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三章 魔獣の襲撃
三十一話 奥の手
しおりを挟む「行くぞ!」
アヴィオールの号令に従ってアルタイル、スピカ、アヴィオールが前進。ベガとシリウスが三人の道を邪魔する魔獣を蹴散らした。
「どうやら少し本気を出さないといけないみたいね!」
アスラエルが手にした鞭をライオンの首に叩きつけるとライオンが悲鳴の様な雄叫びをあげて口から炎を吐き出す。
「俺を炎で仕留められるとでも!?」
スピカとアヴィオールは素直に魔獣からの炎を回避するがアルタイルはそのまま炎に突進していく。
「幾ら炎に耐性があるっていっても、突っ込んでいかなくても」
「そりゃあそこが最短ルートだからね」
アシスト組のシリウスが深い息を吐くとベガが表情を変えずに答える。当然炎の影響を受けずに真っ直ぐアスラエルの元へ行けるのは大きい。だが幾らアルタイルが炎を使えるといっても炎が一切効かない訳ではない。当然ダメージはある訳だが。
「何あれ、炎を纏ってる?」
アルタイルも正面から攻撃を喰らいに行く程馬鹿ではない。アルタイルはアスラエルから放たれる炎に自分の炎をぶつけて相殺。ではなく自分の炎と融合させていた。
「アタイの炎とアンタの炎を混ぜ合わせたって!?無茶苦茶過ぎるわ!」
「ダブルフレアストーム!!」
アルタイルとアスラエルの炎をそのまま嵐の様な勢いで放出する。アルタイルの手で生み出された人工の炎の嵐は螺旋を描きながらアスラエルの体の一部を飲み込んだ。
「くっ!こっの!」
炎に焼かれ皮膚が焼かれ続けるライオンの首を前脚の爪で切り落とす。アスラエルには炎を即座に消す方法はない。故に常に燃え続けて再生を続けられないより切り落として再生を優先した。その行動は実に正しい。が、
「心臓の箇所が絞られたな!」
「やぁぁぁ!」
アヴィオールとスピカの魔剣がアスラエルの前脚を切り落とす。アヴィオールは一撃で、スピカは数回の斬撃でという違いはあるものの結果としては何の違いもない。
「残るは二つの頭と胴体、後ろ足二本!」
「ちっ!あまりアタイを舐めない事!!」
アスラエルが鞭を自分の体の背中へ叩きつける。正確に言うのならば背中ではなく、背中にしまわれていた翼にだが。
「あ!そういえば完全に忘れてた!」
アスラエルの体には三つのライオンの首だけでなく雄々しい翼も付いていた。
「させない!」
「それはアタイのセリフだよ!」
空に逃げられてしまってはアルタイルやアヴィオールが手を出し辛くなってしまう。それを防ぐ為スピカは自分とアイコンタクトをしたアヴィオールを両翼の根本へ転送した。が、アヴィオールはライオンの首による頭突きが、スピカには巨大な鉢の群れが迫る。
「ちっ!」
「きゃぁ!」
お互いその攻撃による致命打は避け、最低限のダメージで抑えられたがその隙にアスラエルは空へ飛び立った後だった。
「スピカ!もう一度だ!俺も飛ばせ」
「待った!あの高さだとスピカが飛ばせても同じ様に叩き落とされて終わるよ!」
アルタイルの言葉に応じて転送の準備をしていたスピカがシリウスの言葉で止まる。その隙を狙って増殖された魔獣がスピカの首を狙ってくるが、その魔獣達はベガが殴り飛ばす。
「アッハハハハハ!ここまでこればアンタらにアタイは殺せない!このまま魔獣の群れを出し続けるだけでアタイの勝ちさ!!!」
「クッソ!スピカ!ダメ元で俺を飛ばせ!」
「う、うん!」
アルタイルに従いスピカがアルタイルを転送する。転送する場所は勿論アスラエルの両翼を焼き尽くせる場所。
「そう来るわよね」
だが、それは勿論読まれている。アルタイルが転送された場所には大量の蜂の群れが陣取っていた。
「っ!フレアフレイム!」
自由落下の中でアルタイルが炎を打ち出すがその炎は巨大な蜂を焼き尽くすだけでアスラエルの炎には届かない。
「転送!」
地上から十メートル程離れた場所空から落下死しない様にスピカが再度転送してアヴィオールが受け止める。
