豊穣の剣

藤丸セブン

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2.5章 兄弟と異変

24話 情報開示

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「くーやーしーいー!!」
 アルカイアに負けを認めて、焔に障壁を解除して貰うと地面に寝転がりながら駄々を捏ねる六継紀がいた。
「思ったよりはやるけど、まだ弱い。その程度でボクに勝とうなんて身の程を弁えなよ」
「納得いかないー!!なんでこんな奴が私より強いのー!!!」
「才能ってやつだろうね」
 ヨゾラが六継紀を鼻で笑うと六継紀が更に悔しそうに地団駄を踏む。
「才能、ねぇ」
 ヨゾラの言葉に七尾矢が苦笑いを浮かべる。周りを見ると焔もアルカイアも同じ様に笑っていた。確かにヨゾラには才能があるかもしれない。しかしヨゾラの強さは才能というものよりも努力による所が圧倒的に多いだろう。ヨゾラなりの照れ隠しは少し可愛く見える。
「それより、こいつの怪我どうするんだい?」
 ヨゾラが火傷をしている六継紀を指差して焔を見る。焔は不思議そうな顔をしながら「そりゃナウラさんに」と言おうとして、固まった。ナウラは絶賛休暇中である。
「誰もいない筈の訓練室から音がすると思ったら」
 その場にいなかった声を聞き一同は冷や汗を掻きながら振り返る。
「可笑しいわねぇ。焔はともかく七尾矢とヨゾラには休暇を出した筈なんだけど?それにアルカイアと六継紀までいるじゃない」
「あ、茜さん」
「アハハハハハ。私知ーらない!」
「待ちなさい焔!絶対あんたの差金でしょうが!」
 逃げようとする焔がすぐさま茜に捕まる。
「正座!」
「「「はい」」」
 七尾矢、アルカイア、焔は即座に正座。ヨゾラは聞く耳すら持たず、六継紀は「痛くて無理でーす」と反抗していた。
「で、どういう状況でこうなったのか説明してくれるかしら?」
 これは正直に話すしかないだろう。出来ればこんな兄弟喧嘩?を茜に話したくはないのだが。観念した七尾矢は今日起こった全ての事を話した。
「ふぅん。七尾矢も休みの日はぐだぐたするのね」
「絶対にそこじゃないよね」
 茜の謎の注目ポイントにヨゾラが即座にツッコミを入れた瞬間、六継紀の茜を見る目が変わった。正確に言えば殺意の籠ったような視線に。
「茜さん、いや茜。お前はもしかしてお兄ちゃんに擦り寄ろうとしてるのか?雌猫なのか?泥棒猫なのか?」
「なっ!?ななな何言ってるのよ!そそそそんな訳ないでしょうが!!」
「こら六継紀。何言ってるのかはよく分からないけど茜さんにそんな口調使っちゃダメだ。失礼だろ?」
 バレバレの抵抗をする茜だがそんなわかりやすい言い訳では六継紀を誤魔化す事は出来ない。だが七尾矢は何故六継紀が突然に殺意を茜に向け始めたのかを疑問に思っている。
「こいつは天然の塊なのか?それともただのバカなのか?」
「バカではないから天然なんだろうね。それも自分の恋愛事情にだけ」
「それは逆に凄いでござるね。自分が言うのも何でござるが、他人に向けられる好意って分かりやすいと思うのでござるが」
「それより六継紀を止めてくれない!?ガチで殺されそうなんだけど!?」
 茜が助けを求めてアルカイアとヨゾラの間に飛び込んでくる。今にも剣を片手に暴れそうな六継紀は七尾矢が宥めている。
「茜ー。いつまで油売ってるんだい?情報を見るなら早く、って七尾矢にヨゾラ!サボった焔と特異部の二人もいるじゃないか」
「げ、ボクは帰らせてもらう」
「兄上殿!奇遇でござるな!」
 訓練室にアレグリアが顔を出すとヨゾラとアルカイアが真逆の反応を見せる。ここまで正反対だと少し面白くなってくる。
「情報って?」
「あぁ。隊長から組織の幹部の情報が送られてきてね。七尾矢とヨゾラ、ナウラの休暇が終わったら皆んなでと思ってたんだけど、茜が早い方がいいって」
「偶然にもみんなを集めた私は優秀だと?」
「言ってないわよ」
 茜が軽く焔を小突く。その様子を見て笑うアレグリアの手にはタブレットが握られていた。普段タブレットなど触っているイメージがないのでそう言うアレグリアを見るのは新鮮だ。
「ま、みんな揃ってる事だし。場所を変えて見ていきましょうか」
 茜の意見に皆が頷き移動する。
「おかしいなー。俺休暇だった筈なのに」
 今更になって自分が休暇中だった事を思い出した七尾矢が一人小声で呟くが、その声は訓練室に静かに響くのみであった。
