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第38話 君とのデート当日⑥
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山石君の車いすを押しながら、人混みをかきわけて端の店から商品を眺めていった。子どもたちのお手製のお店には、粘土で作った食べ物や宝飾品、折り紙で折った動物、ミサンガなど趣向を凝らした商品が並べられていた。
「つばめちゃーん!こっちこっち!」
声の主を探して見回すと、よくピアノを聞きに来てくれていたミカちゃんだった。
「私ね、つばめちゃんのためにいっぱい作ったんだよ。見てって、よかったらだけど……買ってほしいな。」
「尊っ……全部買おう。」
「森野さん、ちょっと待って!一回冷静になろう。」
持っている通貨だけじゃ足りなさそうだったから、財布に手を伸ばしたところで山石君のストップがかかった。危なかった。ミカちゃんは商売人の才能があるな。
改めて商品を見回してみると、たしかに私のために作ったラインナップだった。折り紙で作られたピアノや音符など、音楽に関するものが所狭しと陳列してあった。さすがに全部買うのは難しかった、というか山石君の目が怖かったので有り金(通貨)をはたいて買える分を買うだけに留めておいた。
「森野さん、止めてなかったら本当に全部買うつもりだったでしょ?」
「そ、そ、そんなことないよー。じょ、じょ、じょ、冗談に決まってるじゃんかー。」
「ごまかすの下手!」
「つばめー!こっち見てみろよー!」
元気な声で呼ばれたと思ったら、小児科のガキ大将のつよし君が手を振っていた。
「いらっしゃい!うちはおもちゃ屋さんだからな。いっぱい買ってってな。」
「わぁ、つよし君もお店出してたんだね。」
「はぁ?何言ってんだ、つばめ。お前がおもちゃ屋さんしろって言ったんだろ。」
「あっれれー、そんなこと言ったかしらー?覚えてないなー。」
「うそつけ!お前が友達のために囲碁とかいうの作らせ……」
「あーらら!つよし君のお店、楽しそうなものがいっぱい!器用なんだね!」
子どもはこちらの都合にお構いなくしゃべっちゃうから怖いんだよなぁ。
「おうよ。この辺のなんかも全部俺が作ったんだぜ。」
「本当だ!全部つよし君が絵をかいたりしてて個性的だね。」
「そうそう。特にこの囲碁セットとかいうのが大変でよー。小っちゃい石たくさん作らないといけなかったし、真っ直ぐの線もいっぱい書かないといけなかったし。つばめが作れって言わなかったら……」
「すっごーい!めっちゃ細かい!つよし君まめなんだね!」
また不都合な事実が口から滑り出そうとしてる!なんとかかぶせてみたけど、ごまかせたかな?
「……森野さん、ありがとう。つよし君、その囲碁セットを僕が買ってもいいかな?」
「えっ、でも、これはつばめの友達のやつなんだけど。」
「うん。多分、僕がその友達なんだ。だから、買っても大丈夫だと思うよ。」
つよし君が確認するようにこちらを見てきたので、うなづいて売ってもらうように合図する。
「おーし。つばめの友達なら売ってやろう!まいど!」
手がちぎれそうになるほど大きく振って見送ってくれたつよし君のお店を離れて、ちょっとだけ2人きりになる時間ができてしまった。
やっぱり山石君は気づいてしまったよなぁ。それで気を遣って欲しくもないものを買ってくれたんだろうなぁ。やっちゃったなぁ。後悔しながら車いすを押していると、山石君が口を開いた。
「つよし君可愛かったね。森野さんのお願いを叶えてあげるためにいっぱい頑張ったんだろうね。それにしても、囲碁セットが買えて丁度良かったよ。病院で打つ用のがなかったんだよね。」
「本当に!?めっちゃ気を遣ってくれてない?山石君のことだから私のために欲しくもないのに買ったんじゃない?」
「本当だよ。ちゃんと欲しかったよ。……まぁ、入院した当初はもう囲碁はしないと思ってたから石も盤も持って来なかったんだけどね。今日、だれかさんのおかげで囲碁の楽しさを思い出しちゃったから、もうちょっとやってみようかなって。だから、ほんとに欲しかったんだ。」
「そっか、それなら良かった。私もこれからお見舞いに来るときには、それ使って一緒にやろうね。もし先生が来たら隠しとかないとだけどね。」
「たしかに。今日も時間があればまだまだやっていきそうだったしね。」
