君が残してくれたものに、私は何を返せるだろう。

加藤やま

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第15話 再び歩き出す私のそばに君がいる

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 それからコンクール復帰のための動きを本格化させることにした。まずは、いつぞやに勝手に音楽室を使用したことについて音楽の先生に謝ることにした。山石君はわざわざ言わなくてもいいって言ってたけど、後ろめたいままでお願いごとをするのはなんだか嫌だった。
 ぶつくさ言いながらついてきた山石君と一緒に頭を下げに行ったついでに、これから放課後に音楽室を借りてピアノの練習をさせてもらえないかとお願いした。ついでというかこっちが本命だったんだけど。帰ってから家のピアノでも練習するけど、やっぱり普段からグランドピアノで練習できるのとそうでないのとでは感触の取り戻し方が全然違う気がした。昔習っていた先生のもとに戻るってことも考えたけど、そっちはまだちょっと気まずいかなって感じだし。
「そういうことならどんどん使ってちょうだい。でも、必ず私に言ってからにしてね。」
「はい。ありがとうございます。」
「そもそもね、森野さんがまたピアノを弾いてくれるって言ってくれてとっても嬉しいの。実は私、あなたが活躍してた頃から知ってるのよ。」
 この学校の先生はどうしてこんなに生徒の来歴を知っているんだろう。生徒の名前でエゴサでもしてるの?
「あ、はぁ。」
「別にあなたの名前を調べたわけじゃないのよ。自分では気づいてないかもしれないけど、あなたは界隈の人にとってはちょっとした有名人だったんだから。」
 心の中を読まれた!?
「そうだったんですね。ど、どうも。」
「そうそう、音楽室を使ってくれるのは全然いいんだけどね。でも……」
 先生はすっと私に近づいてきて耳元で続きをささやいた。
「音楽室が外から見えにくい所にあるからって男の子を連れ込んだりしちゃだめよ。」
「そんなことしませんっ!」
 ちらっと山石君の方を見てみると、何も聞こえていないようで不思議そうな顔をして首をかしげていた。なんで山石君を見たの!?
「しないからねっ!」
「いや、何が?」
 山石君はいきなり叫ばれて面食らっていた。先生が変なことを言うからまともに顔を合わせられず、職員室からの帰りは山石君の前をキープするように急ぎ足で歩いていった。

 ある日いつものように音楽室で練習していると、山石君が顔を覗かせてきた。
「やっぱり森野さんが練習してた。さっき化学準備室に荷物届けた時にピアノの音が聞こえたんだよね。」
「そう、最近は毎日ここに来て練習してってるんだ。グランドピアノの鍵盤の感覚とかも取り戻さなくちゃだからね。」
「張り切ってるねぇ。もしかして出場するコンクール決めたとか?」
「まぁ……一応は?冬にある日本全国ピアノコンクールに出てみようかなって。」
「日本全国ピアノコンクール!!あの!?って知らないけど、名前からして大きそうだね。」
「知りもしないのによくそんなに反応できたね。日本全国だから規模としては1番大きいよね。優勝したら留学できたり海外のコンクール出られたりもするみたいだし。せっかく復帰するんだし、どうせなら1番大きいのに出て力試ししてみたいなぁなんて。」
「そっかぁ、すごいすごい!僕も頑張らないとな……そうだ!明日からここで一緒に勉強してていい?」
「えぇっ!?ここで?私はいいけど……うるさくて集中できなくない?」
「大丈夫。ちょっと賑やかなくらいの方が集中できるんだ。」
 その日から放課後は山石君と音楽室で一緒に過ごす日々が始まった。あれ、これって男の子を連れ込んでるっていうのかな?まぁ、いっか。
 一緒に過ごすといっても私はピアノを弾いて、山石君は碁盤とにらめっこして黙々と時間は流れていくだけだったけど。でも、不思議とその空間の居心地は良かった。会話をするといったら主に下校時間だけだったけど、そこでは毎日たっくさんのことを話した。お互いの家のこと、今までのこと、ピアノについて、囲碁について、将来の夢……本当に他愛もない話ばかりの何でもない時間だった。でも、何となくだけどこの時間があったから毎日頑張れたんだと思う。この何でもない時間が、よし、明日も頑張ろうって思える時間だった。
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