転校生とフラグ察知鈍感男

加藤やま

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修学旅行

第33話 暗闇を二人っきりで歩く時は…

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 3日目。京都に移動しての自由観光は、主に長名が調べてくれたルートに従って寺社を巡る予定だ。しっかり者が班に1人いるだけで自由行動の充実感は全然違う気がする。
 最も有名な観光地でもある清水寺は外せないだろうということで、最初の目的地となっていた。清水寺に向かう途中、坂道に軒を連ねる数々の土産物屋に気移りしてなかなか進むことができなかった。特に、アリスがあちらこちらにウロウロして何度も迷子になりかけていた。
「おーい、いい加減寺に向かわないと他の場所に行けなくなるぞー。」
「待って待って!八つ橋も美味しいし、抹茶バウムもお団子も蜂蜜ソフトもお餅も金平糖もぜーんぶ美味しくて、私を誘惑してるのぉ。」
「食い物ばっかじゃん…」
「試食がたくさんありすぎるのが悪い!」
「そんな堂々と言われても…長名の計画を乱しちゃダメだろ。急がないと。」
「それなら大丈夫だよ。こうなることも計画の内だから!」
「流石清香!私のことをよく分かってらっしゃる!」
「そうだろう。俺の清香ちゃんはできる女なんだ!」
「ヒューヒュー、俺の、だってさー。栄一君のものなんだってー。」
「アリスちゃんやめてよ…栄一君も…もう…」
 一晩明けて栄一と長名は付き合い始めたことを隠すこともなく、皆の前でも親しげな雰囲気で接していた。それを見てアリスも心置きなく二人のことを冷かしている。
――これは、付き合い始めた栄一と長名を二人っきりにするために別行動になるやつだ。確かに、折角付き合って初めて出かけるのだから、2人で楽しむ時間を作ってやるべきなのは分かる。けど、こっちはこっちで昨晩のこともあって、どうもアリスと上手く接することができない。
「只男!こっちこっち!」
 そんなことになっているこちらのことを微塵も気に留めず、アリスは無邪気に観光を楽しんでいる。
「清香と話しててさ、清水寺では2組に別れて後で合流するようにしようって。」
 無邪気にとか言って失礼だった。意外とアリスも考えて行動しているようだ。意外に、というのも失礼か。
 女性陣の計画通り、門の所で二手に別れてそれぞれで見て回ることになった。どこに何があるのかはアリスも予習してきていたみたいで、どんどん進んでいって案内してくれた。
「私たちはまずこっちからね…ここ!胎内巡りっていって真っ暗な中歩いていくんだって。ちょっと怖そうだけど楽しそうじゃない?」
 胎内巡りの楽しみ方やお堂の意味などを説明してくれながら、一緒に入り口から入っていく。中は本当に真っ暗闇で、壁に掛けられている数珠から手を離してしまうと右も左も分からなくなりそうだった。
「ホントに真っ暗だね。只男がどこにいるかも分かんな…きゃっ!」
「どうした!?」
「ううん、なんでもない。ちょっと転んだだけ…あれ?」
「やっぱり何かあったのか?」
「いやいや、ちょっと数珠から手を離しちゃって見失ってるだけ…」
 ごそごそとアリスが周りを探る音が聞こえる。
――これは、手を差し出せばアリスを助けられるやつだ。こういう時、すぐに見つけられるからこの体質には感謝だな。
「しょうがないなぁ。アリス、この辺か?」
 適当に手を伸ばすと、思った通りアリスの手に触れた。そのまま手を引っ張ってアリスを立たせることに成功した。そのまま手を数珠に持っていこうとするが、なぜかアリスの手は抵抗して動かなかった。
「あっ…ありがと。あの、その…行こっか…」
「あ、あぁ…」
 結局、引っ張り上げた手はそのまま繋いだままで胎内巡りを再開した。そこから洞窟を出るまで二人とも何となく黙ったままだったし、手も離せないままだった。ただ繋いだ手の体温を感じながらひたすらに歩き続けたのだった。
 洞窟から出て外の明るさに目を細めていると、アリスの手が離れていってしまった。
「まっぶしー、胎内巡り楽しかったね。まだまだ回るところはあるんだから、行くよ。」
 胎内巡りがどうだったかなんて全く記憶に残っていないので、曖昧に頷くことしかできなかった。アリスは楽しむ余裕があったのか。
 どうして手を繋いだままだったのか、アリスは何を考えていたのかなど、中でのことを色々と聞きたかったが、アリスは何事もなかったようにさっさと行ってしまったため、なんとなく聞くタイミングを逃してしまった。
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