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二章 騎士の誓い
十七話 悪魔殺し
しおりを挟む「よし、これで五つ目。ウィルヴィから開示された情報にあった奴隷売買は全て食い止められたな」
場所はとある街の小さな宿屋の一室。二つ目の奴隷売買を食い止めてから約二ヶ月の時が経過した。キョウヤとメルティは自身の身体能力や奇跡を磨いたり、探検家としての依頼をこなしながらウィルヴィから聞いた奴隷売買を潰して回っていた。その中にはサンクラリィス教会に住んでいた子供達もおり、キョウヤとメルティの当初の目的としては見事完遂となった。しかし、次なる目標の為、二人はここで立ち止まる訳にはいかない。
「全て回ってしまったならこの後の情報をウィルヴィさんに聞かないとですね。ん?あれ?キョウヤ様ってウィルヴィさんと連絡取れたりしますか?」
この世界における人との連絡は直接会う以外の方法は手紙を出したり人伝に伝言を伝える事くらいだ。電話などという便利な物はこの世界には存在していない。
「知らないな」
「詰んだじゃないですか!?ウィルヴィさんが家なんか持ってる訳もありませんし手紙を出したって絶対届きませんよ!!」
「まあそう焦るな。昨日の奴隷売買でウィルヴィが示した奴隷売買の情報が尽きる事くらい奴も分かっている筈だ。だから」
「ま、当然ワシから接触があると考える訳やな」
キョウヤが言葉を口にしている間にこの言葉に口を挟む声が何もない所から響いた。
「そんな登場をするとは思わなかったな」
「かっかっか!悪魔っぽい登場の仕方やろ?」
何もない場所につむじ風が吹くと、その風は小さな竜巻を引き起こし、人一人分の大きさになる。そしてその風が止むとそこには久しぶりに見たウィルヴィが立っていた。
「ここは人目がない場所だからまだ良いですけど、ここが街中だったらどうするつもりなんですか!?」
「そんなもんワシだって分かっとるわ。ここにお前ら以外おらん事確認して派手に登場しとるっちゅーねん」
そんな自分は人間ではありませんと周りに伝える様な登場の仕方をするウィルヴィにメルティがぷんすか怒るがウィルヴィは鼻をほじりながら軽くいなす。相変わらずこの二人は相性があまり良くない。
「さて、こうして現れたという事は。あなたとの取引はまだ続いているという認識でいいんだな?」
「当たり前やろ。ワシはお前らに夢を見たんや。このまま逆らう悪魔全員殺して行こうや」
「殺す、というのは物騒だな。俺は悪魔殺しはしていないぞ」
「よー言うわ。ほれ」
ウィルヴィは口を大きく開けて笑いながらキョウヤに紙の束を投げつける。それは号外だった。テレビも無ければラジオもないこの世界における号外の紙は周囲の状況を知る為の大きなコンテンツだった。
「悪魔、殺し?」
キョウヤがそれを見て顔を歪ませる。そこには<悪魔殺し!またしても暴れる!>とデカデカと書かれていた。そこには白黒の写真が貼られておりその背景が昨夜キョウヤが潰した奴隷売買の会場で下級悪魔と思われる人影が見える事からもこの悪魔殺しというのはキョウヤの事で間違いない様だ。
「お前ら読んでないんかい。二回目くらいからお前にはこんな二つ名が付けられとるで。二人組で顔や声はまるで覚えていないが拳で殴られた事は間違いないって証言もある。驚く事にお前が吸血鬼なのはバレてへんけどな。あ、あと悪魔殺しやなくてデビルスレイヤーやで。上に振り仮名振ってあるやろ?」
「それはどちらでもいいが、中には吸血鬼も混じってなかったか?それなら吸血鬼殺しも入るだろうから悪魔殺しは適切ではないのではないか?」
「そんなもん人間からしたら一緒やわ!どっちも得体の知れないバケモン。それで終わりや」
吸血鬼と悪魔の違いなど人間には些細な物なのかも知れない。被害の種類が違うが人が死ぬことに違いはない故かも知れないが、キョウヤにとってはとても大切な事だ。
「ま、そんな事はどうでも良いやろ。大切なんは結果や」
「それには同意する。別に何と呼ばれようと構わない」
「そんな事はありません!キョウヤ様の呼び名は大切です!カッコいい呼び方でないと」
メルティが妙に二つ名に噛みついてくるがキョウヤとしては本当にどうでもいいのでその話は華麗にスルーする事とした。
「次の売買の場所と時間は?」
「二件や」
ウィルヴィが指を二本立ててキョウヤに見せるとキョウヤは少し驚き、声をあげる。
「それだけか?」
「ホンマやで。そんで、その二件は同じ日の同時刻に始まる。当然行われるのは別の街や。大分遠いな」
「そんな!それじゃあ両方に行けないじゃないですか!」
メルティが立ち上がり声を荒げる。しかしその言葉こそが向こうの狙いだという事は容易に想像できる。
「考えたな。そうすればどちらかの売買は行える」
「向こうとしても五回も止められたら対処せざるを得ないんやろな。ほんで、どっちに行くんや?」
「・・・詳しい情報を教えろ」
こうなった場合を考えなかった訳ではないが、実際の対処方は思いついていない。ウィルヴィが戦闘にも協力してくれるというのなら二手に別れる事も出来るが、ウィルヴィは敵のスパイである事がバレてはこれ以上の情報が入ってこなくなる故、ウィルヴィが奴隷売買に首を突っ込む訳にはいかない。そうなると必然的にどちらかを防ぎ、どちらかは放置するしかない。
「場所はこっから東の街と南の街やな。商売の規模はほぼ同じ。売り物は両方五十やったかな?」
「ウィルヴィ」
「あー。せやな。今のはワシが悪いわ。売り物やなくて奴隷にされそうな子供達なー。どっちも同じやんけ」
ウィルヴィの言葉にキョウヤは鋭くウィルヴィを睨みつける。するとウィルヴィは両手を横に広げて大きなため息を吐いた。ウィルヴィは協力者とはいえ悪魔であると、こういった点から感じ取られる。
「なるほど。そういう点でいえばどちらでも同じになるのか」
「まだ大きな違いがあるで。その売買の会場には、どっちにも四代悪魔がおる」
「四代悪魔が!?」
四代悪魔。この世の悪魔達の中で上位の位に位置する四体の悪魔。何を隠そうウィルヴィもそのうちの一体だ。ウィルヴィとの戦いはメルティがいなければキョウヤは勝利を掴む事が出来ていない。
「つまりどちらに向かうにしろ覚悟が必要という事ですね!」
「そーいうこっちゃな。ちなみに東が水、南が土や」
「はい?水?土?」
ウィルヴィの口から出て来た単語にメルティが困惑する様に首を傾げる。それを見てウィルヴィが大口をあけて笑う。
「かっかっか!なんや知らんのか!?」
「なっ!何をですか!?」
「四代悪魔はそれぞれ四つのエレメントのスペシャリストの事をそう呼ぶ様だ。そのエレメントの種類が、火。水。土。そして風だ」
悪魔とは邪悪なる力を使うと知られているが、その邪悪なる力こそがこのエレメントだ。この四つのエレメントを使ってくる事が悪魔と吸血鬼の大きな違いと言えるだろう。
「なるほど。それでウィルヴィさんは風の四代悪魔だった訳ですね」
「そーいうこっちゃ」
次に対峙する四代悪魔は水か土。吸血鬼は血を利用して戦闘をする為水とは相性が良いとも言えるし、相性が悪いとも言える。ならば土との戦いに挑むべきか。
「水の方はよく交流ないから知らんけど、土は多分キョウヤと相性悪いで。キョウヤと、ちゅーか。まず吸血鬼と相性悪いやろな」
「それは何故?」
「土の奴はゴーレムとか作るのが好きやねん。そのゴーレムは当然土で出来とる訳やろ」
「なるほど」
ウィルヴィの説明にキョウヤは理解した様に頷くがメルティは再び首を傾げた。
「土には血が流れていない。つまり相手の血を利用してその血を武器に変えるという戦闘方法が取れないんだ」
「あぁ!なるほどです!」
「まあ水が血を水に変える力とか持っとったらそっちも相性悪いけどな!かっかっか!前会ったの三百年前くらいやし知らんわ!!」
楽しげに使い物にならない事を言うウィルヴィは置いておいてどちらに向かうべきかを真剣に考える。今のキョウヤはウィルヴィと戦った時より鍛錬を積んでいるし、メルティの血を一定数取り込んでいる。吸血鬼の力は取り込んだ血の量に直結する。つまり、時間をかければ掛けるほど吸血鬼は強くなる。ならば今は少しでも相性の良い相手と戦うべきだ。
「決めた。水の悪魔と戦いに行こう」
「おっしゃ、なら東やな。いやぁ、二人の殺し合いを眺めるのが今から楽しみやわ!!」
笑いながら恐ろしい事をいうウィルヴィだがその点は既に慣れて来た。
「日程は?」
「まだ結構あるから慌てんなや。それより、久々に会ったんや。ワシと一戦交えて行こうや」
「断る」
「まだ日程教えてへん理由がこれや。ワシと殺し合うなら教えたる」
キョウヤが少し考える様に黙り込む。ウィルヴィは何も善意でキョウヤに協力している訳ではない。ならばウィルヴィにこれからも協力関係を継続して貰うためにウィルヴィの申し出をある程度は受けた方が良いだろう。
「分かった。だが、殺し合いじゃない。力比べだ。これは譲らない」
「しゃーないなぁ。ほなそれでええわ。さ、一目の付かへんところでやり合おうや」
次なる目的の為にキョウヤとメルティ、ウィルヴィは足を進めていく。
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