転校生とフラグ察知鈍感男

加藤やま

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冬休み

第38話 バイト先を知られたらやっぱり…

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 クリスマス当日、いつも通り叔母さんのケーキ屋に着くと不穏な物体が目の前に置かれていた。前日は例年通りケーキの受け渡しをするだけだったが、今日は予約が殺到したみたいで別にもう1人バイトを雇ったようだ。あぶれてしまった便利な甥っ子はトナカイの着ぐるみを着て店頭で呼び込みをするというありがたい仕事を申し付けられるのだった。
「もちろん、カイロや防寒具は用意してるのじゃんじゃん使ってもらっていいし、休憩も適宜取ってもらっていいから。」
 申し訳なさそうにお願いしてくる叔母さん夫婦には毎年臨時収入を稼がせてもらっている恩もあるし、断れるわけがない。
 こうして、寒空の下で全身トナカイの着ぐるみに身を包んで呼び込みをすることになったのだった。声は出せないから呼び込めないけど。
 始業から日が昇り切るまでの時間と、昇り切った日が落ちる時間が同じくらいになるまで呼び込みを続けた。この間、時々小学生くらいの子どもに激しく遊ばれる以外は大したこともなく、クリスマスソングをバックに赤ちゃんには泣き叫ばれ、同年代のカップルに小さく笑われるといった悲しい時間が過ぎていった。独り身の精神修行にはもってこいのバイトかもしれない。
 冬の急ぎ足の太陽がビルの影に隠れようとしている頃、見覚えのある人が辺りを見回しながら近付いてくる。来ないと言っていたはずのアリスが襲来した。ケーキ屋の看板を見つけて嬉しそうに店内を覗き込んでいるが、きっと探しているだろう人が見つかる訳もなく首を捻っている。着ぐるみから声を出すわけにもいかないので、体をバタつかせてアピールする。
「あっ!トナカイさん可愛いー。手を振ってくれてるの?」
 おもむろにこちらにやって来たかと思うと、そのままハグをされた。
「ぎゅー…ってトナカイさん結構体格いいね。」
 中身が男性かもしれないことに気がついたのか、遠慮がちにそっと離れていった。突然のことに呆然としていると、店の方から叔母さんの声が響いてくる。
「ただくーん、そろそろ休憩に入っていいよー。」
 その声に反応して店に振り向いたが、アリスも同じく店の方を見て今の声の中身を精査していた。
「ただ君…あの…もしかしてですが、只男君ですか…?」
 黙って頷くとアリスの顔がみるみる赤くなっていく。
「…ご、ごめん!只男が入ってるなんて全然思わなくて…そ、そういえばケーキ買ってくるように頼まれたんだった!行かなきゃ…!」
 アリスは逃げるように店内に入っていって熱心にショーケースを眺めている。後ろから見える耳はまだ真っ赤になっているような気がする。こちらは着ぐるみの中で助かった。きっとアリスとは比べ物にならないくらい赤くなっていたに違いないから。日が沈んで冷たくなった風でしばらく体の火照りを冷ましてから、深呼吸をして店内に戻った。
 裏で着ぐるみを脱いで店頭に戻ってみると、アリスはまだケーキを選んでいるようだった。着ぐるみの時の件で少しギクシャクしながらもぎこちなく言葉を交わす。
「只男のオススメはどれなの?」
「ええと、叔母さんのケーキはどれも美味しいからなぁ。でも、初めはやっぱり生クリームのデコレーションケーキがいいかな。」
「そっかぁ。じゃあ、チョコのやつにしよ。」
「どうして聞いた?」
「…只男は昨日もここにいたの?」
「まぁ、昨日は着ぐるみじゃなくて販売だったけど…」
「ふーん。」
「どうして聞いた?」
「うそうそ。今日来たのは当たりだったんだね!着ぐるみもよく似合ってたよ!」
「全身隠れるのに似合うとかないよね?」
「…ほら、中肉中背な感じがトナカイっぽい?」
「自分でも疑問形で喋っちゃってるじゃん。」
「まぁ細かいことはいいじゃない!2連勤だなんて忙しそうね。」
「適当だなぁ…忙しいのは毎年のことだし、今日ももうすぐ終わるからあとちょっとの辛抱だよ。」
「もうすぐ終わるんだね…ふーん、お疲れ様。」
「どうもどうも。」
 話している間にケーキの準備が終わり、目的を果たしたアリスはケーキを持ってそそくさと帰っていった。まだ夕食までに時間はあるのにどうしてあんなに急いで帰ったのだろうか。
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