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第6話 君が話してくれた過去
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「帰ろっか。」
結局、あれから山石君が口を開くことなく、黙々と書き終えた日誌を提出するために職員室に向かう。すると、途中で強面の体育の先生が廊下の先からやってくるのが目に入る。
「……ヤバイ!あの先生、生徒指導厳しいんだよね。身だしなみバッチリ?」
「バッチリ、だと思う。」
ほのかに緊張感を漂わせながらすれ違う。先生の方も探るような視線で妙にこちらを見てくるような気がする。そんなにじろじろ見るなら、セクハラで訴えてやるぞ。
「……ねぇ、君。」
「えっ、僕ですか?」
山石君が呼び止められてしまう。じろじろ見られていたのは私じゃなくて、山石君の方だった。先生、自意識過剰で冤罪を仕立て上げそうになってすみません。
心の中で謝りながらも、山石君が呼び止められたのに少し驚いていた。たしかに、彼は入学してすぐはヤンキー君だったから先生の目についたかもしれないけど、今は大人し目の優等生にプロデュースできたと思ってたのに。
「じゃあ、彼に用なら私は行きますね!山石君、お疲れ様!」
「薄情者!置いていかないで!」
「別に指導するわけじゃないんだが。君、名前は山石陣君だったよね?小っちゃいころに囲碁をやってたりしない?」
「……はい。多分、先生のご存知の山石陣だと……思います。」
「やっぱりか!先生も囲碁やるんだよ。アマチュア3段程度なんだけどね。本当は囲碁将棋同好会の顧問したいくらいなんだけど、あそこは重鎮が居座ってるからねぇ。それはさておき、君の活躍は雑誌でよく見てたよ。新入生の名簿見て、もしかしてって思ってたんだけど、最初はあの見た目だったからねぇ。同じ名前の人違いかと思ったけど、今の顔を見てピンって来たよ。」
「……ありがとうございます。」
「最年少優勝してからぱったり見なくなったけど、最近復活したみたいだね。応援してるから。今度うちの囲碁将棋同好会にも顔出してやってよ。その時は私にも声を掛けてな。」
言いたいことだけ言い尽くしたら、はっはっはっと高笑いしながら山石君を置き去りにして行ってしまった。
「……怒られなくて良かったね。」
「あぁ、まぁ。」
「囲碁、やってるんだね。」
「うん。さっき話してたお爺ちゃんにずっと教えてもらってただけだけどね。」
「最年少優勝までするってすごいじゃん。」
「いや、お爺ちゃんに教えてもらった通りに打ってただけだよ。」
「そんな謙遜しちゃって。優勝までしたのに、最近までやめちゃってたんだ?」
「うーん、まぁね……」
そこから山石君はまた黙り込んでしまった。お節介焼きとしてはぐいぐい突っ込んでいって話を掘り下げたいところだけど、さすがにデリケートそうな話題に首を突っ込むほどデリカシーを投げ捨てることはできなかった。
校庭で掛け声を上げながら走っているサッカー部の声ばかりが響く廊下を、足音も空気を読んで黙り込んでしまったかのように静かに歩いていると、山石君がぽつりぽつりと口から言葉をつむいでいた。
「……優勝してからちょっとして、お爺ちゃんが亡くなったんだ……別に、何か特別なことが起こったわけでもなく普通に病気でなんだけどね。ただ、囲碁を教えてくれたお爺ちゃんがいなくなって、それから何だかおかしくて。練習してても試合に出ても、どうやって打ってたのか、どう打てばいいのかが全然分からなくなってたんだよね。どうすればいいかをいつも教えてくれてたのはお爺ちゃんだったから。もう教えてくれる人はいないなって。」
「そっか、お爺さんがとっても大きな存在だったんだね……でも復活したって?」
「入学式の日、森野さんが自分らしくって言ってくれたでしょ?あの日にふと打ってみたくなったから練習してみたんだ。そしたら、どんどん打ちたい手が思い浮かんできてさ。あぁ、そうか、僕はお爺ちゃんに教えてもらった碁だけじゃなくて、自分で考えて碁を打てるようになってたんだって気づいたんだ。考えてみれば当たり前のことなんだけどね。そんな当たり前のことに気づくきっかけをくれたのが森野さんだったんだ。」
「そ、そんな……このお節介がお役に立ったのなら何よりです。」