  ◇
「それで、幹部の情報ってのはどれくらいあるんだい?」
「二人よ。隊長が独自に調査してくれた確かな情報だから安心しなさい」
 組織の幹部は合計で七名。炎、水、草、雷、岩、氷属性の異界武具を使用している。
「その中で私達が倒したのが二人」
「オレが倒した風の武具使いの少女と」
「ボクがぶちのめした炎の武具を使っていたカイセイだね」
 となると残る幹部は五人。その中の二人の情報が分かったと言うのは大きい。
「あのー。凄い初歩的な質問かも知れないけどさ。隊長って茜さん、泥棒猫なんじゃないの?」
 六継紀が手を挙げて茜に質問をする。どうやら六継紀はあまり特異課について詳しい訳ではない様だ。
「私はあくまで代理。本来はもっと強い隊長がいるんだけど、その人が団体行動の苦手な男でね。あと泥棒猫って呼ぶのは辞めなさい」
「そのせいで茜ちゃんが代理に。罪な男だねぇ」
 焔の少し使い方の違う言葉にアルカイアがクスリと笑う。
「そんな変なこと言った?」
「団体行動が苦手、というのが。どうにも六継紀殿に似ているなと思って。少し笑ってしまったでござる」
「え!?」
 アルカイアがそういうと焔も少し笑い始めた。確かに六継紀は自己中心的で好奇心旺盛。故に一人で孤立して動きがちだが。
「ふっ」
「お兄ちゃんまでぇー!?」
「こらこら静粛に。会議中よ?」
「あれ、茜が珍しく隊長らしいね」
 軌道修正しようとする茜に茶々を入れるアレグリアを睨み、黙らせた後会議室の大きなモニターに情報が映る。
「分かったのは雷と水の幹部よ。雷の幹部は男で、雷鳴の大剣を使用しているそうよ」
 モニターに幹部の姿が映る。水色の髪に優しそうな瞳。隠し撮りの為か薄いTシャツを着ているどこにでもいそうな少年だった。
「この子が、幹部?」
 七尾矢は少し疑問を持ったが、人を見た目で判断してはいけない。先程茜は確かな情報だと言ったのだから、彼が組織の幹部であるのだろう。
「アルカイア、大丈夫かい?」
「・・・ええ。問題ないでござるよ。兄上殿」
 アレグリアとアルカイアの会話が耳に入り、そちらの方を向くとアルカイアが拳を強く握りしめているのが分かった。
「因縁の相手だったりするの?」
「知らないよ。というかそういうのは六継紀の方が知ってるんじゃないの?」
「アルカイアって自分の話全然しないから」
 同じく様子が可笑しい事に気づいた六継紀が七尾矢にヒソヒソと話しかけてくる。普段のアルカイアを知っている訳ではないが、あの温厚そうなアルカイアが拳を握ってモニターを見ているという時点で何か因縁のある相手である事は予測できる。ヨゾラにとってのカイセイの様に。
「もう一人は写真は撮れなかった。けど水の武具を使う幹部で、名前はレイン。長い黒髪に青色の瞳、それから右目の下に泣きぼくろがあるらしいわ」
「異界武具は?」
「確認出来てないって」
「ふぅん。肝心の異界武具が確認出来てない癖に水の幹部だって隊長は確信した訳?」
 ヨゾラの意見に茜が「そうなのよね」と小さく呟く。隊長の情報を信じたいものの武具が分かっていないのに幹部と確定しても良いのか悩んでいる様だ。
「要するにこいつが危険人物だって事でしょ。それだけ分かっていればいいんじゃないの?」
「私もアレグリアに賛成かな。実際私達が警戒しなきゃいけないのは幹部だけじゃない。一般兵だって私達を殺せる武具を持ってるんだから」
 アレグリアと焔の言葉に茜はまた少し悩み、ヨゾラは舌打ちをする。ヨゾラに至ってはアレグリアを敵視しすぎてアレグリアのやることなす事全てにケチを付けたいのだろうが。
「まあそうね。とにかくこの二人は要注意人物だわ!もし街で見かけたりしたら即座にこちらに連絡しなさい!いいわね!?」
「分かったけど、街中で組織の幹部にばったり出くわす事なんて無くない?」
「六継紀殿の言う通りかも知れぬが、人生は何が起こるか分からないものでござる。用心は怠ってはならぬでござるよ」
「はーい」
 こうして特異課と特異部の顔合わせを兼ねた会議は幕を閉じた。
「あ!お兄ちゃん!お父さん待たせっぱなしじゃん!」
「やべっ!茜さん!俺たち買い物して帰るのでお先に失礼します!」
 そう言い残すと七尾矢と六継紀は駆け足でオフィスを出て行った。
「お父さん?それってもしかして」
「うむ。もう一悶着、ありそうでござるな」
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