結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

灯森子

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第二章

宮廷舞踏会の日、グレイス

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宮廷舞踏会の日、王女グレイスはレオンの姿を探していた。

ホールの外にでると、近くで話し声が聞こえてきた。
「やっぱり公爵と女伯爵は‥」
「怪しいと思ってたんだが、当たりだったな」
「きょうも旦那と踊っていなかったしな」
「だな、いくら気に入らなくても夫婦でダンスくらいするだろ」
「ああ、一度も踊ったことがないなんて普通考えられないよな」
グレイスは耳を疑った。

それって?どういうこと?まさか。

エレノアのことを、公爵の愛人などと噂するタチの悪い者たちがいるのはグレイスも知っていた。

けれど、まさか疑惑のもとがダンスだなんて!
やっぱり早くレオンを探さなくちゃ。

「妻と踊らないのに他の方と踊ることはできません」
あの日のレオンの言葉。
グレイスのお願いをきくためエレノアと踊らない。
エレノアと踊らないのだから、グレイスと踊ることもできない。

そして、その言葉どおり、きょうの舞踏会でもレオンとエレノアが踊る姿はなかった。

レオンったら、真面目すぎるのよ‥



グレイスがレオンを探していたのは、エレノアと踊ってほしいと伝えるためだった。
それもエレノアと踊ったあとに、自分がレオンと踊ってもらいたいから、という理由からではない。

あのときふいに軽い気持ちで口をついた言葉を、レオンが生真面目に守ってくれるなんて思っていなかった。

もう、あんなお願い忘れてくれていい。
それなのに、こんなことになってしまった。

なんの罪もないエレノアが悪く言われるなんて。

グレイスはエレノアのことをレオンの結婚相手になる前から知っていた。
会ったことはなかったが、若くして伯爵となった少女の話を聞いたのだ。

王が‥グレイスの父が起こした戦争。そのせいで天涯孤独となった、エレオノーラ・ポリニエール。
亡くなった兄にかわり領地を治め、戦争に貢献し、18歳の若さで伯爵位を継承した少女。

たった一人で‥どれほどの苦しみ悲しみを背負ってきたのだろう。
グレイスはエレノアのことを、王の野望のせいで犠牲になった人たちの中の一人だと思っていた‥自分と同じだと。


門の近くにレオンの姿が見えた。
グレイスは駆け寄って近づいたが、レオンは何か考え込んでいる様子で、周りが見えていないようだった。
グレイスが、なんとなく声をかけるのを躊躇っていると、そのままレオンは王宮から出て行ってしまった。



パーティーがお開きになったあと、兄が貴族たちから聞いた話を教えてくれた。
庭園の奥から公爵とエレノアが二人で現れ、追いかけるようにレオンが後から来たが、なんとレオンは置いてけぼりにされて二人は帰ってしまったと。

この様子を見ていた貴族たちから聞いたそうだが、おそらく、ホールの外で悪口を言っていた者たちがそうなのだろう。

グレイスは唇をかんだ。訓練場でレオンの答えを聞いたときに、言っておけばよかった。もう気にしなくていいと。
けれど、もう一度だけ踊ってほしいという淡い期待を裏切られ、言えなかった。
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