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体育祭
第12話 練習した競技ほど本番では…
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体育祭当日。天気は快晴。湿度はやや高めの絶好の体育祭日和となった。
入場の美しさで得点が付くという謎システムの開会式や学年別種目でひとしきり盛り上がった後、ついに個人種目が始まった。ムカデ競争の出番がやってきたのだ。
「それじゃあ練習の成果を出すぞー!えいえい、おー!」
「…おおー!」
「…おー…」
「えっ…あ…おー…」
アリスが気合十分に掛け声を出すが、打ち合わせもなしに合わせられるわけもなく三者三様にバラバラと返事をする。
「みんな気合入ったね!がんばろー!」
バラバラなことについては全く気にしていない様子で、勇ましく待機場所へ入っていく。
何度も練習した成果もあって、初めからは想像できない程上手く走れるようにはなっていた。しかし、いざ本番を迎えると練習通り上手くやりたい欲が出てくるのか思った以上に緊張しているようだ。
そんな気持ちとは裏腹に、軽快なリズムを刻む音楽に合わせて入場が始まった。緊張のため俯いていた顔を上げると、アリスと目が合う。
――緊張で強張っている時に、悪戯っぽい顔をしたアリス……これは、アリスがいじってくるやつだ。でも、アリスと話すと気が紛れるような気がする。
「緊張してるの?只男らしくないね。」
「そりゃあ練習もしたし、上手くいかなかったらって思ったら…」
「大丈夫よ。みんなで一緒に頑張ってできるようになったでしょ?私達は4人でチームなんだよ。」
いたずらっぽい笑顔をしてアリスは入場していった。今のアリスの言葉は練習の時に言ったやつだったな。このタイミングで言ってくるなんて…
練習でアリスを迎えに行ってこのセリフを吐き出してしまった時の恥ずかしさが蘇る。すると、緊張よりも恥ずかしさが勝ってしまったのか、体がよく動くようになった。まさか狙って言ったとは思わないが、結果的に緊張をほぐしてくれたアリスに心の中で感謝した。
出走直前の準備で足にハチマキを結んでいる時、同じく隣でハチマキを結んでいるアリスが最終確認してきた。
「せーの、って言ったら左足からよ。いい?」
もちろん、初日の練習から何十回と繰り返した動きだ。忘れるわけがない。
一応後ろの2人にも確認しておこうと振り返る。栄一はいつも通り飄々としていて、早々に準備が終わって周りを見回している。どうせ可愛い子でも見ていないかチェックしているだけだろうから放置でいいか。
一方、長名の様子がいつもと違った。いつもより青ざめて見えるし、手が震えて上手く結べないようだった。一人で何かつぶやいているようだが、小声過ぎて何を言っているかは分からなかった。長名も控えめなタイプだし、運動が得意というわけでもなく、体育祭で全体種目以外に出るのは初めてだと言っていたのを思い出した。
「長名、いつも通りでいいんだよ。大丈夫、俺達もいるんだから。」
なるべく緊張がほぐれるように精一杯の営業スマイルをしてみる。長名も笑顔を返してはくれるが、やはりまだ顔は引きつっている。
「そうそう。私達は4人でチームなんだから。一緒に頑張ればいいのよ。」
アリスが得意気な顔をしながら、後ろから声を掛けてきた。
「それほとんど俺が言ったことだけど。」
「あら?そうだったっけ?まあ誰かさんみたいにカミカミじゃないからいいでしょ?」
「悪かったな、噛みまくり野郎で。」
「お二人さん熱々なのは結構ですが、長名ちゃんが置いてけぼりですよ。」
また言い争いが始まりそうになったが、栄一の声のおかげで我に返った。
「ふふ、みんないつも通り過ぎて緊張してるのが変みたい。」
長名がいつもの笑顔を取り戻し、笑いながら鉢巻きを結び終えた。深呼吸もして気持ちも落ち着いたようだ。
「これで準備万端ね!私、今日はなんだかこのチームが今までで最高になってる気がするのよね。」
アリスがスタートラインに足を掛けて言う。
「なんで?」
「うーん、勘?だって世界がこんなにキラキラしてるんだもん!」
「なんだよそれ。よく分かんね。」
スタート係が空砲を空に向け、周囲の生徒が耳をふさいでいる。
「いいのよ。最高ってことで。行くわよ!左足からね!せーの、…」
「もぅ!なんでよ!絶対1位だと思ったのにー!最高の感じだったのに…」
他のムカデが走り終わるのを待機する列でアリスが地団駄しながらふくれている。
――これは、練習を頑張った競技ほど優勝できないやつだ。それで、別の競技で借りを返してやるってなって盛り上がるやつ。でも、残った競技といえば…リレー?
今までで最も良い走りだったと言っても過言ではなかった。しかし、結果は2位だった。
「2組はメンバーに足が速い人揃えてたし、2位でも大健闘なんじゃない?」
「あいつらも近所の公園とかでこっそり練習してたみたいだしさ。」
「こそ練とか体育祭あるあるだな。」
「アリスちゃんのおかげでここまでできたんだから十分だよ。」
いくら言っても焼け石に水なのは分かっているが、なんとかなだめようとみんな必死だ。
「でもでも…勝ってこのメンバーのこの思い出を、最高の思い出にしたかったんだもん…」
「……」
まさかのいじらしい発言に全員言葉に詰まってしまう。少しの間があって、長名がそっとアリスに近寄り、優しく頭をなでた。
「そうだね。でも私にとっては十分最高の思い出になったよ。いっぱい練習したのも楽しかったし、本番もみんなで頑張ってゴールできたし、すごい一つになったって感じがしたよ。それも全部アリスちゃんのおかげだよ。」
「そうかな?清香は優しいね。そう言ってもらえただけで私も最高の思い出だ!そうか!これが只男の言ってた絆ってやつなんだね!」
「絆って…只男も熱いことを言ってたんだな。」
長名に抱きつきながらアリスが目を輝かせてこっちを見てくる。悪気はないようだが、栄一が新しいおもちゃを見つけた目をしている。これは、今後しばらくいじられるやつだな…
「でもやっぱり悔しいよ。この悔しさは…リレーで晴らすしかない!只男も頑張ろうね!」
やっぱりそうだ。まだもう1つ残ったイベントに繋がるやつだったか。リレーのことを考えただけでお腹の奥で何かが刺してくるような気がする。
「いやぁそれにしても、美女の絡みは眼福ですなぁ。」
呑気な声を出しながらアリスと長名を眺めている栄一を羨んだところで時間は止まってくれない。刻一刻とリレーの時間が迫りながら体育祭は進行していくのだった。
入場の美しさで得点が付くという謎システムの開会式や学年別種目でひとしきり盛り上がった後、ついに個人種目が始まった。ムカデ競争の出番がやってきたのだ。
「それじゃあ練習の成果を出すぞー!えいえい、おー!」
「…おおー!」
「…おー…」
「えっ…あ…おー…」
アリスが気合十分に掛け声を出すが、打ち合わせもなしに合わせられるわけもなく三者三様にバラバラと返事をする。
「みんな気合入ったね!がんばろー!」
バラバラなことについては全く気にしていない様子で、勇ましく待機場所へ入っていく。
何度も練習した成果もあって、初めからは想像できない程上手く走れるようにはなっていた。しかし、いざ本番を迎えると練習通り上手くやりたい欲が出てくるのか思った以上に緊張しているようだ。
そんな気持ちとは裏腹に、軽快なリズムを刻む音楽に合わせて入場が始まった。緊張のため俯いていた顔を上げると、アリスと目が合う。
――緊張で強張っている時に、悪戯っぽい顔をしたアリス……これは、アリスがいじってくるやつだ。でも、アリスと話すと気が紛れるような気がする。
「緊張してるの?只男らしくないね。」
「そりゃあ練習もしたし、上手くいかなかったらって思ったら…」
「大丈夫よ。みんなで一緒に頑張ってできるようになったでしょ?私達は4人でチームなんだよ。」
いたずらっぽい笑顔をしてアリスは入場していった。今のアリスの言葉は練習の時に言ったやつだったな。このタイミングで言ってくるなんて…
練習でアリスを迎えに行ってこのセリフを吐き出してしまった時の恥ずかしさが蘇る。すると、緊張よりも恥ずかしさが勝ってしまったのか、体がよく動くようになった。まさか狙って言ったとは思わないが、結果的に緊張をほぐしてくれたアリスに心の中で感謝した。
出走直前の準備で足にハチマキを結んでいる時、同じく隣でハチマキを結んでいるアリスが最終確認してきた。
「せーの、って言ったら左足からよ。いい?」
もちろん、初日の練習から何十回と繰り返した動きだ。忘れるわけがない。
一応後ろの2人にも確認しておこうと振り返る。栄一はいつも通り飄々としていて、早々に準備が終わって周りを見回している。どうせ可愛い子でも見ていないかチェックしているだけだろうから放置でいいか。
一方、長名の様子がいつもと違った。いつもより青ざめて見えるし、手が震えて上手く結べないようだった。一人で何かつぶやいているようだが、小声過ぎて何を言っているかは分からなかった。長名も控えめなタイプだし、運動が得意というわけでもなく、体育祭で全体種目以外に出るのは初めてだと言っていたのを思い出した。
「長名、いつも通りでいいんだよ。大丈夫、俺達もいるんだから。」
なるべく緊張がほぐれるように精一杯の営業スマイルをしてみる。長名も笑顔を返してはくれるが、やはりまだ顔は引きつっている。
「そうそう。私達は4人でチームなんだから。一緒に頑張ればいいのよ。」
アリスが得意気な顔をしながら、後ろから声を掛けてきた。
「それほとんど俺が言ったことだけど。」
「あら?そうだったっけ?まあ誰かさんみたいにカミカミじゃないからいいでしょ?」
「悪かったな、噛みまくり野郎で。」
「お二人さん熱々なのは結構ですが、長名ちゃんが置いてけぼりですよ。」
また言い争いが始まりそうになったが、栄一の声のおかげで我に返った。
「ふふ、みんないつも通り過ぎて緊張してるのが変みたい。」
長名がいつもの笑顔を取り戻し、笑いながら鉢巻きを結び終えた。深呼吸もして気持ちも落ち着いたようだ。
「これで準備万端ね!私、今日はなんだかこのチームが今までで最高になってる気がするのよね。」
アリスがスタートラインに足を掛けて言う。
「なんで?」
「うーん、勘?だって世界がこんなにキラキラしてるんだもん!」
「なんだよそれ。よく分かんね。」
スタート係が空砲を空に向け、周囲の生徒が耳をふさいでいる。
「いいのよ。最高ってことで。行くわよ!左足からね!せーの、…」
「もぅ!なんでよ!絶対1位だと思ったのにー!最高の感じだったのに…」
他のムカデが走り終わるのを待機する列でアリスが地団駄しながらふくれている。
――これは、練習を頑張った競技ほど優勝できないやつだ。それで、別の競技で借りを返してやるってなって盛り上がるやつ。でも、残った競技といえば…リレー?
今までで最も良い走りだったと言っても過言ではなかった。しかし、結果は2位だった。
「2組はメンバーに足が速い人揃えてたし、2位でも大健闘なんじゃない?」
「あいつらも近所の公園とかでこっそり練習してたみたいだしさ。」
「こそ練とか体育祭あるあるだな。」
「アリスちゃんのおかげでここまでできたんだから十分だよ。」
いくら言っても焼け石に水なのは分かっているが、なんとかなだめようとみんな必死だ。
「でもでも…勝ってこのメンバーのこの思い出を、最高の思い出にしたかったんだもん…」
「……」
まさかのいじらしい発言に全員言葉に詰まってしまう。少しの間があって、長名がそっとアリスに近寄り、優しく頭をなでた。
「そうだね。でも私にとっては十分最高の思い出になったよ。いっぱい練習したのも楽しかったし、本番もみんなで頑張ってゴールできたし、すごい一つになったって感じがしたよ。それも全部アリスちゃんのおかげだよ。」
「そうかな?清香は優しいね。そう言ってもらえただけで私も最高の思い出だ!そうか!これが只男の言ってた絆ってやつなんだね!」
「絆って…只男も熱いことを言ってたんだな。」
長名に抱きつきながらアリスが目を輝かせてこっちを見てくる。悪気はないようだが、栄一が新しいおもちゃを見つけた目をしている。これは、今後しばらくいじられるやつだな…
「でもやっぱり悔しいよ。この悔しさは…リレーで晴らすしかない!只男も頑張ろうね!」
やっぱりそうだ。まだもう1つ残ったイベントに繋がるやつだったか。リレーのことを考えただけでお腹の奥で何かが刺してくるような気がする。
「いやぁそれにしても、美女の絡みは眼福ですなぁ。」
呑気な声を出しながらアリスと長名を眺めている栄一を羨んだところで時間は止まってくれない。刻一刻とリレーの時間が迫りながら体育祭は進行していくのだった。
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