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第五章
変わらぬ故郷、ぎこちない二人
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レオンと公爵が去り、カイルと二人の食事となった。周りに控えているのは、昔馴染みのポリニエールの使用人たちだ。エレノアはもちろん、カイルにとっても慣れ親しんだ食卓のはずなのに、二人の距離は遠かった。
カイルが来た日、見えない壁はなくなり、昔に戻ったように感じたのに、日を改めるとまた遠慮してしまう。
家族が一緒にいた頃の方が、二人の世界だった。エレノアとカイルはいつも隣の席に座り、マナーなど気にせず、苦手な野菜を交換し合ったり、こそこそ話でいたずらを計画したり、手を伸ばさずとも届くくらい近くにいた。
年頃になっても、いたずらの計画が遠乗りの計画になっただけで二人の距離はかわらなかった。
今は向かい合った二人。未だエレノアはカイルの結婚話がどうなったか聞けなかったし、カイルはレオンとの仲がどうなのか聞けなかった。
強い日差しの中、カイルの持つ日傘の中にはエレノアがいた。視察に出る前に、二人は神殿の敷地内にある、ポリニエール家の墓にやって来た。
「お父様、お母様、お兄様、カイルが帰ってきました。」
エレノアは胸の前に手を組むと跪き、目を閉じた。
カイルも横に倣うと声に出さず語りかける。
「エリオット、助けられなくてすまなかった。」
両脇に下ろした拳をグッと握りしめる。
帰りにクポラの中心街へ寄った。二人で行くのは三年ぶりだ。石畳みのメインストリートの両脇には様々な商店が並んでいる。店の前の屋台や出店にはところどころ人が集まっている。
エレノアとカイルにはいつも寄るお決まりの店がいくつかあった。
まずは、青果店前の出店で果実水を買って喉を潤す。
それから屋台で小腹を満たしながら、小物や馬具の店をのぞく。
「カイル坊ちゃんじゃないですか!」
顔見知りの女将さんが声をかけてくる。
「おばさん、久しぶりだね」
カイルが、にこやかに答える。
「無事にお帰りになったんですね、よかったよかった。街の皆、坊ちゃんは必ず戻ると信じていましたよ」
「はは、ありがとう。それより、坊ちゃんはもうやめてくれよ」
さすがに20歳もすぎてるのに恥ずかしい。
けれど、女将の声を聞きつけて周りの店主たちも集まってくる。
「いやっ、ホントにカイル坊ちゃんだ!」
「よかった、行方不明なんて噂だったから心配してたんだよ」
「ほんとに、会わないうちに逞しくなったな。」
ポリニエールは領主と領民の距離が近い。
父も兄も、代々の領主たちも屋敷にこもらず市井に降りて領民の声に耳を傾けてきた。エレノアとカイルも幼い頃から街によく来ていたから、街の人々も身内のように成長を見守ってきた。
エレノアがレオンと結婚したことなど忘れているみたいに、エレノアと共にいるカイルの帰還を喜んでくれた。
これも、領地が潤っていて、領民が飢えていないからこその平和であるかもしれない。
時々、貧しい領地から流れてくる者がいざこざを起こすこともあるが、そういった流れ者の管理も、きっちりと組織化されている。
それでも、働かないもの、盗人などはどうしてもゼロにはならないが、治安の良さもポリニエールの売りだろう。
「カイルは、相変わらずポリニエールの人みたいね。」
「そういう君だって、アラゴンの人みたいだろう」
「そうね、領主を交換しても民たちは気にしないでしょうね。」
「はは、全くだ。」
繋いでいた馬の縄をほどきながら、笑い合う。
はあ、どうでもいい話はできるのに、肝心なことは話せない‥。エレノアは内心ではため息をついていた。
「ねえさまー」
ふいに遠くから、呼び止める声がする。
