Vampire escape

藤丸セブン

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序章 吸血鬼とシスター

三話 出発の朝

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「はぁ、はぁ、んっ、はぁ」
 時刻は早朝。普段より早く目が覚めたメルティは息を荒くしていた。
「んっ、あっ。ふっうう」
 メルティのいる場所はサンクラリィス教会のメルティの部屋。サンクラリィス教会は五人組のチンピラに襲撃され、金目の元を探すためかナイフでズタズタに切り裂かれていた。しかしメルティの部屋に侵入される前にメルティが目を覚ました事で部屋には何もされていなかったのだ。昼に出会ったヴァンパイアのキョウヤと共に旅をする事を決意したメルティだが、流石に夜が遅かった事もあり一晩サンクラリィス教会で過ごした後に旅立つこととなったのだ。
「んっ!!キョウヤ様、キョウヤ様ぁぁ!」
「呼んだか?」
 いつの間にか激しくなっていたのか、感情を込めすぎて大声が出てしまった。メルティの呼び声に応じたキョウヤがメルティの部屋にノックもなく入ってくる。
「あっ」
 二人の間を沈黙が支配する。そしてキョウヤは数秒の沈黙の後にその沈黙を破った。
「・・・シスターっていうのは。もっとこう、そういう事はしないのだと思っていたが」
「冷静にしていないで出ていって下さいぃぃ!!」
  ◇
「こほん。お見苦しい所をお見せしました」
「別に見苦しくはなかった。俺は女性の産まれたままの姿を見た事はなかったが、とても綺麗だったと思う」
「忘れて下さい!い、え。それで、私の裸体でキョウヤ様が興奮してくださるなら、忘れなくても、いいですよ」
 頬を真っ赤に染めたメルティを見て忘れる様に努力しようと感じたキョウヤだった。
「で、それは別いいんだが。これからどうする?」
 キョウヤがメルティの部屋を訪れた理由はメルティの産まれたままの姿を見る為ではない。これからについて話し合う為だ。昨夜捕らえたチンピラから情報を得ようとしたが、彼らも指示されただけで何も知らないという。故に自分の手で子供達を救い出す事となった。
「実は、お恥ずかしい話なのですが。私はここを出たことがないのです。食事の調達などはシスターウラディアがやってくれていましたし」
「つまり、無計画だと」
「は、はい」
 キョウヤの言葉にシュンとするメルティ。その姿が捨てられた子犬の様に見えてキョウヤは思わず頭を撫でた。
「大丈夫。少しずつやって行こう」
「は、はい」
 全く同じ返事だったが声のトーンがまるで違った一度目は悲しい犬の鳴き声。二回目は尻尾を凄い速度で振っている犬の声だった。少し発情期の犬に見えなくもないが、そこは気づかなかった事としよう。
「少しずつとは言いますが、まずはどうしましょう?」
「まずは街に行こう。そこで奴隷商人に話を聞く」
 今更ではあるが、この世界には人間以外に様々な人種が存在する。ヴァンパイア、悪魔、魔物以外にもエルフや獣人、ドワーフに亜人。様々な種族がいる世界故にその種族達を好き放題したいと考える金持ち共は少なくない。その者達の欲を満たす職業が奴隷商人だ。警備の衛兵などはいるものの奴隷商人は上手く彼らの目を掻い潜り金儲けをしている。
「奴隷商人、ですか」
「怖がる必要はない。彼らは客を商品にはしない。昨夜のチンピラの様に奴隷商人に奴隷を提供しようとする奴らとは違うんだ」
 当然だが奴隷商人は商人である。商人の仕事は商品を客に売る事。客として訪れた者を奴隷にしようなどという奴隷商人はいないと断言できる。
「子供達が奴隷にさせられているなら、奴隷商人の元へ行く。ここまでは私も理解出来ます。しかし、子供達を見つけたとしても彼らを解放できるでしょうか?」
「頑張ればいけると思うが」
「そ、そうなんですね。そんなにお金があるとは思いませんでした」
「・・・お金?」
 メルティの言葉にキョウヤが固まる。
「へ?奴隷を買うのにはお金が必要ですよね?子供達を解放した後に育てていくのにもお金が必要ですし」
「いや、普通に奪っていくつもりだった。お金は、ない」
 幾ら奴隷商人が違法な商売といえど奴隷を盗むという行為は奴隷商人全てを敵に回す行為となる。ただでさえキョウヤはあまり目立ちたくないと考えているのに、指名手配させる様な真似はしたくない。
「いっそのこと奴隷商人のお店を衛兵に叩き出したら良いのでは?」
「それだ」
 メルティの意見にキョウヤが食い気味に了承する。奴隷商人は違法商売だ。衛兵に伝えれば確保してくれるだろう。
「しかしそうなると子供達と一緒に暮らす事は出来なくなりますね」
「それは、そうだろうな」
