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二章 騎士の誓い
十四話 平和の為に
しおりを挟む「よし、荷物チェック完了。メルティ、忘れ物は無さそうか?」
「はい!ベットの下もタンスの下も確認済みです!」
キョウヤが宿屋の外から声をかけ、メルティが部屋の中から答える。
「何や、もう行くんか?ふぁぁぁ。眠くてしゃーないわ」
「もう九時だぞ。俺たちはチェックアウトするからお前も出ろ」
「しゃーないなぁ」
キョウヤ、メルティと悪魔ウィルヴィの取引はひとまず一区切りが付いた。ウィルヴィを見逃す代わりに今知っている奴隷売買の場所と時間を教えるという取引だ。しかしこれからもウィルヴィには情報が入る予定らしいので取引はお互いが生きている、もしくは奴隷売買がこの世界から無くなるまで続くのだろう。
「そういえばウィルヴィさんは一緒に来ないんですか?」
「行く訳ないやろ。ワシがお前らと一緒におったら間違いなくワシに奴隷売買の情報回ってこーへんぞ」
ウィルヴィの言い分にメルティが納得してぽんと手を叩く。ウィルヴィは凄く強いのでまた奴隷商人に雇われている(?)悪魔や強敵と戦う時に一緒に戦ってくれたら最高なのだが、それは高望みというものだ。
「仕方がない事だ。それより早く次の目的地へ向かおう。まだ数日あるとは言え早めに行って情報収集や準備をしておきたい」
「はい。ではウィルヴィさん。これで失礼します」
「あいよ。さて、ワシも養成しに行くかぁ」
ウィルヴィにペコリと頭を下げてキョウヤとメルティは部屋から出て、そのまま宿も出て行く。その姿を見送ったウィルヴィは大きなあくびを噛み殺して二人が宿泊していた宿屋の一室の窓から宿屋を去っていった。
「さて、次の目的地は、ここだな」
キョウヤが歩きながら購入した地図を開く。次なる目的地はこの町より少しだけ大きい町。距離にして四日程歩けば着くほどの距離である。
「遠いですね。それに次の売買は五日後ってウィルヴィさん言ってませんでした!?ギリギリじゃないですか!!」
「そんな事はない。何も移動手段と言うものは歩きだけじゃない」
キョウヤが足を止めてメルティに指を刺す方向を見る様に促す。その指示通りにメルティがキョウヤの指の先を見ると、そこには大きな荷台を轢いた馬がいた。いわゆる馬車というやつである。
「わぁ!馬車ですね!私、初めて見ました!」
初めて見る馬車にメルティは目を輝かせて喜ぶ。サンクラリィス教会は町から離れた場所にあったしメルティは教会から離れた事がない様なので馬車というそこそこ見慣れたものにでも目を輝かせてワクワク出来るのだろう。それはある種羨ましい事であるとキョウヤは考えている。
「でも、馬車に乗るにはお金が掛かるのですよね?」
「それはそうだが、この馬車は定期便だ。だから俺たち意外にも客がいて、そんなに値段が高くない」
町から町に移動する主な方法がこの定期便の馬車である。定期便の馬車は人を乗せるものから荷物を運ぶものまで様々であり、勿論金銭はかかるがそれほど高額ではないので一問無しの無職で無ければ乗る事は難しくない。
「それに、資金は少し貯まっている」
キョウヤがそう言いながら少しだけ膨らんだ財布を見せる。この資金はアーマードレイブンの素材の売却金だ。使えそうな部品は今メルティやキョウヤが装備している防具や武具に生まれ変わったが使わなかった部品やアーマードレイブンのカラスの部分はそのまま探検家協会という探検家のサポートをしてくれる所へ持っていき、資金に変えてもらった。アーマードレイブンの素材はそこそこレアなものらしく、ひとまず貧乏生活からは脱出出来たのだ。また余談ではあるが二人の探検家ランクが一つ上がった。このランクは探検家の実力そのものの証明であり、強力な魔獣の討伐などはこのランクが上のものでなければ受ける事が出来ない。協力な魔獣と戦う事で強くなれるし、報酬も当然高い。よってランクを上げるという行為はこの旅において必要なノルマと言えるだろう。
「そろそろ出発する様だ。俺たちも金銭を払って乗り込もう」
「はい!」
メルティはいい笑顔で答え、金銭を払って馬車に乗り込んだ。
「わぁ、ここが馬車の中なんですね!」
馬車の荷台は木で作られた小さな小屋の様な作りだ。屋根があり椅子がある。これだけでかなり移動の大変さが無くなる。
「わぁ!中はこんな感じなんですね!」
「姉ちゃん馬車に乗るのは初めてなのか!?俺は二度目だぜ!」
「わぁ!凄いですね!」
馬車に乗り込むと既に中に乗っていた少年に話しかけられたメルティは少年と楽しげに会話を続けていく。
「御者殿。この馬車に護衛はいないのか?」
「安心してくだせえお客さん。ちゃんと金を払って探検家を雇ってますよ」
「そうか、それなら安心だな」
メルティが少年と馬車での会話を花を咲かせている間にキョウヤは馬車の運転手に気掛かりな事を聞いておいた。馬車での移動は盗賊や魔物に襲われる確率が高い。故に護衛は必要となる。正直な話、キョウヤが乗っている時点で護衛は要らないも同然ではあるが、今回は他の乗客達の目もある。その為キョウヤが戦うとキョウヤの正体がバレてしまうという恐れがある。故にキョウヤは出来る事なら戦いたくないのだ。
(あの人達が、護衛か?)
