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飼い主から送られた犬小屋
しおりを挟む5分ほど電車に乗り、2駅先の駅で降りた。
2人はその後やって来た特急電車に乗ると、特急電車の終点の1つ前で降車。
その後。
改札口へと上がる階段を登り、別の路線の電車を利用する為に切符を買った。
目的地へ向かう路線の電車が停まるホームへと進めば、目的地へ向かう電車が直ぐにやって来た。
2人はその電車に乗ると、目的地のある駅へ到着するまで揺られ続ける。
そうして、12分後には目的地の駅に到着した。
2人は電車から降りてホームを後にして改札を潜って駅から去ると、正樹の案内で目的地へと歩みを進めていく。
駅から15分ほど歩いた後。
目的地の前に立った2人は、互いに顔を見合わせる。
「飼い主から送られて来たメッセ通りなら、此処で合ってるって事だよな?」
正樹が確認する様に言うと、涼子は目の前に聳え立つ建物を見上げながら返す。
「そうね。どう見てもお高そうな高層マンションだけどね」
「だが、メッセに記されたマンション名は此処だ。オマケに部屋番号も指定されてると来てる」
「なら、間違い無く呼ばれた先が此処なんでしょうね」
涼子が正樹にそう返すと2人はマンションの中へと足を踏み入れ、インターホンに指定された部屋番号を打ち込んだ。
すると、固く閉ざされたマンションの扉が開いて2人を誘う。
2人はそのまま奥へ進むとエレベーターへと向かい、指定された部屋のある階まで登った。
そして、指定された部屋の前に立つと扉には1枚のメモ用紙が貼り付けられているのが見えた。
「鍵は開いてるから勝手に入れってよ」
メモ用紙を取った正樹がそう言うと涼子は扉に手を掛けて開け、中に足を踏み入れた。
その後に続いて正樹も部屋の中へ足を踏み入れると、2人で奥のリビングへ向かって足を進めていく。
程無くしてリビングに着くと、中はダイニングテーブルにソファーやテレビ等が据えられていた。
だが、人の気配は自分達を除いて無かった。
「こんな所に呼び出して何のつもりだ?」
そうボヤく正樹を他所に涼子はダイニングテーブルの上に置かれたメモ用紙に気が付くと、手に取って内容に目を通していく。
内容を読み終えた後。
涼子は辺りを見廻し、家具や室内に不審物が無いか?
確認していく正樹に語り掛ける。
「どうやら、此処は飼い主が私達に用意してくれたアジトみたいよ」
そう言うと、涼子は訝しむ正樹にメモ用紙を差し出した。
正樹は差し出されたメモ用紙を読み終えると納得する。
「なるほどな。差し詰めここは犬小屋って訳か」
皮肉を込めて、この部屋をそう呼ぶ正樹に涼子は肯定する。
「そう言っても良いわね。でも、こういう基地が有るのは大きいわ」
「確かにな。家には置けないブツを保管するのにも良さそうだ」
涼子にそう言った正樹はサファリシャツの胸ポケットからキャメルの黄色い紙箱を取り出す。
蓋を開けて中から煙草を1本抜き取って咥えると、年季の入った古めかしいオイルライターで火を点して煙草を燻らせ始める。
紫煙と共に煙草を燻らせる正樹に涼子は告げる。
「明日の月曜に此処に貴方に提供する銃器を置いておくわ」
「だから、出発当日までに調整しろってか?そうしたいのは山々だけど、俺の地元には試射出来る所が無い」
この日本で銃を撃てる場所は早々無い。
確かに民間の射撃場は日本国内にも存在する。
だが、あったとしても涼子が提供するカラシニコフの様な軍用の銃は持ってるだけで逮捕される代物。
それ故、民間の射撃場で試射をするというのは論外でもあった。
そんな問題を解決する為。
涼子は自分の持つ土地を提供する事を選んだ。
「なら、明日の放課後。此処に来て。射撃場も用意しておくわ」
「整備道具も揃ってると助かる」
「勿論用意しておくわ」
「それなら俺も装具を此処に運び込んでおいた方が良いな」
「なら、現地に向かう出発当日に此処へ集合しましょう。その方が良いでしょ?」
「いや、別々に現地入りした方が良いかもしんねぇぞ?相手はとんでもねぇ妖怪なんだろ?そうなると、ネトフリで観た事ある映画よろしく仕掛けられた時に俺か君、どっちかがくたばっても片方は現地入り出来る筈だろ?」
煙草を燻らせながら述べた正樹の意見とも言える言葉は、御尤もな意見と言えた。
確かに纏まって行って、2人同時に殺されてしまえば任務は果たせなくなる。
それに纏まって行って目立つよりは、別々に現地入りする方が怪しまれないのも良い。
その為。
涼子は正樹の提案とも言える意見を採用した。
「なら、その方が良いわね」
「後、君は使い魔とやらを使って現地を偵察して情報収集するんだろ?その際に獲た情報を基に作戦会議もしたいね」
現実的に必要な物をこうして挙げる正樹は、涼子にとって良い相棒と言っても良いだろう。
そんな正樹が求めているだろう偵察で獲た情報を何時開示するか?
それを基に作戦会議を開けるのか?
そんな問いに涼子は答える。
「3日後の水曜日。この日に出来る限り偵察した情報を提供するわ」
3日後の水曜日に偵察情報を基に作戦会議を開く。
それを涼子が告げれば、正樹は承諾した。
「解った。その日は絶対に予定を空けておく。だが、他にも必要なモノはあるぜ?」
「コラテラルダメージを出ない様にする方法ね」
コラテラルダメージを一切出すな。
そんな要望とも言える条件を満たす為には、一計を案じなければならなかった。
「現地の非戦闘員に協力者を作れれば良いんだが……流石にその暇も時間も無い」
正樹の言葉に涼子は尋ねる。
「貴方、特殊部隊に居たの?」
涼子の問いに煙草を燻らせる正樹は訝しむと、涼子は更に続けて根拠を述べる。
「一般的な普通の兵士なら現地に協力者を作るなんて早々言わないし、考えないわ」
涼子から述べられた根拠に正樹は大きな紫煙を吐き出してから返す。
「ふぅぅぅ……一般的な部隊でもそんな活動させられたりするだろ?CODのMWシリーズみてぇによ?」
はぐらかして己の異世界時代の事を語ろうとしない正樹に涼子は更に言う。
「…………一般的な部隊は謂わば、直接的に敵を殴り殺す為のハンマーと言っても良いわ。でも、特殊部隊の様な特殊な条件下で活動する部隊の中には敵地に潜入して活動する謂わば外科用メスと言っても良い。そんな特殊部隊の様な思考を巡らせられる奴が一般的な部隊だったとか言うのは少しばかり無理が有るんじゃないかしら?」
涼子から言われた正樹は煙草を燻らせながら静かに答える。
「俺に戦う術と生き延びる術を叩き込んだジジィが特殊部隊にも在籍していたテロリストだったのさ。で、異世界に飛ばされた時にジジィに拾われた俺はジジィの下で色んな戦場をたらい回しにされた後、テロ活動をさせられた」
正樹が正直に答えれば、涼子は納得すると共に謝罪した。
「そういう事ね。貴方の過去をほじくり出してしまって御免なさい」
「気にするな別に良い。事実だからな。後、君の過去に関して俺は興味無いし、どうでも良い。だから、申し訳無さそうに自分の過去を語る必要は無いからな」
正樹は紳士でもあった。
だからこそ、涼子を責めようともしない。
そればかりか、涼子が申し訳無さそうにして自分の過去を語ろうとしても、語らなくて良いと優しく返した。
そんな正樹は今の話題を忘れさせる様に、涼子へ作戦に必要な事を告げて話題転換を図る。
「てな訳で現地に協力者を作れない以上は別の方法でコラテラルダメージを出さないようにしないとならない訳だが……何か良い案って無いか?」
正樹から良い案が無いか?
問われた涼子は少し考えると、思い付いた案を述べた。
「飼い主達に協力して貰えないかしら?」
涼子の提案の意味を正樹は少し考えると、理解したのだろう。
涼子が考えている事を具体的に口にする。
「あー、作戦展開地域である山の本来の主の協力を得て非戦闘員を戦闘展開してる所へ足を踏み入れさせない様にする訳か……現実的に考えてソレしか方法は無さそうだな」
同時にソレしかコラテラルダメージを出さない方法が無い事を理解している事も正樹が告げれば、涼子は更に続けて言う。
「理想は非戦闘員全てが他所に避難させる事なんでしょうけど……流石に無理よね?」
「其処ばかりは飼い主達の意向次第だから何とも言えないな。此方から戦闘区域になる地点に足を踏み入れない様に要請して、非戦闘員達には家で静かに待って貰えるだけでも御の字と思っておく方が良さそうだな」
激しい戦闘となれば敵と非戦闘員の区別はとても難しくなる。
非戦闘員が迂闊にも戦場へ足を踏み入れる様な事が無くなるだけでも、任務の難易度は下がる。
それ故に涼子はスマートフォンを手に取ると、タケさんに現地に住まう善良なる妖怪達を一時的に他所にある別の土地に避難させる。
または山林内に於いて戦場から離れた所へ避難して貰う様にメッセージで要請した。
「飼い主には作戦決行当日に非戦闘員を避難させる様に要請はしたわ」
「後は上の動き次第だな。これで非戦闘員も交えて戦闘になったら、流石にコラテラルダメージを容認して貰わんと任務達成が不可能に近くなるぞ」
「こればかりは私達でどうにか出来る事じゃないわ」
狗からの要望に対して飼い主達が対応してくれるか?
実際、解らない。
飼い主達が何もしなければ、自分達はコラテラルダメージを出さない様に敵味方を常に識別しながら戦わなければならない。
これだけは確かであった。
「取り敢えず、コラテラルダメージに関して考えるのは一旦は終わりにしても良いかしら?」
涼子がそう言うと、短くなって来た煙草を携帯灰皿に棄てながら正樹は返す。
「君が言った様にこればかりは俺達が何とか出来る話じゃないからな。さて、どうする?」
「どうする?って?」
「君の偵察報告が手元に来るまで作戦立案は出来ない。オマケに武器は明日、君が届ける。今この場で出来る事は無いんじゃないか?って思ってね」
「確かにその通りね。なら、もう帰らない?」
「そうしよう」
そう言う事になった。
2人はメモ用紙と一緒に置かれていたこの部屋の鍵を各自回収すると、部屋を後にして其々の日常に戻る為に家路へと着くのであった。
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