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第五章
思いがけない来訪
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「義姉様、お久しぶりです。」
「ウィレム!?」
レオンの弟ウィレムは、エレノアがロゼンタールの視察に行っているあいだに、全寮制の騎士学校を卒業したばかりだ。卒業式にはレオンが公爵の名代で列席したはずだ。
そのウィレムがなぜここに?
「久しぶりね、驚いたわ。まさかポリニエールに来てくれるなんて。」
ウィレムに会うのは三回目だ。結婚式の日と、休暇で王都の屋敷に一日だけ帰ってきたときと、今。
「視察に行かれるときいたので、微力ながら護衛に加えていただこうかと思いまして。」
「まあ、頼もしいわ。」
「というのは口実で、義姉さんのポリニエール領を見てみたかったんです。」
「理由はなんでもいいわよ、歓迎します。」
「よかった!義姉さんならそう言ってくれると思った」
ウィレムは明るくて人懐っこい性格だ。公爵とレオンとはだいぶ違う。
「カイル、こちらウィレム。レオンの弟よ」
「カイル・マグライドです。」
「ウィレム・ロゼンタールです。カイルさん、フィデリタスに講義に来てくれましたよね。」
フィデリタスとはウィレムの通った騎士学校の名前だ。
「ああ、君はフィデリタスの生徒さん?」
「はい、卒業したばかりです。」
ウィレムはカイルのことを知っているようだ。エレノアは意外だった。
「カイル、フィデリタスで講義をしたの?」
「ああ、まあ、捕虜から脱走してどうやって戻ったのか、サバイバルの授業ってとこかな。自慢できる話じゃないけどね。」
ただ待つだけのエレノアと違い、カイルはどれほど大変だったのだろうか。エレノアの知らない三年間、再会して距離を感じたのはそのせいかもしれない。エレノアは漠然と思った。
ウィレムを連れて屋敷に戻る。
使用人に客間の用意をさせている間、屋敷の中を案内する。とこどころ花が飾られた廊下をウィレムと歩く。
「卒業式、義姉さんにも来てほしかったな。」
「わたしに?」
「そう、義姉さんはフィデリタスでは有名人だもの。」
「わたしが?」
「兄さんと義姉さんは、先の戦争の英雄だからね。みんなうらやましがってさ、おかげで僕まで有名人みたいだったよ。」
「レオンはわかるけど」
「なに言ってるの?兄上の奇襲が成功したのは義姉さんが爆薬を運んだからだろう?フィデリタスではみんな知ってるよ。」
そう。騎士学校で教鞭をふるう教師のなかには、先の戦争に参加したものが多い。その者たちは、皆、エレノアの後方支援の恩恵を受けた。
エレノアが補給に携わってから、それまでより明らかに物資が滞りなく届くようになったのだ。
中には男装したエレノアが屈強な荷運び人を従え統率しているところをその目で見たものもいる。
フィデリタスでは、それらの話が体験談として生徒たちに語られていたのだ。
エレノアは、行方不明のカイルがどこかでお腹を空かせているかもしれない、夜の寒さに震えているかもしれない、自分が届けた物資がカイルの手に渡るかもしれない、そんな私的な思いで必死に補給路を開いたが、結果的に大勢の人の役に立ったのだ。
「ありがとう。ウィレム。」
あの頃、出口の見えない苦しみにもがき、耐えてきたことが報われた気がした。
騎士の詰め所前にある訓練場に着くと、カイルがいた。
「カイルさん、僕も訓練に入れてくれませんか」
ウィレムは騎士団の訓練に加わることになったので、夕食までの間、エレノアは執務に戻ることにした。
「ウィレム!?」
レオンの弟ウィレムは、エレノアがロゼンタールの視察に行っているあいだに、全寮制の騎士学校を卒業したばかりだ。卒業式にはレオンが公爵の名代で列席したはずだ。
そのウィレムがなぜここに?
「久しぶりね、驚いたわ。まさかポリニエールに来てくれるなんて。」
ウィレムに会うのは三回目だ。結婚式の日と、休暇で王都の屋敷に一日だけ帰ってきたときと、今。
「視察に行かれるときいたので、微力ながら護衛に加えていただこうかと思いまして。」
「まあ、頼もしいわ。」
「というのは口実で、義姉さんのポリニエール領を見てみたかったんです。」
「理由はなんでもいいわよ、歓迎します。」
「よかった!義姉さんならそう言ってくれると思った」
ウィレムは明るくて人懐っこい性格だ。公爵とレオンとはだいぶ違う。
「カイル、こちらウィレム。レオンの弟よ」
「カイル・マグライドです。」
「ウィレム・ロゼンタールです。カイルさん、フィデリタスに講義に来てくれましたよね。」
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「ああ、君はフィデリタスの生徒さん?」
「はい、卒業したばかりです。」
ウィレムはカイルのことを知っているようだ。エレノアは意外だった。
「カイル、フィデリタスで講義をしたの?」
「ああ、まあ、捕虜から脱走してどうやって戻ったのか、サバイバルの授業ってとこかな。自慢できる話じゃないけどね。」
ただ待つだけのエレノアと違い、カイルはどれほど大変だったのだろうか。エレノアの知らない三年間、再会して距離を感じたのはそのせいかもしれない。エレノアは漠然と思った。
ウィレムを連れて屋敷に戻る。
使用人に客間の用意をさせている間、屋敷の中を案内する。とこどころ花が飾られた廊下をウィレムと歩く。
「卒業式、義姉さんにも来てほしかったな。」
「わたしに?」
「そう、義姉さんはフィデリタスでは有名人だもの。」
「わたしが?」
「兄さんと義姉さんは、先の戦争の英雄だからね。みんなうらやましがってさ、おかげで僕まで有名人みたいだったよ。」
「レオンはわかるけど」
「なに言ってるの?兄上の奇襲が成功したのは義姉さんが爆薬を運んだからだろう?フィデリタスではみんな知ってるよ。」
そう。騎士学校で教鞭をふるう教師のなかには、先の戦争に参加したものが多い。その者たちは、皆、エレノアの後方支援の恩恵を受けた。
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「ありがとう。ウィレム。」
あの頃、出口の見えない苦しみにもがき、耐えてきたことが報われた気がした。
騎士の詰め所前にある訓練場に着くと、カイルがいた。
「カイルさん、僕も訓練に入れてくれませんか」
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