結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

灯森子

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第八章

エレノアの目論見

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王都での再生活に慣れてきた頃、いよいよ狩猟祭が開かれた。

当日、一部の令嬢や年配の婦人を除いて、ほとんどの女性たちが新しいデザインの乗馬服を着ていた。
これまでの女性の乗馬服は、足のラインを見せないように幅広のキュロットパンツ、ジャケットはシンプルで短い丈のテーラードで、フリルやレースはブラウスの襟元と袖口から覗かせる程度だった。
それはあまり女性が好んで着てみたいと思うようなものではなかった。
そこで、エレノアは新しいデザインの乗馬服を作ったのだ。

ジャケットの襟元、袖口はもちろん、後ろスリットから幾重にも重なる幅広い華やかなフリルをふんだんに覗かせる。動くたびにふわりと揺れドレスを思わせるデザインだ。
対象的にパンツは細身で足を長くスラリと見せる。スタイルよく見える上にエレガントなデザインの乗馬服だ。

エレノアはデザインの権利をあえて特定の衣装室に持たせることはせずに、流行が広まりやすいように仕掛けた。
時を置かずして、エレオノーラスタイルと呼ばれる細身のパンツの乗馬服に身を包んだご婦人方で乗馬クラブが賑わった。
近々開催される狩猟祭では、ドレスよりも乗馬服の女性たちで溢れるだろう。

果たしてエレノアの狙いは見事に当たったのだった。


荷物を各々の天幕に置いた参加者たちは、一息つこうとあちらこちらに配置されたガーデンテーブルを囲んでお茶を楽しんでいる。

エレノアとレオンが空いているテーブルにつくと、あっという間に人だかりができた。

エレノアの乗馬服のデザインは素晴らしいとか、多才な妻を持ったレオンは果報者だとか、二人の周りに集まり話しかけてくる貴族たちは、あからさまに褒めちぎってくる。
腹の中は、ロゼンタールやポリニエールの恩恵にあやかろうとしているか、あるいは、二人の仲が実際のところどうなのか確かめたい、というところか。
それでも、表向き好意的な人たちがたくさんいるということは、まずまずの成果だろう。

エレノアは取り囲む貴族たちの対応をしながらも、近くでさり気なく聞き耳を立てている者、遠巻きにこそこそと陰口を言っているような素振りの者を、目の端で確認した。



「お見かけしたときは驚きましたわ。王都では皆ドレスでしょう?このように、殿方みたいな格好で馬に跨るなど考えたこともございませんでしたから。」
「ええ、ほんとに。この乗馬服なら畑を耕すときにもよさそうですわね。」
レオンが席を立った刹那、エレノアが一人になった隙を見計らったかのように話しかけてきた令嬢たちは、嫌味たっぷりのわりに、しっかりとエレオノーラスタイルの乗馬服を着ている。
「ええ、ぜひやってみてください。あなた方ならとってもお似合になるとおもいますわよ。」
「な、それはどういう意味かしらっ」
「失礼ね、行きましょうっ。」
真っ赤になったご令嬢たちは、その場を去っていった。

人を貶めるようなことばかり考えて、豪華な食事ができるのは誰のおかげか考えようともしない。畑仕事を見下すようなことを言うなんて。
エレノアにとってポリニエールの広大な農地は誇りだ。領内だけにとどまらず、国を支える穀倉地帯なのだ。
エレノアは苛立ちを覚えた。

しかし彼女たちはそのように育てられたのだから仕方ないのだ。賢さよりも見た目を磨き、良い家に嫁げるようにと。
だから、食卓にのぼる豪華な食事がどのようにしてできたかなど興味もないし、自分の家がどんな生業をしているのかさえ知らないご令嬢も珍しくない。


「優勝してほしいか?」

不意打ちで耳元に囁かれた甘い声にエレノアは飛び上がりそうになった。飲み物をとりにいっていたレオンが戻ってきたのだ。
「ちょっと、驚かせないでっ。」
「なにやら上の空だったから」
レオンはエレノアを囲うように、後ろから片手でグラスを差し出しながら、もう片方の手でエレノアを抱き寄せまた囁いた。
「それで?どっちなんだ?優勝してほしいのか、それとも君のそばにいて欲しい?」

急になんなのよ?

「もう!からかわないで!」
エレノアはぷんとむくれてそっぽを向いた。
そんなエレノアをレオンは笑いながら優しく見つめる。

レオンがおかしいわ。


ふと視線を感じて顔を向けると、王宮でエレノアを睨んでいた令嬢たちが集まってこちらを見ていた。
その中には、王宮で見かけた王女様の見習い侍女もいた。皆、乗馬服ではなくドレスを着ている。
遠くからいかにも不快だと言わんばかりの雰囲気をかもしだす彼女たちからは陰湿な悪意を感じた。
先ほど面と向かって嫌味を言ってきた令嬢たちが可愛らしいと思えるほどに。

恨まれるような覚えはないけど。

エレノアが見ていることに気づいた令嬢たちは、背を向けて去っていった。


「エレノア、わたしたちもそろそろ行こうか。」

かけられた声に我にかえったエレノアは、レオンに促されて馬繋ぎへ向かった。二人の馬にはすでに鞍がつけられて、いつでも出られるよう用意されていた。
エレノアは一人でも乗れるが、レオンが手を差しだしたので手伝ってもらい騎乗した。エレノアに弓を渡すと、レオンも騎乗して狩場へと向かった。
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