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第2章 夏祭りとサマーパーティー
第22話 サマーパーティー
しおりを挟むサマーパーティーの日はすぐにやってきた。
サマーパーティーの会場は学園の大広間で行われる。前世で言うところの集会などで使われる講堂みたいなところだ。開催時間は十七時から二十一時頃まで。途中参加も途中退出も可能となっている。
この行事には前から参加することが決まっていたため、オゼリエ公爵は顔を顰めながらも久しぶりに外出の許可を出してくれた。
ヴィクトルと同じ馬車で学園に来ると、会場の近くでルーカスが待っていた。
「久しぶり、リシェリア」
そう言ってルーカスはリシェリアの手を取って、手の甲に口づけた。一連の動作を見ていた人たちが色めき立つ。
さらさらとした金糸の様な金髪に、エメラルドのような瞳。どこか儚げであり神秘的な雰囲気を醸し出しているルーカスは、王太子という肩書も相まって人気があるのだ。
「エスコートを」
ルーカスの腕を、リシェリアは取る。
ヴィクトルは周りで令嬢が熱い視線を向けているのを気にすることなく、一人で会場に入って行った。
「ドレス、着てくれたんだ。似合ってる」
「……ありがとうございます」
お世辞にリシェリアは愛想笑いをする。
リシェリアはルーカスが贈ってくれた青色のドレスを着てきていた。本来の銀色の髪なら似合っていたかもしれないけれど、黒髪おさげで分厚い眼鏡を掛けているから似合っているとは思えない。
会場に入ると、多くの視線が集まってきた。そのすべてがルーカスに向いていて、リシェリアの姿は映っていなさそうだ。
しばらくルーカスと共に会場内を回っていたけれど、リシェリアは断りを入れて傍を離れることにした。多くの生徒が興味があるのは王太子であるルーカスだから、形式的に挨拶をされるがリシェリアが会話に混ざることはない。それがすこし居心地が悪かったのだ。
ルーカスは何か言いたげな顔をしていたものの、リシェリアを気遣ってくれたのか離れることを許してくれた。
会場の隅の方には立食できる簡単な食事やスイーツが用意されている。リシェリアはその中から美味しそうなケーキを見つけて、お皿を手に取ろうとした。
すると背後から話しかけられた。
「あら、リシェリア様。お会いできて光栄ですわ。夏休みに入ってから、お茶会などでなかなかお見かけしませんわね」
声で誰なのかすぐにわかって、一瞬顔を顰めそうになるが、口元に笑みを浮かべる社交界スマイルを心掛ける。
「ミュリエル様。ご無沙汰しています」
あくまで丁寧に答えるが、あきらかにこちらを見下しているのがわかる表情をミュリエルはしている。その背後には二人の令嬢が付き従っている。
マナス公爵家の長女、ミュリエル。水色の髪の美しい少女なのだけれど、幼少期の頃から地味な見た目をしているリシェリアに何かと突っかかってくることが多い。
「あら、そのドレス、夏らしく涼やかで素敵ですね。銀色の髪に映えそうですわ」
「ふふ、リシェリア様は黒髪ですよ、ミュリエル様」
「そうですよ」
ふふっと三人で笑い合っている。
「それにしても本当に黒い髪」
「公爵の隠し子だとか言われているらしいですよ」
「オゼリエ家は銀髪の家系だと聞きます。あながち間違っていないのでは?」
コソコソ話しながらも、わざとこちらに聞かせているのだろう。
(まったく趣味が悪いわ)
「あら、そういえば黒髪と言えば、特待生もそうでしたわね。名前は……なんでしたかしら?」
「そういえばリシェリア様とよく一緒にいますよね?」
「ええ、私も見たことがあります」
「黒髪同士、惹かれるものでもあるのかしら」
ミュリエル様は淑やかに笑いながらも、目を細めてこちらの様子を伺っている。いつもこちらの神経を逆なでするような発言ばかりをするけれど、彼女はいったい何がしたいのだろうか。
「黒髪で、目が悪くて、見た目を飾ろうとしないあなたが、殿下の婚約者なんて……。本当に、信じられない思いでいっぱいですわ」
「……っ」
「言い返さずに黙っているということは、図星ですのね。……まったく、張り合いのない」
ミュリエルはゲームのシナリオには登場しない人物だ。だから彼女が何を考えているのか、リシェリアにはわからない。
でも、ミュリエルの言葉はあながち間違いではないから、ぐっと堪えてしまう。
「いつまで殿下と婚約されているつもりですの?」
「……これは、私の意思では変わりません」
婚約解消は、リシェリアの意思だけではどうにもならない。
「ええ、ですから殿下も、あなたみたいな女に優しくされていますものね」
扇子で口許を隠すと、少し不機嫌そうな顔をしながらミュリエルは行ってしまった。
胸にモヤモヤが残るが、やっとこれでゆっくりケーキが食べられると気を取り直したところ、会場の入口がにわかに騒がしくなった。
「貴公子様ぁ~。こっち向いて~」
まるでアイドルのファンのような声援を受けて現れたのは、シオンだった。護衛対象のアリナも傍にいる。
貴公子という声援を受けて一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔になったシオンだが、すぐに穏やかな笑顔になると挨拶をしてくる令嬢たちに向き直る。
「護衛任務中ですので、またの機会にお話ししましょう」
「ええ~、残念ですぅ」
令嬢たちを断りながらも、シオンはアリナをエスコートしていた。
アリナが着ているのは黄色いドレスだ。貸し出し用にしては上質な素材が使われているところを見ると、どうやらシオンから贈られたドレスらしい。
(好感度上げは順調みたいね。ドレスが贈られたということは、二十パーセントほどかしら)
――あの日、助けを求めにきたアリナとシオンの対処について作戦会議をした結果、とある作戦を行うことになった。
その為にアリナは、シオンの好感度を少しずつ上げている。もちろん上げすぎないように気をつけて。
シオンの婚約者である、目当てのキャラ――クラリッサ・オルサを登場させるのには、ある程度好感度が無ければいけないからだ。
これは苦肉の策なのだけれど、シオンの扱い次第では今後のシナリオが変わる可能性もある。
アリナと視線がバチっと合う。
お互い頷くと、それぞれ作戦を開始するために行動することになった。
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