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第一章
誰が味方か
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すっかり馬車の中で眠ってしまったエレノアは御者に起こされた。
はっと目をあけると、見知ったポリニエールの御者ではなく、ロゼンタールの御者が目の前にいた。
ああ、そうか。きょうからロゼンタールの屋敷に住むのか。
エレノアは馬車から降りて、目の前の大きな建物を見上げる。さすがは国一番の大貴族、ロゼンタール家のお屋敷だ。いや、屋敷というよりお城だろう。
公爵とレオンはまだ王宮だ。一人先に屋敷についたエレノアを、使用人たちがずらりと並んで出迎える。今朝、ポリニエールの屋敷にエレノアを迎えにきた執事が一歩前にでて挨拶をする。
「執事のジェレミーと申します。屋敷の案内は明日いたしますので、きょうはどうぞお休みください。」
正面に聳え立つ本館には入らずに、建物に沿って脇へと進んでいく。ぐるりと曲がると別館が見えた。別館といえどもポリニエールの王都の屋敷くらいの広さはありそうだ。
ロゼンタール公爵家の権勢をまざまざと見せつけられたようだ。
寝室に案内されるとジェレミーがメイドを二人紹介した。
「アンナとケリーです。エレノア様付きのメイドです」
「そう、よろしくね」
二人とも若いメイドだが、アンナの方が少し年上なのだろうか、落ち着いた印象なのに対して、ケリーは明るく快活そうな娘だ。
ジェレミーが部屋を出ると、アンナとケリーがさっそくエレノアにお伺いをたてる。
「浴室の準備ができていますが、先になにか召し上がりますか」
「早くドレスを脱いで楽になりたいわ。」
エレノアが言うと、二人はさっそくドレスを脱ぐのを手伝ってくれた。アンナがエレノアを浴室へと連れて行っている間に、脱いだドレスをケリーがさっと片付け、すぐに戻ってくると二人がかりで体を流してくれた。
ああ、やっと生き返った心地だ。
浴室からでるとテーブルに軽食が並んでいた。アンナが身体を拭いてくれている間にケリーが用意してくれていたのだ。
見事な二人の連携プレー、さすがは公爵邸のメイドたちだ。
フリルがふんだんにあしらわれたシフォンの夜着に着替えると、初夜だったことを思い出す。
アンナとケリーを下がらせると、さっさと布団に潜り込んだ。
どうせレオンは来ないだろう。
ベッドで横になったエレノアは、パーティーで王子と踊ったときのことを思い出していた。
ダンスの回転の隙にチラリと盗み見たレオンは、踊る王子とエレノアの二人ではなく、遠くを見ていた。瞬間、エレノアはわかってしまったのだ。
花嫁を迎えに来なかったわけ、誓いのキスをくちびるにしてくれなかったわけ、エレノアとダンスを踊りたくないわけが。
レオンの視線のその先には、雛壇に座る王女の姿があった。
まさか王女が想い人だったとわね。でもロゼンタール公爵家の後継なら王女と結婚することもできたんじゃないかしら。
なぜ‥?と思いながら顔を上げれば、王子と目が合った。すると王子はエレノアをくるりと回転させた。
周囲から「まぁ」とか「はぁ」といった感嘆の声があがった。さすが王子だ、ダンスの魅せ場をよく心得ている。
王子とのダンスが終わったあと、招待された貴族たちが各々踊り始め、その間にレオンと二人で王族や主要な大貴族たちへ挨拶をして回った。
あの時、レオンと王女様は意味ありげな視線を交わしていたわね。あんなに分かりやすいのに公爵様は気づいていなかったのかしら。
ひと通り挨拶を済ませたあとは、一足先に退場しようとしたが、エレノアは集まった貴族たちに囲まれてしまった。
「ポリニエール伯、パーティーは初めてですよね。公爵とはいつから親交が?」
「王子様とのダンスお似合いでしたよ。素敵でした」
ほとんどの者がエレノアを皮肉り反応をみたいのだろう、こんな小娘がいつの間に公爵に取り入ったのか、あのレオンと結婚するくせに王子とまで踊るなんて図々しいわね、といった心の声が聞こえてくるようだった。
さて、どうかわしたものかと逡巡していると、いつの間にかやって来た王とロゼンタール公爵が、貴族たちの輪に加わり話がそちらに集まった。
その隙にさりげなく王子がエレノアを連れだし馬車まで送ってくれた。
王と会ったのは叙爵のとき以来だったが、公爵様と共にエレノアのことを気にかけてくれたようだ。ほわりと胸が暖かくなる。
きょう一日、いろいろなことがありすぎた。
たくさんの人と会ってすっかり疲れていたが、王と公爵様、そして王子のおかげで、暖かい気持ちで一日を終えることができた。
エレノアは感謝しながら瞼を閉じる。
もう夫のレオンのことなどすっかり忘れていた。
はっと目をあけると、見知ったポリニエールの御者ではなく、ロゼンタールの御者が目の前にいた。
ああ、そうか。きょうからロゼンタールの屋敷に住むのか。
エレノアは馬車から降りて、目の前の大きな建物を見上げる。さすがは国一番の大貴族、ロゼンタール家のお屋敷だ。いや、屋敷というよりお城だろう。
公爵とレオンはまだ王宮だ。一人先に屋敷についたエレノアを、使用人たちがずらりと並んで出迎える。今朝、ポリニエールの屋敷にエレノアを迎えにきた執事が一歩前にでて挨拶をする。
「執事のジェレミーと申します。屋敷の案内は明日いたしますので、きょうはどうぞお休みください。」
正面に聳え立つ本館には入らずに、建物に沿って脇へと進んでいく。ぐるりと曲がると別館が見えた。別館といえどもポリニエールの王都の屋敷くらいの広さはありそうだ。
ロゼンタール公爵家の権勢をまざまざと見せつけられたようだ。
寝室に案内されるとジェレミーがメイドを二人紹介した。
「アンナとケリーです。エレノア様付きのメイドです」
「そう、よろしくね」
二人とも若いメイドだが、アンナの方が少し年上なのだろうか、落ち着いた印象なのに対して、ケリーは明るく快活そうな娘だ。
ジェレミーが部屋を出ると、アンナとケリーがさっそくエレノアにお伺いをたてる。
「浴室の準備ができていますが、先になにか召し上がりますか」
「早くドレスを脱いで楽になりたいわ。」
エレノアが言うと、二人はさっそくドレスを脱ぐのを手伝ってくれた。アンナがエレノアを浴室へと連れて行っている間に、脱いだドレスをケリーがさっと片付け、すぐに戻ってくると二人がかりで体を流してくれた。
ああ、やっと生き返った心地だ。
浴室からでるとテーブルに軽食が並んでいた。アンナが身体を拭いてくれている間にケリーが用意してくれていたのだ。
見事な二人の連携プレー、さすがは公爵邸のメイドたちだ。
フリルがふんだんにあしらわれたシフォンの夜着に着替えると、初夜だったことを思い出す。
アンナとケリーを下がらせると、さっさと布団に潜り込んだ。
どうせレオンは来ないだろう。
ベッドで横になったエレノアは、パーティーで王子と踊ったときのことを思い出していた。
ダンスの回転の隙にチラリと盗み見たレオンは、踊る王子とエレノアの二人ではなく、遠くを見ていた。瞬間、エレノアはわかってしまったのだ。
花嫁を迎えに来なかったわけ、誓いのキスをくちびるにしてくれなかったわけ、エレノアとダンスを踊りたくないわけが。
レオンの視線のその先には、雛壇に座る王女の姿があった。
まさか王女が想い人だったとわね。でもロゼンタール公爵家の後継なら王女と結婚することもできたんじゃないかしら。
なぜ‥?と思いながら顔を上げれば、王子と目が合った。すると王子はエレノアをくるりと回転させた。
周囲から「まぁ」とか「はぁ」といった感嘆の声があがった。さすが王子だ、ダンスの魅せ場をよく心得ている。
王子とのダンスが終わったあと、招待された貴族たちが各々踊り始め、その間にレオンと二人で王族や主要な大貴族たちへ挨拶をして回った。
あの時、レオンと王女様は意味ありげな視線を交わしていたわね。あんなに分かりやすいのに公爵様は気づいていなかったのかしら。
ひと通り挨拶を済ませたあとは、一足先に退場しようとしたが、エレノアは集まった貴族たちに囲まれてしまった。
「ポリニエール伯、パーティーは初めてですよね。公爵とはいつから親交が?」
「王子様とのダンスお似合いでしたよ。素敵でした」
ほとんどの者がエレノアを皮肉り反応をみたいのだろう、こんな小娘がいつの間に公爵に取り入ったのか、あのレオンと結婚するくせに王子とまで踊るなんて図々しいわね、といった心の声が聞こえてくるようだった。
さて、どうかわしたものかと逡巡していると、いつの間にかやって来た王とロゼンタール公爵が、貴族たちの輪に加わり話がそちらに集まった。
その隙にさりげなく王子がエレノアを連れだし馬車まで送ってくれた。
王と会ったのは叙爵のとき以来だったが、公爵様と共にエレノアのことを気にかけてくれたようだ。ほわりと胸が暖かくなる。
きょう一日、いろいろなことがありすぎた。
たくさんの人と会ってすっかり疲れていたが、王と公爵様、そして王子のおかげで、暖かい気持ちで一日を終えることができた。
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もう夫のレオンのことなどすっかり忘れていた。
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