「ねえさま?」
周りには、他に人はいないけれど‥エレノアとカイルは辺りを見回す。
「義姉様、お久しぶりです。」
近づいて来たのは、レオンの弟、ウィレム・ロゼンタールだった。
カイルが来た日、見えない壁はなくなり、昔に戻ったように感じたのに、日を改めるとまた遠慮してしまう。
家族が一緒にいた頃の方が、二人の世界だった。エレノアとカイルはいつも隣の席に座り、マナーなど気にせず、苦手な野菜を交換し合ったり、こそこそ話でいたずらを計画したり、手を伸ばさずとも届くくらい近くにいた。
年頃になっても、いたずらの計画が遠乗りの計画になっただけで二人の距離はかわらなかった。
今は向かい合った二人。未だエレノアはカイルの結婚話がどうなったか聞けなかったし、カイルはレオンとの仲がどうなのか聞けなかった。
強い日差しの中、カイルの持つ日傘の中にはエレノアがいた。視察に出る前に、二人は神殿の敷地内にある、ポリニエール家の墓にやって来た。
「お父様、お母様、お兄様、カイルが帰ってきました。」
エレノアは胸の前に手を組むと跪き、目を閉じた。
カイルも横に倣うと声に出さず語りかける。
「エリオット、助けられなくてすまなかった。」
両脇に下ろした拳をグッと握りしめる。
帰りにクポラの中心街へ寄った。二人で行くのは三年ぶりだ。石畳みのメインストリートの両脇には様々な商店が並んでいる。店の前の屋台や出店にはところどころ人が集まっている。
エレノアとカイルにはいつも寄るお決まりの店がいくつかあった。
まずは、青果店前の出店で果実水を買って喉を潤す。
それから屋台で小腹を満たしながら、小物や馬具の店をのぞく。
「カイル坊ちゃんじゃないですか!」
顔見知りの女将さんが声をかけてくる。
「おばさん、久しぶりだね」
カイルが、にこやかに答える。
「無事にお帰りになったんですね、よかったよかった。街の皆、坊ちゃんは必ず戻ると信じていましたよ」
「はは、ありがとう。それより、坊ちゃんはもうやめてくれよ」
さすがに20歳もすぎてるのに恥ずかしい。
けれど、女将の声を聞きつけて周りの店主たちも集まってくる。
「いやっ、ホントにカイル坊ちゃんだ!」
「よかった、行方不明なんて噂だったから心配してたんだよ」
「ほんとに、会わないうちに逞しくなったな。」
ポリニエールは領主と領民の距離が近い。
父も兄も、代々の領主たちも屋敷にこもらず市井に降りて領民の声に耳を傾けてきた。エレノアとカイルも幼い頃から街によく来ていたから、街の人々も身内のように成長を見守ってきた。
エレノアがレオンと結婚したことなど忘れているみたいに、エレノアと共にいるカイルの帰還を喜んでくれた。
これも、領地が潤っていて、領民が飢えていないからこその平和であるかもしれない。
時々、貧しい領地から流れてくる者がいざこざを起こすこともあるが、そういった流れ者の管理も、きっちりと組織化されている。
それでも、働かないもの、盗人などはどうしてもゼロにはならないが、治安の良さもポリニエールの売りだろう。
「カイルは、相変わらずポリニエールの人みたいね。」
「そういう君だって、アラゴンの人みたいだろう」
「そうね、領主を交換しても民たちは気にしないでしょうね。」
「はは、全くだ。」
繋いでいた馬の縄をほどきながら、笑い合う。
はあ、どうでもいい話はできるのに、肝心なことは話せない‥。エレノアは内心ではため息をついていた。
「ねえさまー」
ふいに遠くから、呼び止める声がする。
「ねえさま?」
周りには、他に人はいないけれど‥エレノアとカイルは辺りを見回す。
「義姉様、お久しぶりです。」
近づいて来たのは、レオンの弟、ウィレム・ロゼンタールだった。
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