13 / 71
第二章
宮廷舞踏会の日、カイル
しおりを挟む
出征してから四年の月日が流れていた。戦争が終わっても、緊張状態だった国境を越えることができず、他国を彷徨い、海を渡りやっとの思いで戻った。彼女と約束したから。
けれど、父、マグライド辺境伯から聞かされた話は信じられない内容だった。
エレノアの兄エリオットが亡くなり、彼女は半年ほど前に結婚してしまったのだ。
しかも、エレノアに関する根も葉もない噂が流れているとまで。
広大で肥沃なポリニエール領。その領主にしてあの有名なロゼンタール公爵家の後継レオンの妻。僻むやつは大勢いるだろう。
案の定、舞踏会でロゼンタール公爵家の名前がコールされると、近くにいる男たちが、ひそひそと話しはじめた。
「ポリニエール女伯爵様の本命は誰なんだろうな」
「相変わらず誰が招待しても断られるらしい。さぞかしお高いんだろう」
「ダンスも王子としか踊らないからな、あの旦那すら相手にされていない」
「国一番の花婿候補だったのにな」
「なんといっても公爵の溺愛ぷりがすごいらしいぞ。息子はカモフラージュらしい」
耳を疑うようなひどい中傷にカイルは青ざめた。
エレノアがそんな子じゃないことは、カイルが一番よくわかっている。
だが、自分と関わることで、もっと立場を悪くしてしまうのではないかと不安になった。
カイルは元々、同伴の女性と踊る気はなかった。
一人で参加したカイルがエレノアを誘えば、好奇の目にさらされてしまうだろうことを危惧して、王都に住む親戚に同伴を頼んだのだ。父に言われた婚約者候補というのも、結婚したエレノアが後ろめたく思わないようにとついた嘘だった。
だが、あまりにひどい中傷を聞いて、同伴者と踊らずにエレノアを誘うことはできないと思った。エレノアはとにかく注目されている。
一曲目はレオンと踊るだろうし‥そのあと強引に誘ったように見せかければ、エレノアの名誉が傷つくことはないだろう。
カイルはそう算段した。
レオンのエスコートで入場してきたエレノアはとてもきれいだった。美貌の騎士と評判のレオンに、負けないくらい美しくお似合いの二人だった。
会えない間に背も伸びてすっかり大人になっていた。
僕のちっちゃな可愛いエレノア‥
もう人のものになってしまったんだね。
ホールの中央で踊っていると、エレノアが大勢の人に囲まれているのが見えた。すぐにうつむいたまま外に出て行ってしまう。
これは追いかけた方が良さそうだな。そう思っているとレオンがエレノアのあとを追って出て行くのが見えた。
僕の出る幕じゃないかな‥。
それでも気になってしまい、パートナーの女性にことわって、エレノアを探しにいくことにした。
しかし、初めて訪れた王宮で少し迷ってしまった。
遠くに噴水があり、その前に人がいるのが見えた。エレノアとレオンだった。
何を話しているのかわからないが揉めているようだ。
近づくレオンを避けるようにエレノアが体を捩り後ろに下がる。エレノアはずっと下を向いて泣いているようだ。
突然、肩にポンっと手が置かれた。振り返るとロゼンタール公爵が立っていた。
公爵はまるで任せろというように、カイルに小さく頷くと、そのまま二人の方へ行きあれよと言う間にエレノアを連れて去っていった。
レオンは一人残されている。
一体いまのはなんだったんだ?
エレノア、君はいま幸せなの?
けれど、父、マグライド辺境伯から聞かされた話は信じられない内容だった。
エレノアの兄エリオットが亡くなり、彼女は半年ほど前に結婚してしまったのだ。
しかも、エレノアに関する根も葉もない噂が流れているとまで。
広大で肥沃なポリニエール領。その領主にしてあの有名なロゼンタール公爵家の後継レオンの妻。僻むやつは大勢いるだろう。
案の定、舞踏会でロゼンタール公爵家の名前がコールされると、近くにいる男たちが、ひそひそと話しはじめた。
「ポリニエール女伯爵様の本命は誰なんだろうな」
「相変わらず誰が招待しても断られるらしい。さぞかしお高いんだろう」
「ダンスも王子としか踊らないからな、あの旦那すら相手にされていない」
「国一番の花婿候補だったのにな」
「なんといっても公爵の溺愛ぷりがすごいらしいぞ。息子はカモフラージュらしい」
耳を疑うようなひどい中傷にカイルは青ざめた。
エレノアがそんな子じゃないことは、カイルが一番よくわかっている。
だが、自分と関わることで、もっと立場を悪くしてしまうのではないかと不安になった。
カイルは元々、同伴の女性と踊る気はなかった。
一人で参加したカイルがエレノアを誘えば、好奇の目にさらされてしまうだろうことを危惧して、王都に住む親戚に同伴を頼んだのだ。父に言われた婚約者候補というのも、結婚したエレノアが後ろめたく思わないようにとついた嘘だった。
だが、あまりにひどい中傷を聞いて、同伴者と踊らずにエレノアを誘うことはできないと思った。エレノアはとにかく注目されている。
一曲目はレオンと踊るだろうし‥そのあと強引に誘ったように見せかければ、エレノアの名誉が傷つくことはないだろう。
カイルはそう算段した。
レオンのエスコートで入場してきたエレノアはとてもきれいだった。美貌の騎士と評判のレオンに、負けないくらい美しくお似合いの二人だった。
会えない間に背も伸びてすっかり大人になっていた。
僕のちっちゃな可愛いエレノア‥
もう人のものになってしまったんだね。
ホールの中央で踊っていると、エレノアが大勢の人に囲まれているのが見えた。すぐにうつむいたまま外に出て行ってしまう。
これは追いかけた方が良さそうだな。そう思っているとレオンがエレノアのあとを追って出て行くのが見えた。
僕の出る幕じゃないかな‥。
それでも気になってしまい、パートナーの女性にことわって、エレノアを探しにいくことにした。
しかし、初めて訪れた王宮で少し迷ってしまった。
遠くに噴水があり、その前に人がいるのが見えた。エレノアとレオンだった。
何を話しているのかわからないが揉めているようだ。
近づくレオンを避けるようにエレノアが体を捩り後ろに下がる。エレノアはずっと下を向いて泣いているようだ。
突然、肩にポンっと手が置かれた。振り返るとロゼンタール公爵が立っていた。
公爵はまるで任せろというように、カイルに小さく頷くと、そのまま二人の方へ行きあれよと言う間にエレノアを連れて去っていった。
レオンは一人残されている。
一体いまのはなんだったんだ?
エレノア、君はいま幸せなの?
11
あなたにおすすめの小説
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
契約通り婚約破棄いたしましょう。
satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、
『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。
・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合
・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合
・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合
・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合 』
です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。
相手が身内だろうとも契約は契約です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる