現代に帰還した"元"邪悪な魔女は平穏に暮らしたいけど、駄目そうなので周到に準備して立ち回りながら無双します

忘八

文字の大きさ
53 / 100

外では邪悪な権力者。家では良き夫

しおりを挟む
 前書きと言う名の通知

更新後は1週間ほど更新を休みます。





 その日の夕方過ぎ。
 また人が死んだ。
 また殺された。
 静かな銃声がする度に胸や頭。
 時には喉を穿たれ、彼等は血飛沫を上げながら死んで逝く。
 彼等を殺しているのは勿論、正樹であった。
 正樹は涼子への宣言通り、警察が昨晩の虐殺の犯人を血走った目で躍起に捜し回っている中でキマイラ派の残党狩りを決行したのだ。
 まさに、有言実行と言えるだろう。
 そして、最後の1人を大型のサプレッサーが取り付けられたスタームルガーMk4で喉と眉間を撃ち抜いて殺害すれば、今宵の狩りは完了。
 他に残敵が無いか?
 それを確認する為にセーフハウス内を見て廻り、他に敵が居ない事を確認していく。
 残敵とも言える殺し損なった者が居ない事の確認が済めば、死体を引き摺って一箇所に纏めた。
 部屋の中央に4つの死体を引き摺って纏めると、正樹はビジネスマンから提供された仕事用のスマートフォンを手に電話する。
 相手……ビジネスマンの手下は直ぐに出た。

 「終わりました」

 4つの死体を見下しながら告げると、相手から電話が切られた。
 それから3分もしない内にセーフハウスの扉が開くと、眼鏡を掛けた歳を召した老婦人が部下である妙齢の女性達を伴って現れた。
 そう、彼女が電話した先であるビジネスマンの手下である。
 そんな彼女は正樹の前に立つと、尋ねた。

 「数は4つかい?」

 死体の数の確認に正樹は肯定すると、同時に申し訳無さそうに尋ねる。

 「えぇ、4つです。死体動かしたの不味かったですかね?」

 4つの死体は何れも喉を撃ち抜かれていた。
 それ故、頸動脈から夥しい血がドバドバ流れ、その血の跡が床に残っていた。
 その為、余計な事をしたんじゃないか?
 正樹は少しだけ申し訳無さそうにしていた。
 そんな正樹に老婦人は気にする事無く返す。

 「掃除の手間は変わらないから良いさ。寧ろ、死体を片付けやすくなったから好都合さね」

 寧ろ、都合が良い。
 そう告げられると、正樹は老婦人に感謝する。

 「ありがとう御座います」

 「じゃ、早速だけど外の車で着替えな。硝煙と死臭をさせたまま外に出歩くのは流石に不味いからね。あ、銃は此方で始末するから渡しな」

 老婦人に言われると、正樹はスタームルガーMk4から弾倉を抜いてスライドを引いた。
 そうして、完全に抜弾した正樹は手袋越しながらも慣れた手付きでアッパーとロアーを別れさせてから老婦人に差し出した。
 2つに分けられたスタームルガーMk4と弾が3発残る弾倉を受け取った老婦人は、去り行く正樹の背に向けて告げる。

 「アンタ、気に入ったよ」

 老婦人の言葉に正樹は無言のまま手を挙げて返すと、老婦人は部下である女性達に告げる。

 「さぁ、お嬢さん達。仕事だよ」

 そう告げられると、同時。
 彼女達は動き出す。
 4つの死体を1つずつ頑丈な透明のビニールシートで厳重に包装し、ミイラの様にラッピングして外気に触れない様にする者達。
 乾きつつある幾つもの血痕を特製のアルカリ洗剤等を用いて入念に清掃する者達。
 そうして、役割分担が成されて清掃されると共に犯行現場は最初から何も無かったかの様な状態となっていく。
 彼女達の手で清掃業者も真っ青なワザマエで清掃されれば、犯行現場はモデルルームの様な清潔感に満ち溢れた。
 そして……

 「終わりました」

 部下達の長が老婦人に報告すると、老婦人は隠れ家内をチェックし始めた。
 入念に隅から隅までチェックし、問題点が一切無い事を確認した老婦人は部下である彼女達に告げる。

