四銃士

黄坂美々

文字の大きさ
16 / 30

16 スケープゴート

しおりを挟む
 ブラッドは何事もなかったように脱衣所で荷物を棚に置いている。そこへ3人がバタバタと入ってくる。

「あれはないよ!」

 ティムが言った。続けてアレンも話しだす。

「泊めてくれたのに聞きもしないなんて」

 クレイグが荷物を置きながら、ブラッドに言う。

「まあ、おまえらしいけどな。女将も見る目ないよな。よりによってこいつに頼み事って」
「面倒事はごめんだ。聞いたところでどうせ断るなら聞くだけ無駄だろ」

 ブラッドがそう言って上着を脱いだとき、ケイが女将を連れて脱衣所に入ってくる。それを見たクレイグが慌てて言う。

「おまえ、どこまで入って来てんだよ!」
「途中で逃げるからだろ!」

 女将はブラッドの身体を見つめて言う。

「やっぱりいい体してるよ」

 ブラッドは怪訝な目で女将を見る。皆も苦笑いを浮かべて女将を見る。ケイが女将をにらみつけて言う。

「おい、あんた。体まじまじと見に来たんじゃないよね?」

 女将は慌てて話しだす。

「おっと失礼。そうじゃないんだ。あんたならこの宿……いや、街を救えそうな気がしたんだ」

 クレイグが女将に言う。

「こいつに頼んでも無駄だぜ。諦めろ」

 ティムが女将に聞く。

「救うって、やっぱり賊から?」
「そう。明日の昼、奴らが決闘をしに来るんだ。そこで勝てばもうこの街を襲撃しない約束になってる」
「そんな約束守るわけないだろ」

 ブラッドが冷たく言う。

「でも賭けるしかないんだよ。月に一度、奴らは決闘をしかけてくる。今まで何人の男が瀕死にされてきたか……」
「おそらく負けねえとわかってて、痛めつけることを楽しんでやがるな」

 クレイグが言った。それを聞いたケイが険しい顔で言う。

「私がぶっ殺してやるよ」

 女将が慌てて止める。

「何言ってんだい。あんたはだめだよ! 女は出てっちゃだめだ」
「私だってやれるよ! なめんなっての!」

 クレイグが止めに入る。

「だめだ! 俺に任せろ。この銃で一瞬で片付けてやるよ」
「こっちは素手って決まりがあってね。それにあんたはちょっと……」
「素手か……って俺じゃ不満ってどういう意味だよ!」

 クレイグが不満そうに言った。

「出場予定者はどうした」

 ブラッドが女将に聞くと、女将は黙り込んでうつむいてしまう。そこへ小太りの男がやってくる。

「母さん、もうやめろよ。迷惑だろ」

 そう言って、皆が見つめる中、男は女将の腕をつかみ連れ出そうとする。しかし女将はその手を振りほどいて潤んだ瞳で言う。

「何言ってんだい! もう時間がないんだ。この人に頼むしかないだろ!」
「この人には関係のないことだろ」

 女将と息子が目の前で言い争いをはじめたので、ブラッドが強めの口調で言う。

「いい加減風呂に入らせてくれ」

 はっとした女将と息子は急いで脱衣所から出ていき、ケイも急いでついていく。その後4人は風呂に入った。ブラッドは黙って目を閉じて湯につかっている。3人も静かにブラッドを見つめながら入っていたが、耐えきれなくなったティムが口を開く。

「ブラッド――」
「黙れ」
「でも――」
「聞きたくない」

 ブラッドはティムの話を遮り聞こうとしない。ティムはムッとしながら黙り込む。それを見たクレイグがティムに言う。

「もうやめろ。おまえ、ブラッドに死ねって言いてえのか?」
「そうじゃないけど、ブラッドだったらもしかしたらって……」
「無茶言うなよ。いくらブラッドだって恐怖はあるんだぜ?」

 ブラッドは黙ったまま湯から上がり、風呂場を出ていく。3人は顔を見合わせる。


 ケイがロビーのソファに腰かけ、水を飲んでいる。そこへ風呂から上がったブラッドが通りかかり、ケイが声をかける。

「話聞いた。あの息子が予定者らしいよ」
「だろうな」
「息子がやられたら宿屋やってけないって嘆いてた」
「お節介な奴ら……」

 ブラッドはそう言ってケイの向かいのソファに腰を下ろした。ケイが眉をひそめて言う。

「あんたには優しさってもんがないわけ?」

 ブラッドは黙ったまま一点を見つめている。そこに3人が風呂から上がりロビーに来た。そしてクレイグが声をかける。

「まだ部屋に戻ってなかったのかよ」
「ちょっと話があってね。でももう終わった」

 ケイはそう言って、ソファから立ち上がり二階へと上がっていく。クレイグとティムもケイについて二階へ上がるが、アレンはソファに腰かけてブラッドに話しかける。

「ちょっといい?」
「また薄情だの冷たいだの言うんだろ。もう聞き飽きた」
「あの決闘、俺が代わりに出てみようかなって」
「目的を見失うな。ここで情に流されて大ケガしたらこの先どうするんだ」
「そうだけど、このまま放っておけないよ」

 ブラッドはため息をつく。

「だから聞きたくなかったんだよ。こうなると思った」

 アレンは黙って目を逸らし、ブラッドは話を続ける。

「俺が出る。その代わり約束しろ。負けてもリベンジは無し、そのまま進め。これ以上のボランティアはするなよ」
「ブラッド……ほんとにいいの?」
「仕方ないだろ。おまえに何かあったらアイリスが悲しむ……」
「ブラッドがケガしたって悲しむよ」
「レベルが違うな」
「知ったかだな……。でも気をつけて。無事に4人で帰るんだから」
「相手がわかんない以上、その約束はできないな」

 ブラッドはそう言って立ち上がり、階段を上がっていく。アレンは静かにその後ろ姿を見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...