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ただし、二次元に限ってたんだけど
しおりを挟む「オレ、好きだよ、結月の事」
唐突に告げられた言葉をしばし理解出来なくて、フリーズして足を止めてしまいそうだったけれど何とかそのまま歩き続けた。
(――今コイツ、何て言った?)
『好きだよ』って何が?『ゆづき』って、私の名前か。
『好きだよ』って、どういう意味で?友愛、親愛、隣人愛?
「ハイハイ、私もだよ」って軽口がきけないのは、あまり空気が読めない私にでも分かる程にこいつの纏う雰囲気がいつもとは違ったからだ。
コイツが好意を示してくる時は、いつだって友人に対する軽い“好き”だったのに。
からかっている、とはあまり考えられなかった。
だって、私達の間でこの手の悪戯は暗黙のタブーだったから。
と言うか、どうしてそもそもそんな話になったんだ?
今はイベントの帰りで、話もどのサークルさんが神だったかを話していた筈じゃあ無かったっけ??
受験生だろうという言葉は聞こえない。き、聞こえない。一日だけの息抜きだったんだ。
コイツに至ってはAO入試でもう決まってるからな!ウラヤマ!
取り敢えずはいつも通りに返しておくか。このまま黙ったままだと、ずっと黙ったままになりそうだし。
「言っておくけど、ダチとしてとか冗談でもないから。手を繋ぎたいし、抱きしめてキスだってしたいし、その先だってしたいっていう、恋愛的な意味で、だから」
さ、先を越された!
冗談として流そうとしていた私の心を見透かしたように、佐伯は釘を刺してきた。
しかも、中身がヤケに生々しい。
驚いて反射的にヤツの方を見てしまって後悔する。
そこには、今までにない甘やかな顔つきでこっちを見ているヤツと目が合った。
けれどふと、似たような顔をする時を見た事があるような気がして、私の脳は勝手に回想を始めていた。
そもそもの出会いは、お互いに良い印象では無かった。佐伯に言わせるとクラスメイトとしてではなく、個人的な初対面はもっと前で、もっと最悪なものだったらしいけど。
私からすれば、クラスのチャラ男が何か訳の分からんイチャモンをつけて来たって感じだったけど。
初対面ではそんな感じだった私達も、何やかんやあって仲良くなり、こいつの“恋に恋してる”のを応援したり、一般人だったクセに私のオタイベに着いて来るので荷物持ちや売り子、コスプレとかさせてみたりするようになったんだっけ。
“本当に好きになった子と付き合いたい”って、“恋に恋してる”と言わずして何と言う。
まあ、コイツの場合、全部今まで相手の女子からの告白で付き合うようになって、たいていの場合が「思ってたのと違う」って振られか浮気されてバイバイするパターンだったらしい。
好きになれるかもと思えた子にも、本当に好きになる前に「佐伯君は私の事が好きで付き合ってくれてるんじゃないもんね。今までありがとう」って振られたらしいし。
愚痴を聞かされるたびに『相変わらず、なんて二次元』と内心で笑っていたのは秘密だ。まあ、バレていそうだけど。
そもそも、告白してきたのはそっちなんだし、「君の事はよく知らないけど、それでも良い?」って佐伯は前もって言ってるんだから“まだ好きじゃない”のは当たり前なんだから、好きになってもらう努力をしろよと相手の女の子に突っ込みを入れたかった。
話を聞くのはいつも佐伯だけだから、佐伯の主観でしか判断できなかったけど、それでもコイツがマメなのは身をもって体験してる。
それに、佐伯が気の良いヤツってのは殆どの奴が周知しているような事実なんだから、ゼロじゃなくても佐伯に非は少なかったと思うんだよね。
顔良し、運動神経良し、頭もそこそこ良し、性格良し、おまけに金払いも良い高スペックな奴のどこが不満なのか聞いてみたいものだと思ったのは一度だけじゃない。
二次元を愛していると公言して止まない私ですら、『コイツが彼氏だったら幸せにしてくれそうだな』と思う位だ。
もっとも、同時に現実で付き合う様になれば、高スペック過ぎてしんどいだろうなとも思うけど。
二次元だったら好きな自分になれるし、比較対象が居ないから良いけど、現実ではそうはいかない。
頭とか運動神経の良し悪しはともかく、コイツと並んでも遜色ない程度に可愛くなければ劣等感に苛まれるだろう。
一見、性格が良すぎるのも難だ。誰に対しても割とマメなのは『自分と周りへの態度にあまり差が無い』と不安になるし、そつが無さ過ぎるのも『私って必要かな?』って思わされる。
そんな高スペックの奴が、告白?誰に?私に?しかも多分初めての?
