2 / 71
第一章
君とは踊らない
しおりを挟む
目の前の化粧台に並べられた髪飾りが、差し込んだ朝日に照らされ輝いている。鏡にうつる顔は清楚さがうしなわれないように、だが普段より濃いめに化粧が施されていて自分ではないようだ。
華やかに結い上げられた髪にベールがかけられ髪飾りでしっかりと留められた。
エレノアは思わずため息をついた。
ああ、本当に結婚するのね。
ポリニエール家の屋敷の前に、豪奢な馬車がエレノアを迎えにやってきた。剣と狼を模した紋章が飾られた扉の横には、気まずそうな表情で俯くロゼンタール家の執事が控えている。どうやら新郎は迎えに来なかったようだ。
エレノアは振り返ると屋敷に向かってそっとつぶやいた。
「お父様、お母様、お兄様、行ってきます」
式が行われる神殿に着くと、さすがに新郎が待っていた。ロゼンタール公爵家の嫡男、レオナード・ロゼンタール・エスタント伯爵ことレオンだ。
エレノアはベール越しにレオンを見た。なめらかで整った輪郭は中性的で、スッととおった鼻筋と切れ長の目は作り物のようにきれいな形をしている。長いまっすぐな髪を後ろで一つに束ねたレオンは、騎士というよりも芸術家風情だ。
レオンは馬車から降りる花嫁エレノアの手を取ると、無言のまま大階段を登り正殿へとエスコートする。正殿の中にはいると、大勢の貴族たちが新郎新婦を迎えてくれた。祭壇の前までゆっくりと二人が進んでいく。
豪華だが洗練された花嫁衣装を見れば、いかに公爵家がこの結婚に力をいれているかがよくわかる。
列席の貴族たちから、ため息がこぼれる。
厳粛な空気が漂う雰囲気のなか、式はつつがなく進行していく。誓いの言葉を交わし指輪の交換が済んだところで司祭の声が響いた。
「それでは花嫁に誓いのキスを」
エレノアはレオンがベールに手をかけてくれるのを待つ‥待つ‥あら?まだなの?
微妙な間があいてからエレノアのベールが捲られた。レオンは初めて花嫁の顔を見た。エレノアとレオンの目と目が合う、レオンの瞳は一瞬見ひらいたあと迷うように揺れている。そしてまた微妙な間があいたあとエレノアの額にレオンのくちびるがそっと触れた。
このとき式に列席していた夫人や令嬢たちがざわめいたが、レオンは気づいていなかった。
式を終えたエレノアは神殿の控室で休んでいた。この後は王宮へ移動して披露パーティーが待っている。パーティーの始まりは新郎新婦のダンスだ。恥をかかないように、できるだけ足を休ませておきたい。
靴を脱いで、はしたなく足をブラブラと揺らしていると扉がノックされた。
「どうぞ」
エレノアが応えると、そっと扉が開きレオンが中に入ってきた。すっかりくつろいでいたエレノアは慌てたせいか声がうわずってしまった。
「お疲れ様です。いまお茶をいれますね」
だが、返ってきたレオンの声は暗く重い声だった。
「いや、いらないよ‥それよりも、君にいっておかないといけないことがあるんだ」
侍女が部屋をでていき、エレノアと二人きりになると、レオンは全く騎士らしくない落ち着きのない様子でエレノアの方に近づいてきた。
レオンはエレノアの前で片膝をつくと恐る恐るといった感じで口を開いた。
「この後の披露パーティーなんだが‥」
目線を落としたまま言いずらそうに、だが、はっきりとエレノアに告げた。
「君のことが嫌なわけではない‥そうではないのだが‥パーティーで君と踊ることはできない」
華やかに結い上げられた髪にベールがかけられ髪飾りでしっかりと留められた。
エレノアは思わずため息をついた。
ああ、本当に結婚するのね。
ポリニエール家の屋敷の前に、豪奢な馬車がエレノアを迎えにやってきた。剣と狼を模した紋章が飾られた扉の横には、気まずそうな表情で俯くロゼンタール家の執事が控えている。どうやら新郎は迎えに来なかったようだ。
エレノアは振り返ると屋敷に向かってそっとつぶやいた。
「お父様、お母様、お兄様、行ってきます」
式が行われる神殿に着くと、さすがに新郎が待っていた。ロゼンタール公爵家の嫡男、レオナード・ロゼンタール・エスタント伯爵ことレオンだ。
エレノアはベール越しにレオンを見た。なめらかで整った輪郭は中性的で、スッととおった鼻筋と切れ長の目は作り物のようにきれいな形をしている。長いまっすぐな髪を後ろで一つに束ねたレオンは、騎士というよりも芸術家風情だ。
レオンは馬車から降りる花嫁エレノアの手を取ると、無言のまま大階段を登り正殿へとエスコートする。正殿の中にはいると、大勢の貴族たちが新郎新婦を迎えてくれた。祭壇の前までゆっくりと二人が進んでいく。
豪華だが洗練された花嫁衣装を見れば、いかに公爵家がこの結婚に力をいれているかがよくわかる。
列席の貴族たちから、ため息がこぼれる。
厳粛な空気が漂う雰囲気のなか、式はつつがなく進行していく。誓いの言葉を交わし指輪の交換が済んだところで司祭の声が響いた。
「それでは花嫁に誓いのキスを」
エレノアはレオンがベールに手をかけてくれるのを待つ‥待つ‥あら?まだなの?
微妙な間があいてからエレノアのベールが捲られた。レオンは初めて花嫁の顔を見た。エレノアとレオンの目と目が合う、レオンの瞳は一瞬見ひらいたあと迷うように揺れている。そしてまた微妙な間があいたあとエレノアの額にレオンのくちびるがそっと触れた。
このとき式に列席していた夫人や令嬢たちがざわめいたが、レオンは気づいていなかった。
式を終えたエレノアは神殿の控室で休んでいた。この後は王宮へ移動して披露パーティーが待っている。パーティーの始まりは新郎新婦のダンスだ。恥をかかないように、できるだけ足を休ませておきたい。
靴を脱いで、はしたなく足をブラブラと揺らしていると扉がノックされた。
「どうぞ」
エレノアが応えると、そっと扉が開きレオンが中に入ってきた。すっかりくつろいでいたエレノアは慌てたせいか声がうわずってしまった。
「お疲れ様です。いまお茶をいれますね」
だが、返ってきたレオンの声は暗く重い声だった。
「いや、いらないよ‥それよりも、君にいっておかないといけないことがあるんだ」
侍女が部屋をでていき、エレノアと二人きりになると、レオンは全く騎士らしくない落ち着きのない様子でエレノアの方に近づいてきた。
レオンはエレノアの前で片膝をつくと恐る恐るといった感じで口を開いた。
「この後の披露パーティーなんだが‥」
目線を落としたまま言いずらそうに、だが、はっきりとエレノアに告げた。
「君のことが嫌なわけではない‥そうではないのだが‥パーティーで君と踊ることはできない」
19
あなたにおすすめの小説
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
契約通り婚約破棄いたしましょう。
satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、
『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。
・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合
・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合
・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合
・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合 』
です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。
相手が身内だろうとも契約は契約です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる