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49.とっても、強そう
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すっと顔を上げた彼女は、最初のようにしゃんと背筋を伸ばして、凛とした姿で立っている。
綺麗な人、だと、思うのだけれど。
何だか圧倒されるような感じがして、あわあわと開閉していた口を噤んだ。
「もし将来、あなたやあなたの家族に何かあったら、遠慮せず言ってちょうだい」
ノアのお母さんが私の手を握る。
ノアとは違う青色の瞳が、鋭く光った。
あれ。ノアも貴族のはずで、ノアのお母さんも、貴族の奥様、のはず――なんだけど。
やさしくておっとりした私のお母様からは感じない「何か」を感じる気がする。
「我がヴォルテール家が、必ず力になることを約束します」
にこりと微笑まれた。
微笑まれているはず、なのに。どうしてこんなに――「圧」を感じるんだろう。
「必ず――どんなことでも」
「母さん」
ノアが耐えきれないと言った様子で口を挟んだ。
私の肩にそっと手を置いて、お母さんから引き離す。すっかり気圧されていた私はノアに導かれるまま彼の足元に寄り添った。
「怖がってる」
「え?」
ノアのお母さんがノアの顔を見て、次に私の顔を見る。
別に怖いわけじゃない、けれども。
私に対して優しくしてくれようとしているのも分かる、けれども。
どうしてこうも圧倒されるのか、分からない。
ノアのお母さん、何というか一言で言うと――そう。とっても、強そうだった。
「ご、ごめんなさいね。伝え方が下手で」
「いえ」
彼女は慌てた様子で言いつくろった。先ほどまでの圧が冗談のように、ちょっと困ったように眉を下げている。
「私はただ、アイシャさんを困らせる人は全員二度とお日様が拝めないようにしますから安心してくださいねと伝えたかっただけで」
「!!??」
「母さん」
ノアがまたお母さんを窘めるように呼ぶ。
はっと気が付いて、ノアのお母さんは「おほほ」と照れたように笑った。――笑って誤魔化した。
しばらくお母さんのことをじとりとした目で見つめていたノアが、やがてため息をついた。
「……呼び出すような真似するから、何か言いたいことでもあるのかと思った」
「あら、ありますよ」
彼女があっさりノアの言葉を肯定する。
そしてノアに一歩、歩み寄る。またじわりと先ほどのプレッシャーが滲み出た気がして、咄嗟にノアの後ろに隠れた。
「謹慎してから会いに行っても居留守ばかり。結婚式の日もまともに顔を見せずにさっさと帰って」
「……」
「よそのお嬢さんを、しかもこんなに小さな子をお預かりして、不自由をさせていたら許しません。そのお小言くらいはくれてやるつもりでした」
「…………」
「ですが……」
彼の母親はしばらくお説教のようにつらつらと並べ立てていたけれど、やがて居心地が悪そうに黙りこくっているノアに目を向けて、ふっと安心したように息をついた。
「しっかり務めを果たしているようで何よりです」
お母さんの言葉に、ノアは「ああ」と「うん」の中間のような返事をして、そっぽを向いた。
綺麗な人、だと、思うのだけれど。
何だか圧倒されるような感じがして、あわあわと開閉していた口を噤んだ。
「もし将来、あなたやあなたの家族に何かあったら、遠慮せず言ってちょうだい」
ノアのお母さんが私の手を握る。
ノアとは違う青色の瞳が、鋭く光った。
あれ。ノアも貴族のはずで、ノアのお母さんも、貴族の奥様、のはず――なんだけど。
やさしくておっとりした私のお母様からは感じない「何か」を感じる気がする。
「我がヴォルテール家が、必ず力になることを約束します」
にこりと微笑まれた。
微笑まれているはず、なのに。どうしてこんなに――「圧」を感じるんだろう。
「必ず――どんなことでも」
「母さん」
ノアが耐えきれないと言った様子で口を挟んだ。
私の肩にそっと手を置いて、お母さんから引き離す。すっかり気圧されていた私はノアに導かれるまま彼の足元に寄り添った。
「怖がってる」
「え?」
ノアのお母さんがノアの顔を見て、次に私の顔を見る。
別に怖いわけじゃない、けれども。
私に対して優しくしてくれようとしているのも分かる、けれども。
どうしてこうも圧倒されるのか、分からない。
ノアのお母さん、何というか一言で言うと――そう。とっても、強そうだった。
「ご、ごめんなさいね。伝え方が下手で」
「いえ」
彼女は慌てた様子で言いつくろった。先ほどまでの圧が冗談のように、ちょっと困ったように眉を下げている。
「私はただ、アイシャさんを困らせる人は全員二度とお日様が拝めないようにしますから安心してくださいねと伝えたかっただけで」
「!!??」
「母さん」
ノアがまたお母さんを窘めるように呼ぶ。
はっと気が付いて、ノアのお母さんは「おほほ」と照れたように笑った。――笑って誤魔化した。
しばらくお母さんのことをじとりとした目で見つめていたノアが、やがてため息をついた。
「……呼び出すような真似するから、何か言いたいことでもあるのかと思った」
「あら、ありますよ」
彼女があっさりノアの言葉を肯定する。
そしてノアに一歩、歩み寄る。またじわりと先ほどのプレッシャーが滲み出た気がして、咄嗟にノアの後ろに隠れた。
「謹慎してから会いに行っても居留守ばかり。結婚式の日もまともに顔を見せずにさっさと帰って」
「……」
「よそのお嬢さんを、しかもこんなに小さな子をお預かりして、不自由をさせていたら許しません。そのお小言くらいはくれてやるつもりでした」
「…………」
「ですが……」
彼の母親はしばらくお説教のようにつらつらと並べ立てていたけれど、やがて居心地が悪そうに黙りこくっているノアに目を向けて、ふっと安心したように息をついた。
「しっかり務めを果たしているようで何よりです」
お母さんの言葉に、ノアは「ああ」と「うん」の中間のような返事をして、そっぽを向いた。
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