元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ

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48.旦那さまは、優しいです!

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 謝ってもらうことではない、と思う。

 私の家の方は身分が高かったので、神託に逆らうことが出来なかった。だから神託を重んじて、結婚を選択した。
 ノアの家の方はおそらくそれほど神託を重視したわけではなくて――神託に従えば謹慎を短縮するという、いわば国との約束でこの結婚を受け入れた。

 双方にメリットとデメリットがあって、選択された結果だ。
 片方が責められたり、謝ったりするのは違うと思う。

「本当にごめんなさい。家族と離れて暮らすことになってしまって」
「大丈夫です、もう6歳なので!」

 何と言っていいやら分からず、でも黙っているわけにもいかずに、咄嗟にそう口にした。
 だが私を見たノアのお母さんが瞳を潤ませて唇を噛み締めている様子に、「まずい」と思った。

 しまった。何か、間違えたかも。
 ああ、もっと前世で人間の心理とか学んでおけばよかった。

「ノアが、禁を犯してしていなければ……あなたが寂しい思いをすることは」
「あ、あの!」

 俯いたノアのお母さんの顔を、下から覗き込んだ。
 ぱちくりと目を見開いた彼女の手を握って、出来るだけはっきりと言う。

「旦那さまは、優しいです!」
「え?」
「魔法も教えてくれるし、ご飯も作ってくれるし、髪も乾かしてくれるし、寝る時はお腹をトントンしてくれます!」
「お、お腹を?」
「ちょっと、やめて」

 黙っていたノアが気まずそうに口を挟んできた。
 そっと私の肩に手を置いて、お母さんから引き離す。

 彼女はぽかんと驚いたように私とノアを見比べていたけれど、やがてふっと小さく息をついた。そして優しく眉を下げて、私を見つめる。

「……ありがとう」

 ノアのお母さんは、さっきまでのつらそうな表情ではなくなっていたけれど、――やっぱり何かを堪えているような顔で、胸の前で手をぎゅっと握った。

「息子は、してはいけないことをしました。それは罰を受けるべきで、償うべきことです。だけど」

 ノアのお母さんが立ち上がる。そして、私とノア、どちらに言うでもなく、呟いた。

「優しい子なの。誰かのことを一生懸命愛せる子なのよ」

 その声は、とてもやさしいもので。
 私は母のことを思い出した。アイシャのお母様ではなく――前世の、母のことを。

 加護というものは、魔法ほどは仕組みが解明されていない。けれどその強さは――受けてきた愛情にある程度比例するものだというのが通説だった。

 ノアを想う母の姿に、彼の横顔を見る。
 『先生』を失って、生きている意味なんてないと言った彼をこの世に繋ぎとめた「加護」にはきっと、この母親からの愛情も、含まれていたのだろう。

 前世の私が引っぺがしてしまったもの。
 それが何だったのか、目の当たりにしているような心地がした。

「私たちにとっては、大事な息子です。だから――あと少し、ノアのことをどうかよろしくお願いします」

 ノアのお母さんが頭を下げる。
 おろおろしてしまってノアを見上げるけれど、彼も気まずそうに目を逸らすばかりで役に立たなかった。

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