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第一章
新生活
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翌朝エレノアは部屋で一人、朝食をとっていた。
普段の朝食は家族揃って本館でとる決まりだが、さすがに式の翌日は疲れているだろうという、公爵の配慮だ。
食後のお茶を飲んでいると、頃合いを見計らったかのようにレオンがやって来た。
「その‥なんだ。きのうは飲み過ぎてしまい、すまなかった」
「わたしの方こそ先に寝てしまってごめんなさい」
「いや、謝ることはない」
会話が途切れて気まずい沈黙が流れる。
「父に挨拶をしたあと屋敷の案内をする。準備ができたら来てくれ」
「わかりました」
「ああ、、それじゃまあ、なんだ、また後で」
レオンはまだ何か言いたそうだったが、へんな空気だけを残して、そそくさと部屋を出ていった。
アンナとケリーと目が合うと思わず三人で吹き出した。
「レオン様はなにか言いたそうでしたね」
「ふふっ、あのバツの悪そうな顔、可愛らしいわね」
エレノアよりもレオンの方が二つ年上だが、不器用なレオンの態度が叱られた子どもみたいに見えたのだ。
「きのう飲みすぎてエレノア様の部屋の前で寝てたんですよ」
「そうだったの?起こしてくれてもよかったのに」
「いいえ、初夜に酔いつぶれるなんて反省していただかないと」
「初夜、ね。ちっとも結婚したなんて実感わかないわ。まだお互い自由でいいんじゃないかしら」
「エレノア様ったら、そんなこと公爵様の前でおっしゃらないでくださいね」
レオンのおかげでアンナとケリーと打ち解けられた。
動きやすいデイドレスに着替えて、髪は簡単にまとめてもらう。鏡を見てふと思い出す。
王女様は華やかで美人で、わたしとはまったくタイプが違ったわね。
「やっぱり髪をおろしてくれるかしら」
レオンに好かれたいわけではない、ただ自分には魅力がないような気がしてふと切なくなっただけ。もっと自信が欲しい。
兄が亡くなってから着飾ることなど考える余裕はなかった。歯を食いしばって一人、領地を駆け回り書類と格闘した。
今やっとこうして落ち着くことができたのは、ロゼンタール公爵の力添えがあったからだ。恩を返さなくてはならない。公爵様が望むのなら応えなければならない。レオンには申し訳ないけれど、この結婚は間違いではない。
レオンの後について本館へと歩いて行く。昨夜は外から別館に入ったが、どうやら本館と内廊下で繋がっているようだ。覚えられるかしらと不安になって辺りを見回しながら歩いていると、レオンが振り返る。
「朝はわたしが迎えにいきます。屋敷に慣れるまでしばらくかかるでしょうから」
「‥ありがとうございます」
意外だった。エレノアのことを避けるかと思っていたが、どうやら無視されることはなさそうだ。
屋敷は広くて、とても一日ではまわれない。まずは公爵様とレオン、そしてエレノアの執務室を案内してくれた。執務室は三つとも本館にあった。それぞれの執務室が近いほうが当然効率もよい。別館は完全に生活の場だ。
エレノアは公爵邸に住むがポリニエール領の仕事をそのまま持ち込むことになっている。
月に一度はポリニエール領に視察に通うが、それは結婚前に王都のポリニエール屋敷で執務をしていたときにもやっていたことだ。
余裕があれば徐々に公爵家の仕事も手伝うことになるが、公爵様もレオンもいるから、こちらはたいした量ではない。
それからは、本館で朝食を終えると王宮に出仕するレオンを見送り、あとは執務室にこもり仕事をするという毎日だった。
月に一度、報告書の内容を精査するためポリニエール領地を回る。始めての帰郷にはレオンと公爵様もついてきてくれた。
毎朝の迎えと朝食の時間のおかげで、レオンとは仕事の話しだけでなく、たわいもない話もできるようになってきた。口下手な人かと思っていたがそうではなく、エレノアに対する後ろめたさから口ごもっていただけだったことがわかった。
