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体育祭
第9話 体育祭の種目はなるべく少なくしようとしても…
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もうすぐ夏が来る。気温も上がり始め、文化祭の熱も冷め切らないうちに青俊高校では体育祭のシーズンが始まる。
「体育祭の種目決めをします。黒板に書かれた種目の中で希望のものに手を上げてください。」
毎度のごとく体育祭委員がホームルームで種目決めの進行をしている。毎年、特に活躍するわけでもなく、なるべく目立たないよう全員参加の集団競技にだけ出てきた。こういうのは体育会系の陽キャ達に任せて、今年もひっそりと過ごそう。そう心に決めていた。
「どれにしようか迷っちゃうね。障害物競走も楽しそうだし、応援合戦ってのもやってみたいなぁ。えー、どうしよう。」
文化祭の時と同じく参加する気満々なアリスが一人で騒ぎながら種目を選んでいる。ほとんどの競技は男女別だから、今回は巻き込まれることもなさそうだ。うん?今自分でフラグを立てたか?
「じゃあ次は…ムカデ競争に出たい人、手を上げて。」
体育祭委員が呼びかけるが、反応する生徒はいない。それもそうだ。数少ない男女混合種目であるため、思春期真っ只中な高校生の誰が好んで出たがるものか。いつもならここで長い沈黙が続くはずだったが、今年は例外が一人だけいた。
「はいはーい!私やりたーい!」
きれいに真っ直ぐ上げた手を小刻みに上下させてアリスがアピールする。
「アリス。これがどんな競技か分かってる?」
「ううん。よく分かんないけどムカデってネーミングセンスが面白いなって。」
ムカデ競争という名前が面白いという感性もよく分からないが、面白いというだけで何かも知らない種目に挑戦しようとするメンタルの強さには感服する。
「では、ムカデ競争の1人目は広井さんで決まり!他にやりたい人はいませんか?」
「あ、女子のもう一人は清香ちゃんとやりまーす!ね?いいでしょ?」
「えっ!…あ…うん、いいけど…」
クラス全員の前で宣言してからの事後承諾という完全に断れないコンボを決められ、長名は頷くしかなかった。
「あとは男子2人だけだな。誰かやりたい人はー?」
何人かがこそこそ話し合いながら立候補しようとしていたが、ここで出たら明らかに女子狙いなのがバレバレになってしまう。それは奥手な思春期男子達にはハードルが高すぎた。
「うーん、誰も出てこないみたいだし、公平にクジ引きにするか。」
――またクジ引き!そして女子メンバーがよく知っているアリスと長名…これは、絶対に引き当ててしまうやつだ。このクラスはどうしてクジ引きばかりしたがるんだ!クジ引きで当たりやすい奴がいると分かっているだろうに…狙われているのか…
心の中では大声で反対の声を上げるが、実際には声を出すことなんてできない。思春期男子だもの。
そうして、見事にクジを引き当ててしまいアリス、長名、そして栄一と共にムカデ競争に出場することになった。もう一人の男子が栄一になる辺りもフラグ回収力の強さを感じる。まぁ、栄一は喜んでいるみたいだし、このメンバーならまだ何とかやっていける気がする。
このように、例年とは違って少々波乱のあった種目決めではあったが、その他はいつも通り気配を消すことに成功し、最小限の参加で済みそうだった。ちなみに、アリスは出られる種目全てに出ることになった。休憩する暇はあるのだろうか。
