる事は多いんです」

 さり気なくでもないけど、騎士サマに交じってゾンビ化しているユゥバ達を視線で示しながら苦笑する。
 一体いつから居るのかは知らないけど、このままだと辛すぎて仕事にならないから来たのだろう。

「カニス」
「はーい。持って来てますよー」

 小振りの水瓶を持ったカニスが私の後を着いて来る。

「やあ、ユゥバ。良い様だね?」
「……はやく、くすりを」

 自身の声ですら響くのか、ユゥバは「うっ」と呻いて頭を抱えた。

「ハイハイ。どーぞ」

 震える手で、何とか直径一センチ程度の丸薬を運んだユゥバの口に、カニスが水瓶から柄杓ですくった水を押し込むように流し入れた。

「ウゲホッ!ゴホッゴホッ!」

 咳き込み地面で身悶えをするユゥバを見下ろした。
 咽て咳き込むのは水を強制的に流し入れたからで、身悶えているのは丸薬のあまりの不味さ故だと前に言っていたっけ。
 今回は特別に常のよりも効果のある、でもそれに反比例するように味も不味い物を渡したからか、ユゥバが起き上がる気配が無い。
 仕方が無いので次に行く事にした。
 奴らは常連連中なので、抵抗なく素直に飲み込んでいく。
 効き目はやっぱりいつも通りのてき面で、悶える程の不味さが口の中に残っているのか顔を顰めてはいるものの、最初の方に飲ませた奴は自力で起き上がっている位だ。
 飲んで直ぐに効果が表れるとか、この世界の薬って不思議だよね。
 前の世界ではあり得ない現象に、いつみても凄いなと思ってしまう。
 まあでも、そんな薬、母さん以外で作れてる人を未だに見た事が無いけど。
 けど、ユゥバだけは未だに起き上がって来ない。この味に慣れている筈の彼だけど、一体どれだけ不味かったんだろうか。
 絶対に飲みたくは無いなと、改めて思った。

「さて、効果の程は彼らが示してくれましたが、貴方方はどうされますか?」

 一応聞いてみるけれど、選択肢は有るようで無いようなものだ。
 一番近くに居た人に丸薬を差し出すと、ゴクリと息を飲んだ後、恐る恐る手を伸ばしてきた。
 そして、意を決した様に口に含むと、舌に触れたのか、あまりの不味さに反射的に吐き出そうとしているのが分かる。

「はいはーい。折角たいちょーが用意してくれた物を吐き出すなんて、あり得ないよ?」

 吐き出す為に口を開けた瞬間を狙って、カニスは水を流し入れ、吐き出せない様に顎を抑えた。その素早さはいつ見ても真似出来そうにない程だ。
 口元を抑えた方が水も漏れないので良いのだけど、野郎の唇なんかには死んでも触りたくないらしい。
 喉が動き、飲み込んだ事を確認して「手間掛けさせんなよな。次からは自分で飲み込めよ」と言いながら離れると、私の後についてくる。
 いつもの間延びした語尾をどこに置いてきたのかと突っ込みたくなるけど、カニスの闇が垣間見える気がするから止めて置こう。
 とまあそんな面倒な工程を、ゾンビ化している奴全員に施していかなくてはならない。

「我々も手伝いましょう」
「あ、ではお願いしても構いませんか?」

 一人一人やっていくと、流石に時間が掛かるので丁度良かった。
 エクエスの申し出に、一も二もなく頷いて差し出された掌の上に丸薬を数粒置いた。

「あれ程までの二日酔いを、一粒で直ぐ様回復させる効果持った薬は初めて見ます」
「でしょう?ちょっとした知り合いの魔女に頂いてるんですよ。飲みに行く度に相手が酷い二日酔いになるので、良い薬はないかと相談したら、同じ様な経験があるとかで作った事があると。あ、紹介は出来ませんよ?その魔女の所に押し寄せられると彼女が迷惑するので。それから、今回はサービスですけど、次回からは買い取りですから。しかも、その場で飲む以外での販売はしませんよ?一応門外不出のレシピだそうなので」

 渡した丸薬をしげしげと見詰めているので、いつも初めて渡す人にはしている説明をする。
 嘘じゃないけど、本当でもない、かな。
 製作者の母さんは肉親だから知っている内に入るし、遺伝なのか、生まれてから鍛えられたせいか、母さんもワクだし。
 一番初めに開発したのはご先祖様の誰それらしい。調合レシピは普通に明かさないものらしい。多種類の薬草を様々な過程をこなして混ぜて行くから、素材だけ分かっても。作れるとは思わないけどね。
 あと、そんな効能の高い薬を作れるのなら、他の物も作れるだろうと押し寄せて来られると母さんも迷惑するだろうし、何より私も迷惑するので絶対に教えない。
 まあ、現時点で紹介しろとしつこい奴も居るけど、そういう輩はいつの間にか消えてるんだよね。
 ……誰が何をしているのか何て、私は知らないよ?

「さぞかし優秀なのでしょうが、このような薬を作れる魔女は聞いた事がありませんね」
「まあ、あまり表に出る事が好きではないらしいので、そのせいでは無いでしょうか」

 そう、色々あったらしくて、魔女として目立つ事を避けている。だから、紹介できない面もある。
 まあ、一番は私が面倒臭いからだけど。

「その魔女の方の事をよくご存じなのですね」
「良い飲み相手ですよ。彼女が先に潰れるところを見た事が無いので」
「それは、凄い方ですね」

 エクエスも昨日、私の飲みっぷりを見ているので、それがどれだけ凄い事か分かったらしい。
 感歎し頷いていたかと思えば、ふとこちらをまじまじと見ている事に気が付いた。

「どうかされましたか?」
「いえ、その。魔女という言葉を聞いて一つ思い出した事がありまして」
「どの様な事ですか?」

 普通なら、魔女と聞いて思い出した事と、私の事を見ている事に繋がりは無い筈だ。
 そう思って聞き返してみれば、やけに真剣な目をしたエクエスが居た。

「……時にアウダークス殿。貴殿に姉君か、もしくは妹君など、血縁者の中で近しい年頃の女性は居られますかな?」




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