 奴隷商人を捕らえたとしてもその場にキョウヤやメルティがいる訳にはいかない。理由は先程と同じ、この世界にいる全ての奴隷商人にキョウヤ達の顔を覚えられてしまうからだ。
「俺がヴァンパイアでなければ」
「それは言っても仕方がない事です。それに、あなたがヴァンパイアでなかったら。私はきっと今頃生きていません」
 キョウヤの強さの理由の半分は自身がヴァンパイアである事だ。ヴァンパイアは生まれつき体が普通の人間より強い。チンピラに使う事は無かったがヴァンパイアである以上血を操ったり空を飛ぶ事も出来る。つまりキョウヤが普通の人間ならメルティを助けられなかっただろう。
「とりあえず、今すぐ結論を急ぐ必要はないか。今はまず近くの街へ行こう」
「そうですね。話は移動しながらでも出来ますし」
 メルティは昨晩にまとめておいた少ない荷物を持って出かける準備を万端に済ませた。
「荷物はそれだけか?女性は荷物が多いと聞いたが」
「私の私物はそれ程多くありませんから。服に歯ブラシやお財布。後、下着のみです」
 少し頬を赤くしながら答えるメルティ。キョウヤはそんなメルティに何か言おうか悩んだが、敢えて何も言わない事を選んだ。
「じゃあ行こうか。この近くの街は何処だ?」
「へ?知らないのですか?」
 キョウヤの問いかけにメルティが問いで返す。猛烈に嫌な予感がする。確かにここを出た事がないと言っていたが。
「街の場所、知らないのか?」
「はい。てっきりキョウヤ様が知っているものとばかり」
 二人は暫く黙り込んだ後地図らしきものがないか教会内を探し回った。
「ありました!」
 探し回って二時間。ようやく地図を発見した。ちなみに地図はウラディアの部屋にあった。
「これで街の場所が分かるな。さて、それでここは何処なんだ?」
「へ?知らないのですか?」
 二度目の嫌な予感。キョウヤもメルティもこの教会が何処にあるのかを知らないのだ。これでは結局二人がどちらに迎えば街に着けるのかが分からない。
「いや、ウラディアという女性は街に出かけていたのだろう?なら、街というのはそんなに遠くない筈。適当に歩いても着く筈」
「そ、そうですね!向かってみるしかありませんね!きっと何とかなりますよ!」
 こうして二人の旅が幕を開けた。
「そういえば、キョウヤ様はどうして旅をしているのですか?」
 歩き始めて最初の会話。それはキョウヤの旅の理由だった。実際子供達を解放するというのはメルティの目的だ。流れ的にキョウヤも手伝ってくれてはいるが、元々のキョウヤの目的を邪魔したくはない。
「俺の目的は明確じゃないんだ。だから、あなたの目的に手を貸すのは何も問題ない」
「明確じゃない?」
「ああ。俺はただ、誰も傷つけずに穏やかに生活したいだけなんだ」
 キョウヤはヴァンパイアの里に産まれた。ヴァンパイアは人を襲い人の血を吸わなければ生きていけない。ならば当然ヴァンパイアは人を襲う。だが、キョウヤはそれを嫌がった。人傷つけるという行為をしたくないと考えたのだ。故に人ではなく魔物や動物の血を吸って生きてきたが、それがある日家族にバレた。人の血を吸いたくないヴァンパイアなどヴァンパイアの中では異質中の異質。家族や親戚、友人達に煙たがられ、疎まれたキョウヤは成人すると同時にヴァンパイアの里から出ていく様に言われ、その指示に従った。
「それだけだ。だから俺は特別な目的がある訳じゃないんだ」
「成程。本当に、大変だったのですね」
「ありがとう。でも、同情はいらない。これは、俺が選んだ道だから」
 ヴァンパイアと産まれたのだから人を襲い生きていくという道もあった筈だ。人を襲った結果返り討ちにあって殺される事はあっても、激しい吸血衝動に駆られて苦しむことは無かった。だがキョウヤは人を襲わない事を選んだのだ。
「という事は、キョウヤ様は人を襲わないと皆に伝えれば普通に生きていけるのでは?」
「そんなに甘くない。人々は弱い心を持ってる。たとえ俺が産まれてこの方一度も自分の意思で人を襲っていないといっても、信じてくれる人は少ないだろう」
 キョウヤの言葉にメルティは悲しそうな表情で俯く。仕方がない事とはいえ、メルティにとっては非常に悲しい話だ。
「でも、俺は幸せ者だよ。あなたの様な理解者に出会えたんだから」
「キョウヤ様っ!!」
 キョウヤのその言葉にメルティはトキメキ、思わずキョウヤに飛びかかって抱きしめる。
「安心して下さい。誰が何と言おうと私はキョウヤ様の味方です」
「ありがとう。・・・もう分かったから離してくれないか?」
 メルティの抱擁はキョウヤがどれだけ言葉をかけても終わらない。しかし力ずくで引き剥がすのも何か違う様な気がする。そんな事を考えてしまった為、メルティの抱擁は三時間程度続いた。
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