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25話 運命の出会い
しおりを挟む「あああああああ!休暇が終わるぅぅぅ!!」
七尾矢の魂の叫びが家中に響き渡る。だがこの叫びは当然の権利だ。何故なら休みが終わるのだから。
「くそぉ!こうなったら今日は最高の夕食を食べてやる!そうと決まれば早速買い出しだ!!」
最高の夕食と言ったらやはり、ステーキだろう。その為には最高級の肉を買わねばならない。いつものスーパーか。いや、やはり精肉店に行くしかないだろう!
「今日は平日!六継紀も父さんもいない!最高の夕食で驚かせてやろう!」
やるのならば徹底的に。直ぐに支度を済ませて家を出た。
「よし!贅肉店に行くぞ!」
普段行かない贅肉店に向かう途中。
「いいじゃねぇかよーぉ。俺たちと遊ぼうぜーぇ」
「こ、困ります」
このご時世で絶滅危惧種とも言われる程少ない野生のヤンキーに出会した。人気のない路地裏で気弱そうな女性にヤンキーが三人で絡んでいた。
「時間は無駄にしたくない。したくないけど、これを無視することは出来ないよなぁ」
少し大変な事になりそうだなと頭を掻くと路地裏へ向かった。
「あの、本当に困ります」
「いいじゃんいいじゃーん」
「ごっめーん!遅れちゃった!さっ、デート行こうぜ!」
ヤンキーと女性の間に強引に割って入る。念の為ヤンキーが少しでも怯む様に少しチャライ喋り方をしてみたが、効果はあるだろうか。
「なんだてめぇ?」
「お前みたいな奴には関係ねぇだろうが!?」
チャライ喋り方は効果なしだった様だ。そして完全に痛いところをつかれた。確かに彼女と七尾矢には関係がない。だが、それを認めてしまっては七尾矢はここで引き下がるしか無くなってしまう。ならば。
「関係ならある。俺は彼女の恋人だからなっ!」
出来るだけヤンキーが怯む様にチャラく目元でピースしてみる。ヤンキーを追い払う為とはいえ非常に恥ずかしい。
「何なんだお前?」
「恥ずかしくねぇのか?」
「その言葉そっくりそのまま返してやる!!てめぇら嫌がる女の子によってたかって恥ずかしくねぇのかこの野郎!!!」
「「「何だとこの野郎!」」」
ヤンキーに言われた言葉にカッとなって演技も忘れて本音をぶち撒ける。売り言葉に買い言葉。七尾矢もヤンキーもヒートアップしてしまった。
「いい奴ぶりやがって!痛い目見たい様だな!!」
「上等だこの野郎!」
この状況に少し期待していた自分がいた。カッコよく、颯爽と女性を助け、感謝される自分。その自分を夢見ていなかったかと言われれば嘘になる。しかし、現実ではそう上手く行かない。こうなったら強硬手段だ。
「後悔させてやる!」
大柄の男が腕を振り上げて七尾矢に殴りかかってくる。少し前の自分ならここでビビっていただろう。しかし、今の七尾矢にとってはこんなただのヤンキーの大振りなパンチなど止まって見える。
「よっ、と」
ヤンキーのパンチを軽々と躱して軽く腹パンを喰らわせる。
「ごほっ!」
七尾矢にとっての軽いパンチでもヤンキーに取っては意識を刈り取るには充分だった。
「あ、兄貴ぃぃ!?」
「さて、どうする?」
七尾矢がヤンキーに向けて睨みをきかせるとヤンキーは怯えて倒れた男を担いで逃げていった。
「えっと、大丈夫ですか?」
ヤンキーが完全に去っていったのを確認すると七尾矢は絡まれていた女性に振り返り優しく声をかける。
「・・・あっ!はい!ありがとう、ございました」
女性は恥ずかしそうに下を向き、ずれた眼鏡を直しながら七尾矢にお礼を言う。美しいと言う言葉が非常に似合う女性だった。新品に見える麦わら帽子から見える綺麗な黒色の長髪の持ち主だった。
「無事なら良かったです。じゃあ俺はこれで」
「あっ!待って!」
踵を返して女性の元を去ろうと七尾矢の腕を女性が掴む。予想もしていない行為に七尾矢の体が体勢が崩れ、女性を押し倒す様な形となる。
「っっっ!」
「すっ!!すみません!!」
顔だけでなく耳まで真っ赤にした女性から七尾矢は素早く飛び退く。
「あの、実は拙、この街に越してきたばかりで。もし宜しければこの街を案内してくれませんか?」
「な、なるほど」
貴重な最後の休日ではあるものの、困っている人を放って買い物をするというのは夢見が悪い。それに七尾矢も男の子だ。美人の女性に頼られてしまったら答えたくなってしまう。