山石君も普段はのほほんとしてるけど、知らないところで辛いことや大変なことがあって、でもそれを表に出さずに心の中で抱え込んだままのほほんとしてたんだなぁ……この人は本当の強い人なんだなぁ。そう考えて、隣で歩く自分が自分のことから逃げ続けているのが恥ずかしくなって顔を上げることができなかった。
結局、あれから山石君が口を開くことなく、黙々と書き終えた日誌を提出するために職員室に向かう。すると、途中で強面の体育の先生が廊下の先からやってくるのが目に入る。
「……ヤバイ!あの先生、生徒指導厳しいんだよね。身だしなみバッチリ?」
「バッチリ、だと思う。」
ほのかに緊張感を漂わせながらすれ違う。先生の方も探るような視線で妙にこちらを見てくるような気がする。そんなにじろじろ見るなら、セクハラで訴えてやるぞ。
「……ねぇ、君。」
「えっ、僕ですか?」
山石君が呼び止められてしまう。じろじろ見られていたのは私じゃなくて、山石君の方だった。先生、自意識過剰で冤罪を仕立て上げそうになってすみません。
心の中で謝りながらも、山石君が呼び止められたのに少し驚いていた。たしかに、彼は入学してすぐはヤンキー君だったから先生の目についたかもしれないけど、今は大人し目の優等生にプロデュースできたと思ってたのに。
「じゃあ、彼に用なら私は行きますね!山石君、お疲れ様!」
「薄情者!置いていかないで!」
「別に指導するわけじゃないんだが。君、名前は山石陣君だったよね?小っちゃいころに囲碁をやってたりしない?」
「……はい。多分、先生のご存知の山石陣だと……思います。」
「やっぱりか!先生も囲碁やるんだよ。アマチュア3段程度なんだけどね。本当は囲碁将棋同好会の顧問したいくらいなんだけど、あそこは重鎮が居座ってるからねぇ。それはさておき、君の活躍は雑誌でよく見てたよ。新入生の名簿見て、もしかしてって思ってたんだけど、最初はあの見た目だったからねぇ。同じ名前の人違いかと思ったけど、今の顔を見てピンって来たよ。」
「……ありがとうございます。」
「最年少優勝してからぱったり見なくなったけど、最近復活したみたいだね。応援してるから。今度うちの囲碁将棋同好会にも顔出してやってよ。その時は私にも声を掛けてな。」
言いたいことだけ言い尽くしたら、はっはっはっと高笑いしながら山石君を置き去りにして行ってしまった。
「……怒られなくて良かったね。」
「あぁ、まぁ。」
「囲碁、やってるんだね。」
「うん。さっき話してたお爺ちゃんにずっと教えてもらってただけだけどね。」
「最年少優勝までするってすごいじゃん。」
「いや、お爺ちゃんに教えてもらった通りに打ってただけだよ。」
「そんな謙遜しちゃって。優勝までしたのに、最近までやめちゃってたんだ?」
「うーん、まぁね……」
そこから山石君はまた黙り込んでしまった。お節介焼きとしてはぐいぐい突っ込んでいって話を掘り下げたいところだけど、さすがにデリケートそうな話題に首を突っ込むほどデリカシーを投げ捨てることはできなかった。
校庭で掛け声を上げながら走っているサッカー部の声ばかりが響く廊下を、足音も空気を読んで黙り込んでしまったかのように静かに歩いていると、山石君がぽつりぽつりと口から言葉をつむいでいた。
「……優勝してからちょっとして、お爺ちゃんが亡くなったんだ……別に、何か特別なことが起こったわけでもなく普通に病気でなんだけどね。ただ、囲碁を教えてくれたお爺ちゃんがいなくなって、それから何だかおかしくて。練習してても試合に出ても、どうやって打ってたのか、どう打てばいいのかが全然分からなくなってたんだよね。どうすればいいかをいつも教えてくれてたのはお爺ちゃんだったから。もう教えてくれる人はいないなって。」
「そっか、お爺さんがとっても大きな存在だったんだね……でも復活したって?」
「入学式の日、森野さんが自分らしくって言ってくれたでしょ?あの日にふと打ってみたくなったから練習してみたんだ。そしたら、どんどん打ちたい手が思い浮かんできてさ。あぁ、そうか、僕はお爺ちゃんに教えてもらった碁だけじゃなくて、自分で考えて碁を打てるようになってたんだって気づいたんだ。考えてみれば当たり前のことなんだけどね。そんな当たり前のことに気づくきっかけをくれたのが森野さんだったんだ。」
「そ、そんな……このお節介がお役に立ったのなら何よりです。」
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