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第一章
君とは踊らない
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目の前の化粧台に並べられた髪飾りが、差し込んだ朝日に照らされ輝いている。鏡にうつる顔は清楚さがうしなわれないように、だが普段より濃いめに化粧が施されていて自分ではないようだ。
華やかに結い上げられた髪にベールがかけられ髪飾りでしっかりと留められた。
エレノアは思わずため息をついた。
ああ、本当に結婚するのね。
ポリニエール家の屋敷の前に、豪奢な馬車がエレノアを迎えにやってきた。剣と狼を模した紋章が飾られた扉の横には、気まずそうな表情で俯くロゼンタール家の執事が控えている。どうやら新郎は迎えに来なかったようだ。
エレノアは振り返ると屋敷に向かってそっとつぶやいた。
「お父様、お母様、お兄様、行ってきます」
式が行われる神殿に着くと、さすがに新郎が待っていた。ロゼンタール公爵家の嫡男、レオナード・ロゼンタール・エスタント伯爵ことレオンだ。
エレノアはベール越しにレオンを見た。なめらかで整った輪郭は中性的で、スッととおった鼻筋と切れ長の目は作り物のようにきれいな形をしている。長いまっすぐな髪を後ろで一つに束ねたレオンは、騎士というよりも芸術家風情だ。
レオンは馬車から降りる花嫁エレノアの手を取ると、無言のまま大階段を登り正殿へとエスコートする。正殿の中にはいると、大勢の貴族たちが新郎新婦を迎えてくれた。祭壇の前までゆっくりと二人が進んでいく。
豪華だが洗練された花嫁衣装を見れば、いかに公爵家がこの結婚に力をいれているかがよくわかる。
列席の貴族たちから、ため息がこぼれる。
厳粛な空気が漂う雰囲気のなか、式はつつがなく進行していく。誓いの言葉を交わし指輪の交換が済んだところで司祭の声が響いた。
「それでは花嫁に誓いのキスを」
エレノアはレオンがベールに手をかけてくれるのを待つ‥待つ‥あら?まだなの?
微妙な間があいてからエレノアのベールが捲られた。レオンは初めて花嫁の顔を見た。エレノアとレオンの目と目が合う、レオンの瞳は一瞬見ひらいたあと迷うように揺れている。そしてまた微妙な間があいたあとエレノアの額にレオンのくちびるがそっと触れた。
このとき式に列席していた夫人や令嬢たちがざわめいたが、レオンは気づいていなかった。
式を終えたエレノアは神殿の控室で休んでいた。この後は王宮へ移動して披露パーティーが待っている。パーティーの始まりは新郎新婦のダンスだ。恥をかかないように、できるだけ足を休ませておきたい。
靴を脱いで、はしたなく足をブラブラと揺らしていると扉がノックされた。
「どうぞ」
エレノアが応えると、そっと扉が開きレオンが中に入ってきた。すっかりくつろいでいたエレノアは慌てたせいか声がうわずってしまった。
「お疲れ様です。いまお茶をいれますね」
だが、返ってきたレオンの声は暗く重い声だった。
「いや、いらないよ‥それよりも、君にいっておかないといけないことがあるんだ」
侍女が部屋をでていき、エレノアと二人きりになると、レオンは全く騎士らしくない落ち着きのない様子でエレノアの方に近づいてきた。
レオンはエレノアの前で片膝をつくと恐る恐るといった感じで口を開いた。
「この後の披露パーティーなんだが‥」
目線を落としたまま言いずらそうに、だが、はっきりとエレノアに告げた。
「君のことが嫌なわけではない‥そうではないのだが‥パーティーで君と踊ることはできない」
華やかに結い上げられた髪にベールがかけられ髪飾りでしっかりと留められた。
エレノアは思わずため息をついた。
ああ、本当に結婚するのね。
ポリニエール家の屋敷の前に、豪奢な馬車がエレノアを迎えにやってきた。剣と狼を模した紋章が飾られた扉の横には、気まずそうな表情で俯くロゼンタール家の執事が控えている。どうやら新郎は迎えに来なかったようだ。
エレノアは振り返ると屋敷に向かってそっとつぶやいた。
「お父様、お母様、お兄様、行ってきます」
式が行われる神殿に着くと、さすがに新郎が待っていた。ロゼンタール公爵家の嫡男、レオナード・ロゼンタール・エスタント伯爵ことレオンだ。
エレノアはベール越しにレオンを見た。なめらかで整った輪郭は中性的で、スッととおった鼻筋と切れ長の目は作り物のようにきれいな形をしている。長いまっすぐな髪を後ろで一つに束ねたレオンは、騎士というよりも芸術家風情だ。
レオンは馬車から降りる花嫁エレノアの手を取ると、無言のまま大階段を登り正殿へとエスコートする。正殿の中にはいると、大勢の貴族たちが新郎新婦を迎えてくれた。祭壇の前までゆっくりと二人が進んでいく。
豪華だが洗練された花嫁衣装を見れば、いかに公爵家がこの結婚に力をいれているかがよくわかる。
列席の貴族たちから、ため息がこぼれる。
厳粛な空気が漂う雰囲気のなか、式はつつがなく進行していく。誓いの言葉を交わし指輪の交換が済んだところで司祭の声が響いた。
「それでは花嫁に誓いのキスを」
エレノアはレオンがベールに手をかけてくれるのを待つ‥待つ‥あら?まだなの?
微妙な間があいてからエレノアのベールが捲られた。レオンは初めて花嫁の顔を見た。エレノアとレオンの目と目が合う、レオンの瞳は一瞬見ひらいたあと迷うように揺れている。そしてまた微妙な間があいたあとエレノアの額にレオンのくちびるがそっと触れた。
このとき式に列席していた夫人や令嬢たちがざわめいたが、レオンは気づいていなかった。
式を終えたエレノアは神殿の控室で休んでいた。この後は王宮へ移動して披露パーティーが待っている。パーティーの始まりは新郎新婦のダンスだ。恥をかかないように、できるだけ足を休ませておきたい。
靴を脱いで、はしたなく足をブラブラと揺らしていると扉がノックされた。
「どうぞ」
エレノアが応えると、そっと扉が開きレオンが中に入ってきた。すっかりくつろいでいたエレノアは慌てたせいか声がうわずってしまった。
「お疲れ様です。いまお茶をいれますね」
だが、返ってきたレオンの声は暗く重い声だった。
「いや、いらないよ‥それよりも、君にいっておかないといけないことがあるんだ」
侍女が部屋をでていき、エレノアと二人きりになると、レオンは全く騎士らしくない落ち着きのない様子でエレノアの方に近づいてきた。
レオンはエレノアの前で片膝をつくと恐る恐るといった感じで口を開いた。
「この後の披露パーティーなんだが‥」
目線を落としたまま言いずらそうに、だが、はっきりとエレノアに告げた。
「君のことが嫌なわけではない‥そうではないのだが‥パーティーで君と踊ることはできない」
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