 「良い子よ、貴女達。じゃ、後はゴミを始末して帰るわよ」

 そう告げると、老婦人達は犯行現場だった標的達の隠れ家から立ち去る。
 残されたのは、此処で殺人が行われたのが嘘の様な状態と言っても良い綺麗に清掃された部屋だけであった。
 運び出された4つの死体が表に出る事は永遠に無いだろう。
 無論、此処で殺人事件が起きた事も誰にも知られないだろう。
 それは、タケさんの手下をしている件のビジネスマンが強大な力を持っている事を意味していた。
 そんなビジネスマンは自宅で幼い2歳の息子が3歳の虎模様のマンチカンと一緒に遊んでいるのを微笑ましく眺めながら、仕事のメールをしていた。

 「たこにゃーにゃー」

 幼い息子が辿々たどたどしくマンチカンの事を父親であるビジネスマンに教えると、ビジネスマンは笑顔と共に「たこやき、ありがとうな。後でオヤツあげるから」そう飼い猫のマンチカンに語り掛ける。
 マンチカンのたこやきは意味を理解したのか、楽しそうに2歳の息子と戯れる。
 そんな微笑ましい平和な光景を他所にビジネスマンはスマートフォンを眺め、送られてきた文面を確認する。

 『掃除完了。出たゴミはこれから処理』

 簡潔明瞭なメッセージにビジネスマンは淡々と返信した。

 『ご苦労さん』

 そうして、今夜の問題が人知れずに片付いた事にホッとしたビジネスマンは思案する。

 八塚会は崩壊した。
 入国して来たキマイラ派が片付くのも時間の問題となった。
 だが、大きな問題が残ってる。

 大きな問題。
 それは今は亡き老人が率いていたチャイニーズマフィアの事だ。

 チャイマ連中は八塚会が崩壊した事を既に察知していると見て良い。
 そうなると、日本に既に居る連中は八塚会のシマを奪う為に動き出すと考えた方が良い。

 ビジネスマンも正樹と同じ予想をしていた。
 蛇の道は蛇とはこう言う事を言うのだろう。
 そんなビジネスマンは、更に思考を巡らせていく。

 八塚会のシマは要らない。
 連中の抱えるシノギは欲しいけど……
 だが、チャイマチャイニーズマフィアにシマを奪われるのは戴けない。
 そうなると……やっぱ、俺が奪った方が良いよな?

 八塚会と言う関東に於ける巨大な裏社会の"重石"が外れてしまった事で騒乱は免れない。
 そして、騒乱の勝者が今は亡き老人が率いていたチャイニーズマフィアに奪われる事だけは避けたかった。
 その為……

 八塚会に残る俺の狗達に組織を掌握させるしかないな。

 崩壊してる関東八塚会を仕込んでいたスパイ達に掌握させ、傀儡政権を樹立させる。
 そうして、間接的に八塚会のシマとシノギを奪う事でチャイニーズマフィアに裏社会の主権を奪われない様にする。
 これがビジネスマンが思い描く絵の理想であった。
 だが……

 展開が急過ぎるんだよ。
 段階を踏んでくれよ……

 初日に本部ビルを爆破して瓦礫に。
 その翌日には派手なカチコミ掛け、残る主要な幹部達を全て地獄に送った。
 流石に急展開過ぎる。
 その為、本来の予定が大きく瓦解してしまった。
 それ故、流石のビジネスマンでも戸惑い、この後に打つべき一手が覚束なくなっていた。
 そんな原因であるこの場には居らぬ2人に対し、ビジネスマンは心の中で毒吐いてしまう。

 あの2人ヤバ過ぎだ。
 ジジイタケさんが支援しろと言うから、関わった結果がコレだ。
 マジで縁切りてぇ……

 ゲンナリとしてしまうと、たこやきをそっちのけに愛息子が心配そうな顔をして声を掛けてきた。

 「どこかいたいの?」

 心配そうにする愛息子にビジネスマンは優しい微笑みと共に返した。

 「大丈夫だよ。ありがとうな」

 そう返すと、愛する妻の声が響いた。

 「貴方ぁ!はるをお風呂に入れてー!」

 愛する妻から愛息子である晴をお風呂に入れる様に言われると、ビジネスマン「あ!もうこんな時間か」と、慌ててソファーから立ち上がって晴を抱っこした。
 そして、約束のオヤツはどうした?
 そう睨んで来るたこやきを尻目にビジネスマンは晴を優しく抱き抱えながらバスルームへと向かうのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...