最後に体育祭の花形、リレーのメンバー決めをしているのをぼんやりと眺めていると、何かもめている様子だった。スポーツ万能で性格も良いという陽キャ代表とも言える北王子君と体育祭委員がなにやら言い争っている。というか、北王子君が息巻いている。
「だから!体育祭も勝ちに行くんだから体力テストのタイムでリレーメンバーを決めようぜ!」
「いや…でもまずは立候補を優先して…体力テストの結果は個人情報でもあるし…」
「ちょっとくらいいいじゃんか!みんなもいいよな?勝ちに行くんだろ?」
息巻く陽キャに反対できる人間がいるわけもなく、賛成してはやし立てる陽キャ仲間の声しか聞こえなかった。我々は静かに息を殺して座っているだけだ。結局、北王子君とその仲間達の圧力に押される形で、体力テストの上位からリレーのメンバーが選ばれることになった。
――いつもと違ったことが起こった種目決めで勝手に決められるリレーのメンバー…これは、なぜかメンバーに選ばれてしまうやつでは?いや、しかし、クラスには運動部で足が速そうな奴もちらほらいるし大丈夫なはず…
「じゃあ上位6位まで呼ぶぞー。男子は、俺、上埼、篠原…」
北王子君が体力テストのリストを見ながら、タイム上位者の名前を読み上げていく。順調に北王子君とその仲間達の名前が黒板に羅列されていく。さっきの予感は取り越し苦労だったみたいだ。
「あとは…佐藤?お前も足速かったんだな!」
まさかというか、やはりというか、あと一人だと思って油断した時に名前が呼ばれてしまった。明らかに足が速いであろうに呼ばれなかった運動部はわざとらしく外を見て興味もない空の話なんかをして矛先が向かないように知らん顔している。
待てよ。栄一も足が速かったはずだ。アイドルを撮りに行く時のスピードにはついて行けたことがない。そう思って栄一に視線を向ける。栄一はこちらの視線に気付いて、溜息混じりに笑っている。
「体力テストなんて本気で走るわけないじゃん。あんなの疲れるだけだし。」
視線を逸らす男子達の心の声を栄一が小声で代弁してくれた。おかげで選ばれた理由に納得がいった。真面目に本気で走ってしまったあの日の自分が憎い。
「男子は決まったから次は女子な。女子は…広井が1番か!それと山本と…」
女子のメンバーにはもちろんアリスが選ばれた。巻き込んでいるようだが、こういう時は必ずアリスがいるような気がする。だからといって別に嬉しいわけでもないけど!まぁ、よく知った顔があるのは安心できるかな。
「うししっ。私も体力テストの時に本気で走っちゃった。ムカデだけじゃなくてリレーも一緒だね。」
アリスがいたずらっぽく笑いながら、励ましてきた。さっきの栄一とのやり取りを見ていたようだ。
こうして体育祭で最も注目を集める種目に参加する羽目になり、種目決めが全然無事じゃなく終了した。けど、今年の体育祭は例年よりも楽しくなりそうな気がする。アリスの笑い顔を見ながら何となくそう思った。
「体育祭の種目決めをします。黒板に書かれた種目の中で希望のものに手を上げてください。」
毎度のごとく体育祭委員がホームルームで種目決めの進行をしている。毎年、特に活躍するわけでもなく、なるべく目立たないよう全員参加の集団競技にだけ出てきた。こういうのは体育会系の陽キャ達に任せて、今年もひっそりと過ごそう。そう心に決めていた。
「どれにしようか迷っちゃうね。障害物競走も楽しそうだし、応援合戦ってのもやってみたいなぁ。えー、どうしよう。」
文化祭の時と同じく参加する気満々なアリスが一人で騒ぎながら種目を選んでいる。ほとんどの競技は男女別だから、今回は巻き込まれることもなさそうだ。うん?今自分でフラグを立てたか?
