転校生とフラグ察知鈍感男

加藤やま

文字の大きさ
9 / 53
体育祭

第9話 体育祭の種目はなるべく少なくしようとしても…

しおりを挟む
 もうすぐ夏が来る。気温も上がり始め、文化祭の熱も冷め切らないうちに青俊高校では体育祭のシーズンが始まる。
「体育祭の種目決めをします。黒板に書かれた種目の中で希望のものに手を上げてください。」
 毎度のごとく体育祭委員がホームルームで種目決めの進行をしている。毎年、特に活躍するわけでもなく、なるべく目立たないよう全員参加の集団競技にだけ出てきた。こういうのは体育会系の陽キャ達に任せて、今年もひっそりと過ごそう。そう心に決めていた。
「どれにしようか迷っちゃうね。障害物競走も楽しそうだし、応援合戦ってのもやってみたいなぁ。えー、どうしよう。」
 文化祭の時と同じく参加する気満々なアリスが一人で騒ぎながら種目を選んでいる。ほとんどの競技は男女別だから、今回は巻き込まれることもなさそうだ。うん?今自分でフラグを立てたか?
「じゃあ次は…ムカデ競争に出たい人、手を上げて。」
 体育祭委員が呼びかけるが、反応する生徒はいない。それもそうだ。数少ない男女混合種目であるため、思春期真っ只中な高校生の誰が好んで出たがるものか。いつもならここで長い沈黙が続くはずだったが、今年は例外が一人だけいた。
「はいはーい!私やりたーい!」
 きれいに真っ直ぐ上げた手を小刻みに上下させてアリスがアピールする。
「アリス。これがどんな競技か分かってる?」
「ううん。よく分かんないけどムカデってネーミングセンスが面白いなって。」
 ムカデ競争という名前が面白いという感性もよく分からないが、面白いというだけで何かも知らない種目に挑戦しようとするメンタルの強さには感服する。
「では、ムカデ競争の1人目は広井さんで決まり!他にやりたい人はいませんか?」
「あ、女子のもう一人は清香ちゃんとやりまーす!ね?いいでしょ?」
「えっ!…あ…うん、いいけど…」
 クラス全員の前で宣言してからの事後承諾という完全に断れないコンボを決められ、長名は頷くしかなかった。
「あとは男子2人だけだな。誰かやりたい人はー?」
 何人かがこそこそ話し合いながら立候補しようとしていたが、ここで出たら明らかに女子狙いなのがバレバレになってしまう。それは奥手な思春期男子達にはハードルが高すぎた。
「うーん、誰も出てこないみたいだし、公平にクジ引きにするか。」
――またクジ引き!そして女子メンバーがよく知っているアリスと長名…これは、絶対に引き当ててしまうやつだ。このクラスはどうしてクジ引きばかりしたがるんだ!クジ引きで当たりやすい奴がいると分かっているだろうに…狙われているのか…
 心の中では大声で反対の声を上げるが、実際には声を出すことなんてできない。思春期男子だもの。
 そうして、見事にクジを引き当ててしまいアリス、長名、そして栄一と共にムカデ競争に出場することになった。もう一人の男子が栄一になる辺りもフラグ回収力の強さを感じる。まぁ、栄一は喜んでいるみたいだし、このメンバーならまだ何とかやっていける気がする。
 このように、例年とは違って少々波乱のあった種目決めではあったが、その他はいつも通り気配を消すことに成功し、最小限の参加で済みそうだった。ちなみに、アリスは出られる種目全てに出ることになった。休憩する暇はあるのだろうか。
 最後に体育祭の花形、リレーのメンバー決めをしているのをぼんやりと眺めていると、何かもめている様子だった。スポーツ万能で性格も良いという陽キャ代表とも言える北王子君と体育祭委員がなにやら言い争っている。というか、北王子君が息巻いている。
「だから!体育祭も勝ちに行くんだから体力テストのタイムでリレーメンバーを決めようぜ!」
「いや…でもまずは立候補を優先して…体力テストの結果は個人情報でもあるし…」
「ちょっとくらいいいじゃんか!みんなもいいよな?勝ちに行くんだろ?」
 息巻く陽キャに反対できる人間がいるわけもなく、賛成してはやし立てる陽キャ仲間の声しか聞こえなかった。我々は静かに息を殺して座っているだけだ。結局、北王子君とその仲間達の圧力に押される形で、体力テストの上位からリレーのメンバーが選ばれることになった。
――いつもと違ったことが起こった種目決めで勝手に決められるリレーのメンバー…これは、なぜかメンバーに選ばれてしまうやつでは?いや、しかし、クラスには運動部で足が速そうな奴もちらほらいるし大丈夫なはず…
「じゃあ上位6位まで呼ぶぞー。男子は、俺、上埼、篠原…」
 北王子君が体力テストのリストを見ながら、タイム上位者の名前を読み上げていく。順調に北王子君とその仲間達の名前が黒板に羅列されていく。さっきの予感は取り越し苦労だったみたいだ。
「あとは…佐藤?お前も足速かったんだな!」
 まさかというか、やはりというか、あと一人だと思って油断した時に名前が呼ばれてしまった。明らかに足が速いであろうに呼ばれなかった運動部はわざとらしく外を見て興味もない空の話なんかをして矛先が向かないように知らん顔している。
 待てよ。栄一も足が速かったはずだ。アイドルを撮りに行く時のスピードにはついて行けたことがない。そう思って栄一に視線を向ける。栄一はこちらの視線に気付いて、溜息混じりに笑っている。
「体力テストなんて本気で走るわけないじゃん。あんなの疲れるだけだし。」
 視線を逸らす男子達の心の声を栄一が小声で代弁してくれた。おかげで選ばれた理由に納得がいった。真面目に本気で走ってしまったあの日の自分が憎い。
「男子は決まったから次は女子な。女子は…広井が1番か!それと山本と…」
 女子のメンバーにはもちろんアリスが選ばれた。巻き込んでいるようだが、こういう時は必ずアリスがいるような気がする。だからといって別に嬉しいわけでもないけど!まぁ、よく知った顔があるのは安心できるかな。
「うししっ。私も体力テストの時に本気で走っちゃった。ムカデだけじゃなくてリレーも一緒だね。」
 アリスがいたずらっぽく笑いながら、励ましてきた。さっきの栄一とのやり取りを見ていたようだ。
 こうして体育祭で最も注目を集める種目に参加する羽目になり、種目決めが全然無事じゃなく終了した。けど、今年の体育祭は例年よりも楽しくなりそうな気がする。アリスの笑い顔を見ながら何となくそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。 実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。 偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。 けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。 不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。 真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、 少し切なくて甘い青春ラブコメ。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...