「だから言ったでしょ」
「やってみなきゃ分かんなかったかもだろ」
シリウスに小言を言われたアルタイルが口を尖らせて反抗する。しかしその反抗が無駄であることは言うまでもない。
「どうする!?このまま時間をかけていては体が再生してしまうぞ!?」
「分かってる!出来ればやりたくなかったけど、奥の手を出す」
歯軋りをしたシリウスは奥の手を使うための準備を始めた。
「向こうの状況が分からないからやりたくはなかったけど!」
シリウスが取り出した物。それは、スマートフォンだった。
テレテッテンテッテンテンテン
テッテレテンテンテンテン
軽快な音が周囲に響く。それはまごうことなくスマホの電話の音だ。そして数秒後にそのスマホの音が切れる。この音が途切れる理由は二つ。一つは時間経過。もう一つは、電話をかけた相手が電話に出た時だ。
「助けて!お姉ちゃーーーーん!!!」
その場にいたシリウス以外の皆にクエスチョンマークで包まれる。それも当然だ。奥の手、とまで言っていた事が姉に助けを求める事なのだから。だが。
「え?」
聞こえたのはアスラエルの小さな声。その声を上げたアスラエルが見たのは、流れ星の様な光。その光の正体は。
「しーーーーーりーーーーーーーうーーーーーーすぅーーーーーー!!!!」
シリウスの姉にしてスタレイス帝国のS級魔剣士、プロキオン・シバルバーだ。プロキオンは流れ星の様な速度で地面へ着地すると勢いをそのままにシリウスに抱きつき、情熱的な接吻をした。
「んんんんんん!?」
「ぷはぁぁ。えへへへ、シリウスゥゥ」
「ちょっ!ここ外だから!みんないるから!緊急事態だから!」
シリウスによる必死の叫びにプロキオンはシリウスから離れる。実に名残惜しそうに。
「これは、中々大胆だな」
プロキオンの行動とシリウスの奥の手にアヴィオールが小さく呟く。向こう側の戦争の様子が分からないのでプロキオンを呼びたくはなかったが、プロキオンが助けに来てくれたのは実にありがたい。
「いいでしょう?私の!シリウスよ」
「「まじめにやれ」」
変人コンビの双子に叱られたプロキオンは垂れる涎を拭ってアスラエルを睨みつけた。
「さて、あいつをどうすればいいの?普通の方法じゃ殺せないって事?」
「うん。お姉ちゃんにはあの翼を焼いてあいつを地面に落として欲しいの。難しいかも知れないけど」
「分かったわ、お姉ちゃんに任せて」
プロキオンは不安そうにプロキオンを見るシリウスの頭を撫でて魔剣を発動させた。
「ハッ!舐められたものね。魔剣士が一人追加された程度でアタイを殺せるって!?」
「ええ」
プロキオンが体に雷を纏って地面を蹴る。その跳躍力は凄まじく空を飛ぶアスラエルの元まで一瞬で辿り着く。
「行きなさい!」
「雷鳴よ、轟け」
蜂の魔獣による突進。その突進をプロキオンは魔剣を一振りしただけで全て焼き尽くした。
「ちっ!でもまだよ!」
「いいえ、終わりよ」
「へ?」
プロキオンの言葉を聞いてアスラエルが素っ頓狂な声をあげた。その理由は簡単、アスラエルに生えている立派な両翼は既に切り裂かれて、空に自分の体を置く事が出来なくなっていたからだ。
「ぎぃぁぁぁ!」
空を飛べなくなったアスラエルは地面に落ちる。次の瞬間。
「「いらっしゃーい」」
アルタイルとベガがアスラエルの視界に映った。
「「おらぁぁぁ!」」
アルタイルが右後ろ足を、スピカが左後ろ足を、アヴィオールが二つあるライオンの首の一つを切り裂き、ベガが人の体を思い切り殴りつける。
「ごっはぁ!?ちょ、待っ!」
アスラエルの言葉を待たずに空からプロキオンが落下。人の体を宿したライオンの首を切り落とした。
「まだ、アタイの叛逆は。アタイの世界がっ!」
「悪いな。お前の世界はこれで終わりだ」
「バーニングブリンガー!!!」
アルタイルの魔剣から放たれた炎が細かく斬られたアスラエルの体を焼き尽くした。
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