「じゃあ次は…ムカデ競争に出たい人、手を上げて。」
体育祭委員が呼びかけるが、反応する生徒はいない。それもそうだ。数少ない男女混合種目であるため、思春期真っ只中な高校生の誰が好んで出たがるものか。いつもならここで長い沈黙が続くはずだったが、今年は例外が一人だけいた。
「はいはーい!私やりたーい!」
きれいに真っ直ぐ上げた手を小刻みに上下させてアリスがアピールする。
「アリス。これがどんな競技か分かってる?」
「ううん。よく分かんないけどムカデってネーミングセンスが面白いなって。」
ムカデ競争という名前が面白いという感性もよく分からないが、面白いというだけで何かも知らない種目に挑戦しようとするメンタルの強さには感服する。
「では、ムカデ競争の1人目は広井さんで決まり!他にやりたい人はいませんか?」
「あ、女子のもう一人は清香ちゃんとやりまーす!ね?いいでしょ?」
「えっ!…あ…うん、いいけど…」
クラス全員の前で宣言してからの事後承諾という完全に断れないコンボを決められ、長名は頷くしかなかった。
「あとは男子2人だけだな。誰かやりたい人はー?」
何人かがこそこそ話し合いながら立候補しようとしていたが、ここで出たら明らかに女子狙いなのがバレバレになってしまう。それは奥手な思春期男子達にはハードルが高すぎた。
「うーん、誰も出てこないみたいだし、公平にクジ引きにするか。」
――またクジ引き!そして女子メンバーがよく知っているアリスと長名…これは、絶対に引き当ててしまうやつだ。このクラスはどうしてクジ引きばかりしたがるんだ!クジ引きで当たりやすい奴がいると分かっているだろうに…狙われているのか…
心の中では大声で反対の声を上げるが、実際には声を出すことなんてできない。思春期男子だもの。
そうして、見事にクジを引き当ててしまいアリス、長名、そして栄一と共にムカデ競争に出場することになった。もう一人の男子が栄一になる辺りもフラグ回収力の強さを感じる。まぁ、栄一は喜んでいるみたいだし、このメンバーならまだ何とかやっていける気がする。
このように、例年とは違って少々波乱のあった種目決めではあったが、その他はいつも通り気配を消すことに成功し、最小限の参加で済みそうだった。ちなみに、アリスは出られる種目全てに出ることになった。休憩する暇はあるのだろうか。
最後に体育祭の花形、リレーのメンバー決めをしているのをぼんやりと眺めていると、何かもめている様子だった。スポーツ万能で性格も良いという陽キャ代表とも言える北王子君と体育祭委員がなにやら言い争っている。というか、北王子君が息巻いている。
「だから!体育祭も勝ちに行くんだから体力テストのタイムでリレーメンバーを決めようぜ!」
「いや…でもまずは立候補を優先して…体力テストの結果は個人情報でもあるし…」
「ちょっとくらいいいじゃんか!みんなもいいよな?勝ちに行くんだろ?」
息巻く陽キャに反対できる人間がいるわけもなく、賛成してはやし立てる陽キャ仲間の声しか聞こえなかった。我々は静かに息を殺して座っているだけだ。結局、北王子君とその仲間達の圧力に押される形で、体力テストの上位からリレーのメンバーが選ばれることになった。
――いつもと違ったことが起こった種目決めで勝手に決められるリレーのメンバー…これは、なぜかメンバーに選ばれてしまうやつでは?いや、しかし、クラスには運動部で足が速そうな奴もちらほらいるし大丈夫なはず…
「じゃあ上位6位まで呼ぶぞー。男子は、俺、上埼、篠原…」
北王子君が体力テストのリストを見ながら、タイム上位者の名前を読み上げていく。順調に北王子君とその仲間達の名前が黒板に羅列されていく。さっきの予感は取り越し苦労だったみたいだ。
「あとは…佐藤?お前も足速かったんだな!」
まさかというか、やはりというか、あと一人だと思って油断した時に名前が呼ばれてしまった。明らかに足が速いであろうに呼ばれなかった運動部はわざとらしく外を見て興味もない空の話なんかをして矛先が向かないように知らん顔している。
待てよ。栄一も足が速かったはずだ。アイドルを撮りに行く時のスピードにはついて行けたことがない。そう思って栄一に視線を向ける。栄一はこちらの視線に気付いて、溜息混じりに笑っている。
「体力テストなんて本気で走るわけないじゃん。あんなの疲れるだけだし。」
視線を逸らす男子達の心の声を栄一が小声で代弁してくれた。おかげで選ばれた理由に納得がいった。真面目に本気で走ってしまったあの日の自分が憎い。
「男子は決まったから次は女子な。女子は…広井が1番か!それと山本と…」
女子のメンバーにはもちろんアリスが選ばれた。巻き込んでいるようだが、こういう時は必ずアリスがいるような気がする。だからといって別に嬉しいわけでもないけど!まぁ、よく知った顔があるのは安心できるかな。
「うししっ。私も体力テストの時に本気で走っちゃった。ムカデだけじゃなくてリレーも一緒だね。」
アリスがいたずらっぽく笑いながら、励ましてきた。さっきの栄一とのやり取りを見ていたようだ。
こうして体育祭で最も注目を集める種目に参加する羽目になり、種目決めが全然無事じゃなく終了した。けど、今年の体育祭は例年よりも楽しくなりそうな気がする。アリスの笑い顔を見ながら何となくそう思った。
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