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第八章
バシリエ子爵令嬢の世界
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バシリエの家は子爵家であるが、先代のときに商売がうまく行き、お金だけはたくさんあった。そのツテでバシリエは、王宮にあがり光栄にも王女の見習い侍女になることができた。
バシリエは、はじめて王女と顔合わせをしたときの感動を忘れられないでいる。こんなにも神々しい人がこの世にいたのかと。
グレイス王女には、美しさだけではない何かがあった。生まれたときから注目され、敬われ、傅かれてきた者が纏う空気。それをカリスマというのだろう。
バシリエの王女に対する強い憧れは、共に過ごすうちにさらに膨れ上がり、もはや崇拝といえるほどになっていた。
いつものようにほかの見習い侍女数名と共に、王女に付き従い、宮廷の廊下を歩いていたときのことだった。
王女様が立ち止まって話しかけたその人は、絵画の中から出てきたような、美しいあの男だった。
あのときの美しい男が、いま目の前にいる…。
バシリエは戦勝記念パーティーで王女と踊っていたレオンに恋をした。
バシリエは、その時のことを思い出しながら、うっとりとレオンに見惚れた。一緒にいる他の令嬢たちも、素敵ね、憧れちゃうわ、と囁きあっている。
しかし、王女様とあの男は、その場にバシリエたちを残して庭園へ行ってしまった。
ああ、わたしには手の届かない方。あの方は王女様のもの。
王女の見習い侍女は、ほとんどが高位貴族のご令嬢というなかで、バシリエは子爵令嬢であったが、あまり気にしていなかった。それよりも自分は王女と親しい仲であり、王宮に出入りができる身分だという自尊の念があったからだ。
けれど、子爵令嬢では参加できない高位貴族のパーティーには、王女の見習い侍女という立場でしか行くことができない。パートナーを伴うことも、王女の許しなくダンスに興じることもできないのだ。
うまり、公爵家のレオンが参加するようなパーティーの招待状がバシリエ宛に届くことはないのだ。
レオンの姿を見たくても、王女といるときにしか会えないし、ましてや話しかけることなどできない。
バシリエははじめて身分の差になげいた。
叶うことのないレオンへの恋心は、バシリエの中で王女への崇拝と混ざり合い、理想の恋人同士、運命の二人という物語を作り上げた。
…運命の二人の前では自分の恋は叶わない、身を引くしかないのよ。
ああ、王女様レオン様、バシリエは、お二人の幸せを祈っていますわ…。
それなのに‥。
突然、レオン様と他の女の結婚が決まった。
王女の見習い侍女たちは、皆驚いて反発した。王女の恋人に横恋慕するなんて、なんと身の程知らずか。侍女たちは口々にその女を誹る。
それなのに王女様は、その女が悪いわけじゃないと、淑女なら口を慎まなくてはねと、私たちに言う。
なんと王女様の心の美しいことか。
しかし、バシリエは、いつも凛とした高貴な表情を崩さない王女様が、一瞬悲しげに微笑んだのを見逃さなかった。そして、怒りに震えた。
社交界デビューもしていないような、ぽっと出の女がレオン様の妻に?あり得ない、そんなこと許せない、王女様以外の女がレオン様と釣り合うわけがない。
お姿だけでなく心までも美しい私たちの王女様に、こんな悲しいお顔をさせるなんて!運命の二人を引き裂くなんて!
わたくしバシリエは、お二人の幸せのためならなんでもしますわ!
叶わぬ恋に歪んだバシリエ令嬢の思いは、悪意となりエレノアへ向けられた。
バシリエは、はじめて王女と顔合わせをしたときの感動を忘れられないでいる。こんなにも神々しい人がこの世にいたのかと。
グレイス王女には、美しさだけではない何かがあった。生まれたときから注目され、敬われ、傅かれてきた者が纏う空気。それをカリスマというのだろう。
バシリエの王女に対する強い憧れは、共に過ごすうちにさらに膨れ上がり、もはや崇拝といえるほどになっていた。
いつものようにほかの見習い侍女数名と共に、王女に付き従い、宮廷の廊下を歩いていたときのことだった。
王女様が立ち止まって話しかけたその人は、絵画の中から出てきたような、美しいあの男だった。
あのときの美しい男が、いま目の前にいる…。
バシリエは戦勝記念パーティーで王女と踊っていたレオンに恋をした。
バシリエは、その時のことを思い出しながら、うっとりとレオンに見惚れた。一緒にいる他の令嬢たちも、素敵ね、憧れちゃうわ、と囁きあっている。
しかし、王女様とあの男は、その場にバシリエたちを残して庭園へ行ってしまった。
ああ、わたしには手の届かない方。あの方は王女様のもの。
王女の見習い侍女は、ほとんどが高位貴族のご令嬢というなかで、バシリエは子爵令嬢であったが、あまり気にしていなかった。それよりも自分は王女と親しい仲であり、王宮に出入りができる身分だという自尊の念があったからだ。
けれど、子爵令嬢では参加できない高位貴族のパーティーには、王女の見習い侍女という立場でしか行くことができない。パートナーを伴うことも、王女の許しなくダンスに興じることもできないのだ。
うまり、公爵家のレオンが参加するようなパーティーの招待状がバシリエ宛に届くことはないのだ。
レオンの姿を見たくても、王女といるときにしか会えないし、ましてや話しかけることなどできない。
バシリエははじめて身分の差になげいた。
叶うことのないレオンへの恋心は、バシリエの中で王女への崇拝と混ざり合い、理想の恋人同士、運命の二人という物語を作り上げた。
…運命の二人の前では自分の恋は叶わない、身を引くしかないのよ。
ああ、王女様レオン様、バシリエは、お二人の幸せを祈っていますわ…。
それなのに‥。
突然、レオン様と他の女の結婚が決まった。
王女の見習い侍女たちは、皆驚いて反発した。王女の恋人に横恋慕するなんて、なんと身の程知らずか。侍女たちは口々にその女を誹る。
それなのに王女様は、その女が悪いわけじゃないと、淑女なら口を慎まなくてはねと、私たちに言う。
なんと王女様の心の美しいことか。
しかし、バシリエは、いつも凛とした高貴な表情を崩さない王女様が、一瞬悲しげに微笑んだのを見逃さなかった。そして、怒りに震えた。
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お姿だけでなく心までも美しい私たちの王女様に、こんな悲しいお顔をさせるなんて!運命の二人を引き裂くなんて!
わたくしバシリエは、お二人の幸せのためならなんでもしますわ!
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