「俺で良ければ」
照れくさそうに綻びた口元を隠しながらそう答えると女性は嬉しそうに笑う。普段の表情は美人だが笑うと少し幼く見える。
(って、何考えてるんだ俺は)
赤くなった顔を引き締めるべく女性に気づかれない様に頬を軽く叩く。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい!」
七尾矢と女性は街を歩きながら近所のスーパーや古着店、コインランドリーなどの生活に必要となる場所を紹介していく。
「そこのスーパーはさっきの所より卵が安いので卵を買うならこっちがいいですよ」
「お詳しいんですね。料理出来るんですか?」
「家では俺が料理してますね」
知らない人と街を歩くなど初めての経験ではあるが、会話は自然と途切れない。街の話に自分の話、世間話などが自然と出てきてくれてお互い無言で終わると言う事は避けられた。
「このくらいですかね。あと道を少し行くと大きいショッピングモールがありますね。妹とかは好きでよく行ってるので女性にとっては楽しい場所なのではないでしょうか」
「なるほど。それは楽しそうですね」
「はい。それじゃあ俺はここで失礼しますね」
七尾矢は生まれてからずっとこの街に住んでいるので地形やどこに何があるのかなどは把握していたものの他人にそれを紹介するのは初めてだった。しかし上手くいって満足した気分で女性と別れ
「あの!今日は絡まれている所を助けていただいただけでなく、案内までしてもらってありがとうございました!」
「いえいえ。俺も楽しかったですし気にしないでください」
別れようと思ったが女性が礼儀正しくお辞儀をしたので俺に応える様に言葉を発する。
「是非お礼がしたいのですが、お昼ご飯のご予定はありますか?もしなければ拙に振る舞わせてください!腕によりをかけるので!」
女性に言われて現在がお昼時である事に気がつく。今日は六継紀も賢五もいないので軽く済ませようと考えていた七尾矢に取ってはありがたい申し出だった。だが。
(どうしよう。家でダラダラしながらジャンクフードが食べたい)
今の気分は完全にハンバーガーだった。更にわざわざ家にまで押しかけて食事をいただくというのも図々しい気がする。更に言えば七尾矢は料理を作ることはあっても誰かに作ってもらう事はない。誰かに作って貰っている間、大変うずうずして落ち着かない事は予想できる。
「せっかくのお誘いですが、俺はこの後用事があって」
そう。七尾矢にはこの後夕飯の支度をする時間まで遊び倒すという用事がある。その事を伝えて女性とはここでお別れするとしよう。
「そう、ですか。残念です」
「なんか、すみません」
凄く残念そうに俯く女性を見て少し罪悪感を覚えるが、こちらにも予定がある。ここは引き下がって貰おう。
「じゃあ。力尽くで奪う事にしますね」
「え?」
女性が不敵に笑い、手を七尾矢にかざす。すると七尾矢の足元から水が吹き出し、水の塊の中に七尾矢を閉じ込めた。
「なっ!」
突然の事に息を吸う余裕がなく、七尾矢水の中では大きく息を吐き出してしまう。間違いなく、それは異界武具の力だった。
「っっ!」
息ができなくなる前に七尾矢も異界武具、自然の剣を発動。水の塊から大樹を生やして水を分散させた。
「流石、幹部二人を打ち破った人ですね」
「はぁ、はぁ。お前は、組織の人間か!」
「ええ。私はノワールとカイセイを殺した男、神谷七尾矢と言う人間を殺しに来ました。レインと申します」
少女、レインはお淑やかにスカートを持ち上げて頭を下げる。レインという言葉には聞き覚えがあった。先日茜の口から聞いた、組織の幹部にして水の武具を使うという女性だ。
「俺、休暇中なんだけどな」
七尾矢は自身の不幸を呪いながら剣を構えた。実際にノワールとカイセイを倒したのは七尾矢ではないというのに七尾矢が狙われるとは。しかも休暇中に。これは不幸以外の何物でもない。
「いいえ。貴方は幸福ですよ」
考えが顔に出ていたのかレインはそう呟くと更に言葉を続ける。
「何故なら、今日が拙と貴方様の婚約記念日ななのですから!!!」
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