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13・両親の説得
しおりを挟む「私は反対よ、フェロニカ。いくら相手様が是非にと仰られたとはいえ、突然すぎるもの」
やはりと言うべきか、両親が起きて来たので食事の最中に「結婚前で情緒不安定になっているモニカの相手をして貰えないかと、婚約相手の家に招待された」と話したけれど、反対されてしまった。
これが、正直に「本当は言い出したのは私の方で、最後は乗り気になってくれたものの最初は渋られた」と言ったらもっと強く反対されていただろう。
困惑気味の両親、特に母の方を説得さえ出来てしまえばフェロニカの物だ。父は一人娘であるフェロニカにはこの上なく甘いから。
「でもお母さん。もう了承してしまったし、それに私、モニカの事が心配で」
モニカの事を心配していた事は両親共に知っているので、そこから攻めようと決めたフェロニカは顔を伏せる。
「それは知っているわ。でも貴女、お式に着て行くドレスがまだ出来ていないじゃない」
けれど、母の少し斜め上の答えに思わず顔を上げてしまった。
そういえば、「モニカちゃんのお相手は大棚の商人さんなのでしょう?きっと盛大な披露宴になると思うのよね。そんなところに行くのなら、きちんとしたドレスを用意しないとね。フェロニカはおしゃれをあまりしないからお母さん張り切っちゃうわ」と言って一緒に服を見に行かされた記憶がある。
流石に一からオーダーメイドを注文する程余裕は無いので、ちょっとお高めの既製品を取り扱っているお店に行ったのだ。
買い物は嫌いではないけれど、着せ替え人形のごとく様々な服をとっ替えひっ替えさせられた記憶は、あまりにも辛かったので今まで封印されていた。
何とか母のお眼鏡に敵う物が見付かり、それの裾上げ等の詰めを頼んだのだけれど、出来るのはもう少し先だという話だったっけ。
その時の事を思い出し、少しげんなりしながらも母を見た。
母はごく真面目にそう思っているらしく、悩まし気な表情を浮かべている。
(……そう言えば、お母さんってこういう人だったわ)
どこか天然気味な母の発言に、フェロニカは脱力した。
「……ドレスは、出来たら送ってくれたら良いと思うんだけど」
「でも、それだと最終確認が出来ないし、貴女のドレス姿を一番最初に見れないじゃない!」
可愛がってくれるのは嬉しいし、親にとって、子供はいつまで経っても子供のまま。というのも分かる。
けれど、いつまでも小さな子供扱いは流石に辟易する。
何より、フェロニカには前世で大人と呼ばれる歳で自立して生活をしていた記憶があるので、余計にそう感じるのだろう。
常識の話ではなく、感情論で話をしている母をどう切り崩したものか。
「これは、また出直してきた方が良さそうですかな?」
「貴方は!」
考えあぐねていた所に彼はやって来た。
ちょうど良い所に!とフェロニカが目を輝かせると、従者の男は状況を察した様に一つ頷いた。
「貴方がフェロニカの言っていた従者の方かしら?」
「はい、さようで御座います。先ずは、ノックをしてもお返事が無いようなので、勝手ながらお邪魔させて頂いた事をお詫び申し上げます」
別の事とはいえ、先に謝罪をされてしまったのでフェロニカの母は少しやり難そうに身じろいだ。
「それは、構いませんわ。むしろ、お約束していたのに出迎えもしなかったこちらの方に非がありますもの」
「そう仰って頂けると幸いです。けれど、その原因は私共にあるようにお見受け致しますが」
「それは……」
言い淀む母の方に、フェロニカが手を触れた。
「大丈夫です。先程解決しましたので。折角、一生一度の結婚式なんだから、憂鬱な気分より、晴れやかな気持ちで式を挙げて欲しいじゃない。お母さんの時もそだったでしょう?」
「それは、確かにそうなのよね。始まってしまえば段々と楽しくなっていったけど、始めから楽しんで居られればもっと楽しかったとは思うわ」
「でしょう?だから、ドレスはさっき言った通りにすれば良いし。埋め合わせとして、また一緒に買い物に行こう?」
「ね?」とお願いをするフェロニカに、母もとうとう頷いた。
この国では、他者を思いやる気持ちというものも“美しいモノ”の一つと数えられているので、結局は賛成してくれるだろうと思っていた。
それを利用する様で少し罪悪感があったけれど、飴も提案したので許して貰えるだろう。
母の「いっぱい、いっぱい買い物に行くわよ!約束したからね!」の言葉には取り敢えず笑みだけを返した。
一緒に買い物に行くとは言ったけれど、何度も行くとは言っていないので敢えて返事をしなかったのだ。
これで、心置きなく行く事が出来る。フェロニカは旅行鞄を持って、従者に向き直った。
「お待たせしました」
「いえ、急な事でしたのでご両親が反対なさるのも無理ない事かと。荷物はそれだけですか?」
「はい。何十日も居る訳ではないので」
「……成程」
フェロニカが頷くと、従者の男は小さくボソリと「たかが一緒に買い物に行くと言っただけで、母親が妙に喜んでいるのはそういう事か」呟いた。
「?今なんて仰いました?」
「いえ、何でもありませんよ。それでは参りましょうか」
「はい。それではよろしくお願いします」
聞こえなかったので聞き返したけれど、流されてしまった。
しかしそう重要な事ではないのだろうと、それ以上追及する事はしなかった。
「それじゃあ、お母さん、お父さん、行ってくるね。着いたら直ぐに手紙送るから」
両親に見送られながら「行ってきます」とフェロニカは馬車へと乗り込んだ。
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