だが、夕食はほとんど一人で取ることが多く寝室は相変わらず別なままだった。
普段の朝食は家族揃って本館でとる決まりだが、さすがに式の翌日は疲れているだろうという、公爵の配慮だ。
食後のお茶を飲んでいると、頃合いを見計らったかのようにレオンがやって来た。
「その‥なんだ。きのうは飲み過ぎてしまい、すまなかった」
「わたしの方こそ先に寝てしまってごめんなさい」
「いや、謝ることはない」
会話が途切れて気まずい沈黙が流れる。
「父に挨拶をしたあと屋敷の案内をする。準備ができたら来てくれ」
「わかりました」
「ああ、、それじゃまあ、なんだ、また後で」
レオンはまだ何か言いたそうだったが、へんな空気だけを残して、そそくさと部屋を出ていった。
アンナとケリーと目が合うと思わず三人で吹き出した。
「レオン様はなにか言いたそうでしたね」
「ふふっ、あのバツの悪そうな顔、可愛らしいわね」
エレノアよりもレオンの方が二つ年上だが、不器用なレオンの態度が叱られた子どもみたいに見えたのだ。
「きのう飲みすぎてエレノア様の部屋の前で寝てたんですよ」
「そうだったの?起こしてくれてもよかったのに」
「いいえ、初夜に酔いつぶれるなんて反省していただかないと」
「初夜、ね。ちっとも結婚したなんて実感わかないわ。まだお互い自由でいいんじゃないかしら」
「エレノア様ったら、そんなこと公爵様の前でおっしゃらないでくださいね」
レオンのおかげでアンナとケリーと打ち解けられた。
動きやすいデイドレスに着替えて、髪は簡単にまとめてもらう。鏡を見てふと思い出す。
王女様は華やかで美人で、わたしとはまったくタイプが違ったわね。
「やっぱり髪をおろしてくれるかしら」
レオンに好かれたいわけではない、ただ自分には魅力がないような気がしてふと切なくなっただけ。もっと自信が欲しい。
兄が亡くなってから着飾ることなど考える余裕はなかった。歯を食いしばって一人、領地を駆け回り書類と格闘した。
今やっとこうして落ち着くことができたのは、ロゼンタール公爵の力添えがあったからだ。恩を返さなくてはならない。公爵様が望むのなら応えなければならない。レオンには申し訳ないけれど、この結婚は間違いではない。
レオンの後について本館へと歩いて行く。昨夜は外から別館に入ったが、どうやら本館と内廊下で繋がっているようだ。覚えられるかしらと不安になって辺りを見回しながら歩いていると、レオンが振り返る。
「朝はわたしが迎えにいきます。屋敷に慣れるまでしばらくかかるでしょうから」
「‥ありがとうございます」
意外だった。エレノアのことを避けるかと思っていたが、どうやら無視されることはなさそうだ。
屋敷は広くて、とても一日ではまわれない。まずは公爵様とレオン、そしてエレノアの執務室を案内してくれた。執務室は三つとも本館にあった。それぞれの執務室が近いほうが当然効率もよい。別館は完全に生活の場だ。
エレノアは公爵邸に住むがポリニエール領の仕事をそのまま持ち込むことになっている。
月に一度はポリニエール領に視察に通うが、それは結婚前に王都のポリニエール屋敷で執務をしていたときにもやっていたことだ。
余裕があれば徐々に公爵家の仕事も手伝うことになるが、公爵様もレオンもいるから、こちらはたいした量ではない。
それからは、本館で朝食を終えると王宮に出仕するレオンを見送り、あとは執務室にこもり仕事をするという毎日だった。
月に一度、報告書の内容を精査するためポリニエール領地を回る。始めての帰郷にはレオンと公爵様もついてきてくれた。
毎朝の迎えと朝食の時間のおかげで、レオンとは仕事の話しだけでなく、たわいもない話もできるようになってきた。口下手な人かと思っていたがそうではなく、エレノアに対する後ろめたさから口ごもっていただけだったことがわかった。
だが、夕食はほとんど一人で取ることが多く寝室は相変わらず別なままだった。
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