混濁

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ハサミ

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点線に従ってわたしは切ってばかりだ。どんな困難なものもいつも点線があればどんなものでもそれに従って切ってばかりだ。「どうして点線があるのかな」わたしの心に問いかけても、しやすいように作られているとしか言えなくて、わたしはその点線が何者であるのかあんまり考えたりしない。でも、わたしは今その点線の謎を考えている。
「それで、君は点線を破ってみたってわけ?」彼はわたしに話しかけている。わたしはそれに頷くと彼は嘲笑って、わたしに手を差し伸べた。わたしはその手を取ると、血のついたその赤が彼に移った。彼とわたしで罪を共有しているようで、わたしは少し嬉しくなった。
「僕の半身は本当に自分がない。可哀想だ。君も、君に破られたモノも」そこにはわたしが点線を破ったものが転がっていて、彼はそれを意味もなく踏みつけた。
「僕みたいな、君を覆す人間を君は欲しがっていたんだ。 君はとてもひどい人だね。 今僕がしていることなんかよりもよっぽど酷いよ。 いいね、君は姑息でダメな人間なんだ。 僕のせいでこうしたみたいに言っているけど、僕を点線なんかにしないでおくれよ」
「わたし、そんなつもりじゃ」
「そう、そうやって、君は点線にしていた人間を殺したんだろう。 君が依存して君が間違っていても従っていた人を殺したんだ。 自由になる理由を探してたんだろう。 酷いよね。 自分のために殺したって言えばいいんだ」
「……でも、今言えばあなたに従ってわたしが言ったってことになるでしょう?」
 彼はわたしを見て満足そうに肯定した。にやけ顔でわたしの頭を撫でる。
「わたしは良いと思ってるんだよ」「どうして?」「あなたと一緒にいることを堂々としてられると思ったからよ」「僕もそう思うよ」
 ああ、わたしの半身、神がわたしと彼二つに分けてしまった悲しい存在。辛いことばかりではない。だって出会えたのだから。そのために神はわたしを分けたのだ。
「僕の半身は正しさに盲目なのは悪いところで良いところだと僕は思っているよ」
「愛してる?」
「どうだかね。 そんなもので足りるならいいんだけど」
 彼はわたしの点線であった人を恨めしく見る。「そんなに許せない?」「許さないんだよ」わたしの愛していた過去の存在はわたしの正義であった。わたしがどんな人であるかを決めて、わたしをわたしではなく点線を切る機構にした人。
「僕はね、君のハサミになりたいんだよ」
「ハサミ?」
「君を自由にする。 君の意思を尊重するモノでありたいんだよ。
 いい? 切ることが全てでないことだって君は知っているだろうけど、切るときにはハサミがいる。 切るときも切らないことを選ぶ時も君は僕のことを思い出す。 僕はそんな存在でありたいんだよ」
 彼はわたしを抱きしめる。いつからか始まったわたしと彼の関係はきっとこうして紡いでいける。わたしは点線を失っても切ることができる。だってわたしはハサミを持っているのだから。彼という狂気と一緒にいることができるのだから。一緒に点線をなくしたのだから。
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