何それ笑えない冗談だ。けど、冗談だというのは先に奴に否定されている。
――グルグルと考えてしまう時点で、もう答えは決まっているのだという事を、この時の私は理解していなかった。
何と言っていいか分からず言葉に窮していると、気が付けば家まで着いていた。
「どこまで行くんだよ。結月んチ、通り過ぎるけど」
その声にハッと顔を上げれば、確かに家の前を通り過ぎてしまうところだった。
そんな事にまで気付かないほど、思考の海にダイブしていた私を佐伯が笑う。
「念押ししとくけど、好きだって言ったのは嘘じゃないから」
「じゃあ、また学校で」と佐伯は来た道を戻り始めた。
その後ろ姿を見ながら、最近では当然のように思えていた送って貰っていた事も、普通は当然じゃあ無かった事を思い出す。
暗い夜道なら兎も角、友達と遊んだ後、まだ夕方なのに家まで送るのは、普通じゃないでしょ?と言われている様な気がした。
この夜、人生で初めて、大好きな二次元が手に着かなかった。
――そしてこの日から、ヤツの攻撃は始まった。否、もっと前からだという事を、私は後に知る事となる。
学校に行けば、クラスはもう違うにも関わらず当然のように隣でご飯を食べているし、帰りも勉強を見てくれた後、家まで送ってくれる。
視線が甘やかなものに感じるのは、ヤツが意図的にそうしているのか、私がそう意識しているからなのか。
気のせいでなければ、オタク友達の視線も何だか生暖かい気がするし。
それでも頑張ってスルーして行った。
バレンタインはキャラに送るつもりで作った物――実際に送ったのは作者にだし、それは当然既製品――のついでに余った物を上げただけだし。
「お返しは期待しててね」なんて、甘ったるい顔で意味深に言われたけど、「ハイハイ十倍返しヨロ」なんてこの頃には軽く返せるようになったし。
「ふにふにー」なんて言いながら頬っぺただのを触って来る頻度が前よりも増えたけど、それも動揺せず、前みたいに「デブで悪かったな!」って叩き落とせる様にもなった。
でもその間も、ずっと、ずっと考えていた。
コイツは私とどうなりたいのか。
だって、よくよく思い出せば、「好き」だとは言われたものの、「付き合ってほしい」とは言われなかったのだ。
“好き”なら“付き合う”のが普通だって?
告白には、言うだけで満足するっていう部類があるんだよ。
けど、その類にしてはヤツの行動は余りにもベタベタした物だった。
そして、ずっと、ずっと考えていた。
私はどうしたいのかを。
友達のままで、は多分無理だ。
私がそう望めばヤツは頷いてくれるだろうけど、肝心の私の方が気まずくなってぎこちなくなってしまうだろう。
そうなってしまえば、友達でいる意味は無い。
じゃあ、付き合ってみるか。となると、アイツの横に私は相応しくないと思ってしまう。
けど、相応しくないって何だ。と、問う自分も居る。
――相応しければ、どうしたいのか。
そこに至った時には、もう卒業間近で自由登校になっていた。
なので、約束するか偶然でなければ会う事は無い。
最近ではのらりくらりと約束しない様にかわしていたから、こっちから遊びに誘うのも何だか気不味い。
けど、このまま別の大学に行って別れてしまうのは嫌だった。
そこで私は、流されることにした。
“卒業式”の雰囲気に。
卒業式当日。この日は登校しなければならないけれど、流石に今日は教室に来ないらしい。
だから仕方なく連絡を送れば『了解』の二文字が画面に浮かぶ。
連絡はマメだけど、意外と顔文字とか絵文字、スタンプとかは使わないんだよね。
シンプルな画面を閉じて、久しぶりに会う友達との会話を楽しんだ。
もう中々会う事は無くなってしまうとはいえ、本当に仲のいい友達とは遊ぶ予定もあるので悲しいとか寂しいとかはそこまで思わない。
まあ、後から実感するかもだけれど、その頃には大学で新たな関係を築いているだろうし。
なんて考えてしまう私は冷めているのだろうか。
式の最中に泣いてしまっている人を見ながら、そんな事を考えていた。
それに、私の本番はこの後だ。
記念撮影に、寄せ書きのしあいっこをしたり、誰それのボタンやらネクタイを貰いに行っているのを眺めたり、最後に学校を一巡りして、友達と別れた後、私は約束した場所へと向かった。
私の中の解答と、答え合わせをする為に――。
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