馬車の隅に座っている三人組の男をチラリと見る。人相の悪い男達だった。そして、若干の悪意も感じた。
「御者殿。あの人達は何処で」
「おっとお客さん。気になるのは分かったがもう出発の時間だ。今更護衛を変える事も出来ねえし安全の為にも座ってくだせえ」
キョウヤの質問は途中で止められてしまった。少々旅に不安を覚えたが、仕方がないのでキョウヤもメルティの横に座った。
「メルティ、話の途中済まないが、確認したい事がある」
「あ、はい!ごめんね、ちょっとお兄さんとお話してきますね」
「分かったー!」
メルティと話していた少年は聞き分け良くそう答えると両親と思われる人物の元へと会話の矛先を変えた。少し申し訳ないが、この話は大切な話なので早めにしておきたい。
「話したい内容と言うのは、新しく授かった奇跡の事だ」
「はい。転移の奇跡の事ですね」
メルティが新たに授かった奇跡。それはウィルヴィを倒し、騎士に囲まれた時に使った瞬間移動の奇跡だ。
「あれの発動条件や何処に飛ぶのかなどを確認したい」
奇跡を授かった時はメルティが神に強く祈った事で発動し、何故かは分からないが防具屋へ転送された。転移の奇跡は使い道が実に多い為、その奇跡の仕組みはキョウヤも知っておきたい。
「発動条件は他の奇跡と同じで、神に祈れば使えます。転移する場所は、申し訳ないんですけどまだ分からないんです」
「そうか。任意の場所に転移する事が出来れば良かったんだが」
何故あの時防具屋に転移したのかは奇跡を発動させたメルティですら分からなかった。あの時は非常に助かったが何処に転移するのか分からないとなると使い道はかなり絞られる。
「しかも実験しようにも何処にいくのか分からない以上迂闊に実験も出来ないときたか」
「うう、申し訳ないです」
ペコリと頭を下げるメルティにキョウヤは微笑んで頭を撫でる。
「気にする必要はない。あの時は本当に助かった。これからも期待している」
「え、えへへ。はい!メルティにお任せ下さい!」
満面の笑みでキョウヤに撫でられるメルティは実に可愛らしくまるで尻尾をぶんぶんと振って喜ぶ子犬の様だった。そんな時。馬車がいきなり急停止をした。
「きゃぁ!」
「っ!」
急停止した事で慣性の法則が働き馬車に乗っている人たちは勢い良く地面に叩きつけられた。キョウヤは咄嗟にメルティを抱きしめてメルティが地面に強打されるという事態は避けたが衝撃は殺しきれなかった。
「無事か?」
「ひゃ、ひゃい」
急にキョウヤに抱きしめられたメルティは全身まで真っ赤になって呆けていた。
「様子を見てくる必要があるか」
「あ」
「大丈夫、すぐ戻る。メルティは彼らを守ってやってくれ」
キョウヤが離れる事にメルティは軽い吐息と共に寂しそうに手を伸ばすがキョウヤはメルティの頭をぽんと叩き馬車の外へ出た。
「ここを通ったのが運の尽きだ。有金全部置いていきな!」
「ひっひぃ!」
(成程。盗賊に捕まったか)
キョウヤは隠れ潜みながら馬車の外の様子を見る。馬車は三人組の盗賊に絡まれていた。盗賊達はそれぞれがしっかり武器を持っており抵抗したらどうなるのか示している様だ。
「ご、護衛の皆さん!お願いします!」
「おうよ」
馬車の運転手が雇った護衛を呼んだがどうも護衛達の様子がおかしい。
「悪りぃな雇い主さんよぉ、大人しく金置いてってくれや」
「そっ!そんな!!」
(グルか)
護衛を引き受けていた探検家は馬車から降りるとすぐに運転手に短剣を突きつけていた。どうやら盗賊と探検家は仲間でこれは計画通りだったのだろう。
「あまり目立ちたくは無かったが、仕方ないな」
キョウヤは馬車の影から素早く駆け出した。
「さぁ、有り金を全部出し、なっぁぁ!?」
短剣を持ってニヤニヤと笑って、完全に油断し切っていた一人の盗賊の顎にキョウヤの拳がクリーンヒットした。
「なっ!なんだ!?」
「誰だお前!」
奇襲を受けた事に驚いた二人がキョウヤの方を見るが、動揺がまるで隠せていない。故に隙だらけだ。そんな盗賊の意識を刈り取るのはキョウヤには容易い。
「て!てめぇ!」
残る三人が武器を構えてキョウヤに襲いくるが、まず自力の差が違いすぎる。盗賊団達は数十秒でキョウヤによって制圧された。
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