豊穣の剣

藤丸セブン

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2.5章 兄弟と異変

23話 模擬戦

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「さて、模擬戦をするのに最適な場所と来たら、ここしかないだろう」
 焔が四人を連れてきた場所は特異課のオフィスにある訓練室だ。異界武具を惜しみなく使った戦闘を行える場所など限られているし、当然と言えば当然ではあるのだが。
「よし始めよう!絶対ぶちのめしてあげる!」
「ふぅん。いいだろう、生意気な小娘に格の違いってやつを見せてあげるよ」
 訓練室に入った六継紀とヨゾラは既に異界武具を顕現させており既に戦闘態勢を取っていた。その二人の様子を見て焔は端末を操作して外部に攻撃が通らなくなる障壁を展開させた。
「さて、それじゃあ拙者達もやるとするでござる」
 アルカイアは落ち着いた様子で青く輝く鍵を取り出し、異界武具の姿を顕現させる。
「それは、クナイ?」
 アルカイアの両手には忍者の武器と言えばの定番である青いクナイが握られていた。
「正確には違うでござる。拙者の武具は水流の短刀。それを拙者が形を変化させているに過ぎぬのでござるよ」
「なるほど。水系統の武具だがら姿を変えるとかいう芸当が可能な訳か」
 水の異界武具は金属の武器から水を放出する武具と武具そのものが水で出来ている二種類の武具が存在している。アルカイアの水流の短刀は後者。水の自由な形を持ち主の思い描く形状に変更する事が出来る。
「戦闘中とかに姿を変えられるのが強いってアレグリアが言ってたけど。戦闘前に変えちゃうのか」
「うむ。どちらにせよ拙者は兄上殿の様に槍などの武具は振り回せぬ。それなら最初から使い慣れたこれが一番なのでござるよ」
 少し勿体無いとも思うがアルカイアの言う事も最もだ。七尾矢がどうこう言うものではない。
「でも模擬戦前に武具の情報教えちゃっていいの?」
「拙者は七尾矢殿の武具を知っているので、これで公平でござるよ」
 アレグリアの弟とは思えない程のいい子だ。これがアレグリアなら「情報は武器だ。無知な方が悪いんだよ」と言うであろう。
「しかし!いい子だからと言って六継紀を守れるとは判断できない!」
「全くもって仰る通りでござる。では、参る」
 アルカイアがクナイを構えて七尾矢に向かって駆け出すと同時に焔が障壁を展開。透明な障壁がアルカイアと七尾矢の周囲を包み込んだ。
「蔦よ、絡み取れ!」
 こちらへ肉薄するアルカイアに自然の剣を発動させ地面から蔦を伸ばす。その蔦の数々をアルカイアは冷静に回避して行く。
「早っ!」
 アルカイアはその小柄な体型を上手く活かした速度で七尾矢との距離を縮めてクナイを振り下ろす。
「くっ!」
 アルカイアのクナイを自然の剣で受け止める。しかし一度武具同士をぶつけ合わせるとアルカイアは即座に七尾矢の元から身を引いた。
「クナイによる一撃は軽い。典型的なスピードタイプって事ね」
「うむ。しかし、それだけだとは思わないで欲しいでござる!」
 アルカイアは再び七尾矢へ駆け出すと同時に水流のクナイを発動。
「忍法、分身の術」
 アルカイアが自らの体を水で包む。そしてその水からアルカイアが飛び出した。その人数は、三人。
「ええーー!?」
 アルカイアが三人に増えた現状に七尾矢は自らの目を疑うが、実際にアルカイアは三人いる。対応しなければならないと頭では分かっているが、驚愕の方が強く攻撃への対応が遅れる。
「はぁ!」
「がっ!このっ!」
 アルカイアのクナイが七尾矢に突き刺さる。アルカイアは胸を狙ったが、自らの腕を前に突き出す事で急所へのダメージは避けた。その後大樹を作り出しアルカイアを殴り飛ばす。
「流石。この程度では決着をつけさせてはくれないでござるね」
「君こそ。全力で殴ったつもりだけど見事に受け身を取ってダメージをいなすとは」
 七尾矢は大樹をもう一度振り回すと一度大樹を消滅させる。気力温存の策だ。
「拙者の分身の原理、分かったでござるか?」
「水で作られた人形とも思ったけど、それならあの時俺を刺した方がダメージを与えられた。でも、俺が受けた攻撃は一回のみ」
 つまり、アルカイアの分身は七尾矢を攻撃したくても攻撃出来なかったということだ。