入院する時にはもう囲碁はしないと思ってた、という言葉を聞いた時には鼓動が大きくなって嫌な汗をかいた。それほどの覚悟を持って病院に来ていたんだ。でも、山石君がもう一度囲碁を楽しんでくれるようになったのは素直に嬉しくなった。
「つばめちゃーん!こっちこっち!」
声の主を探して見回すと、よくピアノを聞きに来てくれていたミカちゃんだった。
「私ね、つばめちゃんのためにいっぱい作ったんだよ。見てって、よかったらだけど……買ってほしいな。」
「尊っ……全部買おう。」
「森野さん、ちょっと待って!一回冷静になろう。」
持っている通貨だけじゃ足りなさそうだったから、財布に手を伸ばしたところで山石君のストップがかかった。危なかった。ミカちゃんは商売人の才能があるな。
改めて商品を見回してみると、たしかに私のために作ったラインナップだった。折り紙で作られたピアノや音符など、音楽に関するものが所狭しと陳列してあった。さすがに全部買うのは難しかった、というか山石君の目が怖かったので有り金(通貨)をはたいて買える分を買うだけに留めておいた。
「森野さん、止めてなかったら本当に全部買うつもりだったでしょ?」
「そ、そ、そんなことないよー。じょ、じょ、じょ、冗談に決まってるじゃんかー。」
「ごまかすの下手!」
「つばめー!こっち見てみろよー!」
元気な声で呼ばれたと思ったら、小児科のガキ大将のつよし君が手を振っていた。
「いらっしゃい!うちはおもちゃ屋さんだからな。いっぱい買ってってな。」
「わぁ、つよし君もお店出してたんだね。」
「はぁ?何言ってんだ、つばめ。お前がおもちゃ屋さんしろって言ったんだろ。」
「あっれれー、そんなこと言ったかしらー?覚えてないなー。」
「うそつけ!お前が友達のために囲碁とかいうの作らせ……」
「あーらら!つよし君のお店、楽しそうなものがいっぱい!器用なんだね!」
子どもはこちらの都合にお構いなくしゃべっちゃうから怖いんだよなぁ。
「おうよ。この辺のなんかも全部俺が作ったんだぜ。」
「本当だ!全部つよし君が絵をかいたりしてて個性的だね。」
「そうそう。特にこの囲碁セットとかいうのが大変でよー。小っちゃい石たくさん作らないといけなかったし、真っ直ぐの線もいっぱい書かないといけなかったし。つばめが作れって言わなかったら……」
「すっごーい!めっちゃ細かい!つよし君まめなんだね!」
また不都合な事実が口から滑り出そうとしてる!なんとかかぶせてみたけど、ごまかせたかな?
「……森野さん、ありがとう。つよし君、その囲碁セットを僕が買ってもいいかな?」
「えっ、でも、これはつばめの友達のやつなんだけど。」
「うん。多分、僕がその友達なんだ。だから、買っても大丈夫だと思うよ。」
つよし君が確認するようにこちらを見てきたので、うなづいて売ってもらうように合図する。
「おーし。つばめの友達なら売ってやろう!まいど!」
手がちぎれそうになるほど大きく振って見送ってくれたつよし君のお店を離れて、ちょっとだけ2人きりになる時間ができてしまった。
やっぱり山石君は気づいてしまったよなぁ。それで気を遣って欲しくもないものを買ってくれたんだろうなぁ。やっちゃったなぁ。後悔しながら車いすを押していると、山石君が口を開いた。
「つよし君可愛かったね。森野さんのお願いを叶えてあげるためにいっぱい頑張ったんだろうね。それにしても、囲碁セットが買えて丁度良かったよ。病院で打つ用のがなかったんだよね。」
「本当に!?めっちゃ気を遣ってくれてない?山石君のことだから私のために欲しくもないのに買ったんじゃない?」
「本当だよ。ちゃんと欲しかったよ。……まぁ、入院した当初はもう囲碁はしないと思ってたから石も盤も持って来なかったんだけどね。今日、だれかさんのおかげで囲碁の楽しさを思い出しちゃったから、もうちょっとやってみようかなって。だから、ほんとに欲しかったんだ。」
「そっか、それなら良かった。私もこれからお見舞いに来るときには、それ使って一緒にやろうね。もし先生が来たら隠しとかないとだけどね。」
「たしかに。今日も時間があればまだまだやっていきそうだったしね。」
入院する時にはもう囲碁はしないと思ってた、という言葉を聞いた時には鼓動が大きくなって嫌な汗をかいた。それほどの覚悟を持って病院に来ていたんだ。でも、山石君がもう一度囲碁を楽しんでくれるようになったのは素直に嬉しくなった。
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