四銃士

黄坂美々

文字の大きさ
7 / 30

7 少女との約束

しおりを挟む
 その夜、アレンはクレイグに頼まれて酒場に来ていた。数本の酒を買い、店を出たところで背後から声をかけられる。

「ねえ」

 アレンが声のした方を見ると、昼間の少女が紙袋を抱えて立っていた。アレンは少し驚きながら答える。

「何?」
「これ」

 そう言って少女が紙袋を差し出す。アレンは紙袋を受け取り、中を見ると赤いリンゴが5つ入っていた。

「くれるの?」
「うん。昼間はごめんなさい。痛くない?」

 アレンは軽く微笑みを浮かべて言う。

「ありがとう。少し痛むけど大丈夫。意外と丈夫なんだ。友達はどう?」
「平気。あんたは何で怒らないの?」
「んー……。こんなこと言ったら嫌がるかもしれないけど、みんなまだ子どもなのに必死に生きようとしているように見えたんだ」
「そっか、お見通しなんだ」
「え?」
「私たちみんな孤児なの」
「そっか……。みんな俺たちなんかより大変な思いをしてきたんだね」
「初めてだった。あんなことしたのに優しくしてくれた人」
「ごめんね。俺には君たちを助けられるほどお金もないし、力もない」
「いいの。そう思ってくれるだけその辺の大人よりマシ。だって冷たい何もしてくれない人もいるんだから」
「このリンゴ、本当にもらっていいの?」
「うん、それはお詫びだから気にしないで。それより、さっきマスターに人魚姫の涙のこと聞いてなかった?」
「聞いたけどどうして?」
「それ、知ってるかも」
「えっ、ほんと⁉ 教えて、大切な友達の命がかかってるんだ」

 少女はアレンをじっと見つめる。

「この街から北東に行ったところにメラクの森ってのがあるの。たぶんそこ」
「森? 人魚なのに……」
「それはたとえ。人魚姫の涙は雫型の宝石なの。でも森には凶暴なモンスターがいるって噂があるから行かない方がいいと思う」
「心配してくれてありがとう。でも諦めるわけにはいかないんだ。どうしても助けたいから」
「私の両親はそれを取りに行って帰らなかった」

 アレンは驚いて少女を見つめる。少女は潤んだ瞳でアレンを見上げて言う。

「あんたに死んでほしくない」

 アレンは少しの沈黙後、少女をしっかり見つめて話す。

「約束する。俺は死なない。必ず戻ってくる」

 そう言って少女に微笑みかける。少女は涙を拭いて言う。

「私の名前はワンダ。あの噴水の前でずっと待ってる」
「約束ね、ワンダ」

 そう言ってアレンはその場を後にした。ワンダはアレンの後ろ姿をいつまでも心配そうに見つめていた。


 翌朝、市場前でアレンとティムとブラッドが立ち話をしている。ティムが時計を見ながら言う。

「クレイグ遅いね。何してるんだろう」

 そこへクレイグが小走りで駆け寄ってくる。

「ごめん、ごめん。店のジジイが死にかけかってくらいトロくてまいったぜ」
「何してたんだ」

 ブラッドが言った。

「おまえらにプレゼント買ってたんだよ」

 クレイグが皆に剣を渡す。アレンは剣を見て言う。

「こんな立派な剣いいの? 高そう」
「まあな、でも大丈夫。めちゃくちゃ値切ったからな」
「なんか可哀想な気もするね……」

 ティムが言う。ブラッドが剣を受け取りながら言う。

「そんな状態で店開いてる方が悪い」
「冷たいなブラッドは……」

 ティムがブラッドを見て言う。4人は剣を腰にさし、馬にまたがる。そして街を出て、北東に向かった。しばらくすると、木々の生い茂った森が見えてくる。4人は森の中へ静かに入っていく。いろいろな鳥たちの鳴き声が響き、奥へと続く長い道がある。ティムが周りを見渡してつぶやく。

「ここがメラクの森か……」
「ほんとにあるのか?」

 クレイグが疑いの眼差しをアレンに向ける。

「それは行ってみないとわからないね」

 アレンが言う。ブラッドがアレンを見て言う。

「騙した奴の情報ってのが残念だな」
「もし嘘だったら二回も同じ人騙す度胸に感心しちゃうよ」

 ティムが少し笑いながら言った。ブラッドは森の奥を見ながら言う。

「これは何日かかるかわからないな」

 ティムが荷物を軽く叩きながら言う。

「食料はあるよ。足りなかったら途中で調達しよ」
「仕方ねえ。贅沢は言ってらんねえな」

 クレイグが不満そうに言った。そして4人はゆっくりと森の奥へと入っていく。
 道の脇にはいろいろな木々が生えており、色とりどりの名も知らない花が咲いている。様々なきれいな蝶がひらひらと飛び、木漏れ日が揺れている。ブラッドが馬に乗り、先頭をゆっくりと進んでいると、少し開けたところに出る。そのとき突然、馬が立ち止まり動かなくなる。ブラッドは手綱を軽く引いてみたり、馬の様子をうかがう。クレイグは馬の横腹を軽く蹴り、動かそうと手綱を強く引く。

「おい!」

 ティムは慌てて止めようと声をかける。

「待って! あんまり無理したら――」

 しかし遅かった。クレイグの馬は激しく暴れ、クレイグは地面に振り落とされてしまう。

「いってえ!」
「ほら、無茶するから」

 ティムが馬から降りながらクレイグに言う。ティムが暴れる馬に近づこうとしたとき、馬が横道へと駆けて行ってしまう。ティムは慌てて後を追いかけて行く。クレイグはバツの悪そうな顔をしている。アレンも馬から降り、クレイグに手を差し出して言う。

「大丈夫? 馬はティムに任せよ」
「悪いな」

 クレイグはアレンの手を取り立ち上がる。ブラッドも馬から降り、馬の顔を軽く撫でる。馬の様子を見ていたブラッドが突然険しい顔で周囲を見渡す。異変に気づいた二人も周囲を警戒する。クレイグは腰の銃に手をかける。ブラッドが馬の尻を叩く。

「行け!」

 馬が勢いよく駆け出したと同時に大蛇が草陰から飛び出してくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...