「つまり、水蒸気を反射とかして作り出された幻覚!」
「いや、普通に水で作った人形でござる」
「・・・・・」
 沈黙。この状況に於かれた対処法が思いつかない。あれだけカッコつけておいて推理を大きく外した。恐らく恥ずかしさで顔は真っ赤だろう。
「え、えっと。間違える事もあるでござるよ」
「妙に慰めるのやめて」
 戦闘中だと言うのに両手で顔を覆ってしゃがみ込む七尾矢。実際の戦闘なら確実に死んでいるであろう行為だが、今は許して欲しい。
「こらー。戦闘再開しろー」
「あ、承知したでござる。七尾矢殿。再開出来そうでござるか」
「うん。ありがとう。そしてごめん」
 やはりアルカイアは心が広い。例えるならば海。いや、もう宇宙程に心が広いのではなかろうか。
「では、忍法!激流の術!!」
 アルカイアがクナイを発動させ津波の如く水を作り出し、七尾矢へ放出する。純粋なる水の前に搦手は悪手。ならば。
「真っ向から迎え撃つ!森林壁!!」
 放たれた激流を生い茂った木々の群れで堰き止める。しかしこれだけでは防御にしかならない。
「プラントナックルス!!」
 攻撃手段なら既に仕掛けてある。それがアルカイアを振り払った大樹の一振り。そのタイミングで木々の種を周囲に撒いていた。後はその種を開花させ、木々で殴るのみ。
「甘いでござるよ!」
 アルカイアは木々の拳を避け、自らが作り出した激流に飛び込む。アルカイアは激流の流れに身を任せ、一瞬で七尾矢を自分の間合いへと入れた。
「忍法!水刃旋風の術!!」
「ぐぁぁぁぁ!!」
 水で作り出された刃を大量に七尾矢に叩き込むアルカイア。水の刃は七尾矢の体を次々と切り刻んでいく。
「伸びろ!」
 水刃の嵐から逃れる為自らを植物で押し出しなんとかアルカイアの猛攻から抜け出す。しかし七尾矢の負った傷はかなり深い。
「忍法、水流弾!」
「森林壁!」
 重い水の弾丸をなんとか木々で防ぐ。しかし弾丸に当たった木は音を立てて破壊されて行く。このままではジリ貧でしかない。
 (強い!アルカイアを甘く見てた訳じゃないけど、想像よりもずっと!)
 年下とは言え戦闘経験は格段にアルカイアの方が上だ。速度、異界武具による出力も比べ物にならない。
「それなら、卑怯な方法を取るしかないか」
 あまり気は進まないが、あの手を使うしかない。正直自分でも馬鹿馬鹿しい作戦ではあるが、可能性はある。
「森林の鎧!」
 七尾矢が自然の剣から木々を放出して自らの身に纏う。この鎧を纏った状態ならばアルカイアの攻撃も数発なら防ぐ事が出来るだろう。
「正面衝突でござるか。面白い!」
 自身の足に装着した木の鎧からアルカイアの方へ木を伸ばして自身の体ではとても出せない速度でアルカイアとの距離を詰める。アルカイアも突っ込んでくる七尾矢に応じて水流弾を真っ向から放ってくる。
 (こっちに合わせてくれるって事か。そう考えると今からやる事が酷いことに感じられるな)
 ひっかかるのかどうかは分からない。だが、きっと引っかかってくれる。何故なら彼は。
「あ!!あんなところにシナチクの作者!!岸田先生じゃないか!!!」
「マジでござるか!?!?!?」
 七尾矢がアルカイアの背後を指差しながら言うと七尾矢の想像以上に大きな声をあげて凄い勢いで背後を向いた。
「やっぱオタクならそうだよなぁ!!」
 森林の鎧は既に水流弾による猛攻でボロボロだが、攻撃は止んだ。
「フォレストインパクト!!!」
 完全なる不意打ち。敵対心もなく背後を見せた年下の少年に今できる全力の攻撃を叩き込む。七尾矢の大樹を拳に固めた一撃。それは七尾矢の作戦通りにクリーンヒットした。
「はぁ、はぁ、はぁ。ごめん、でも。六継紀の為なんだ。六継紀の為なら負けられない」
 フォレストインパクトの衝撃で壁に激突したアルカイアに背を向け、七尾矢は焔の方へ歩き出
「そうでござるな。大切なものを守る為には手段など選べない。その通りでござる」
「・・・なんで?俺のもてる全ての力を込めたのに」
「うむ。故に拙者のもてる力全てで防御させて頂いた。いい一撃だったでござるよ」
 アルカイアは笑って七尾矢を褒める。その笑顔はとても全力で防御した後とは思えなかった。
「な、ははは。参りました」
 彼には勝てない。七尾矢にはその事が今、はっきりと分かった。
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