豊穣の剣

藤丸セブン

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37話 自然の剣vs雷鳴の大剣

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 七尾矢は混乱していた。確かに先程までは七尾矢の右手には何もなかった。七尾矢の求めていた武具は今はレインの手にある筈だ。なのに、七尾矢の右手には七尾矢が認められた異界武具、自然の剣があった。
「何が起こったのかは分からないけど、面白い事をしてくれる」
「・・・」
 何が起こったのかは七尾矢にも分からない。必要だと思った瞬間に何故か自然の剣は七尾矢の手にあった。意味は分からないが。今その謎の答えなど要らない。肝心なのは、この手に自然の剣という攻撃の為の武具があり、七尾矢も六継紀も生きているという事だ。
「自然の剣よ、傷を癒せ。生命の種」
 七尾矢は頭に自然と浮かんできた言葉を発して現れた小さな種を六継紀の口に優しく入れる。
「んっ、うんん」
 六継紀は少し苦しそうにするが、直ぐに種を飲み込む。すると、六継紀の大きな切り傷が光り。少しずつ傷が癒えていく。
「回復能力、成程。流石はレインさんが認めた人。そこそこ楽しませてくれそうだ」
「・・・お前を楽しませるつもりはない」
 七尾矢は静かにそう言い放つと自然の剣を鞘から抜く。その七尾矢の目を見てインクが笑みを浮かべる。
 (さて、どうする?)
 臨戦体制に入りながら考える。七尾矢の力では幹部であるインクに正面から勝つ事は不可能だ。更に六継紀も負傷しており守りながらの戦いともなると尚更だ。ならば戦い方は一つ。
「大樹の鞭!」
 七尾矢の十八番である搦手だ。大樹による攻撃で隙を作りつつ六継紀を逃す。しかし七尾矢の能力は強くない。故に直ぐに大樹は破壊されてしまうだろう。時間がないので早急に六継紀を運ばなければ。
「ん?」
 大樹達にインクの相手を任せて七尾矢は六継紀をお姫様抱っこして運ぶ。その中、違和感を感じた。直ぐに破壊されるだろうと思っていた大樹が一本たりとも破壊されていないのだ。
「ハハハハハハ!恐ろしいな!使用者がこちらを目視していないと言うのに、こちらの攻撃を回避するか!!」
 七尾矢は目を擦ってもう一度現状を見る。七尾矢は大樹にインクを攻撃しろと言う指示しかしていない。だというのに、大樹達はインクからの攻撃を回避する。振り下ろされた大剣がぶつかる部分の強度を上げて大剣を受け止める。時には自ら小さな種に収まりインクを翻弄している。
「何だこれ」
 こんな事は七尾矢は指示していない。更に言えば、七尾矢はこんな指示など出来ない。まるで大樹達が自我を持っているかの様な動きだ。
「でも、これなら!」
 本来六継紀を戦いに巻き込まない場所へ移動するだけのつもりだったが、時間があればこのまま六継紀を連れて。
「落雷よ!!!」
 そんな淡い考えは直ぐ様消え去る。自分が操る大樹が消滅した感覚は七尾矢にも伝わる。インクの放った落雷により七尾矢の出した大樹の鞭が全て焼け落ちたのを確認した。
「なかなか面白い技だったが、全て焼け落としてしまえば関係はないさ」
「まあ、想定内だ」
 瓦礫などがなく比較的綺麗な場所に六継紀を寝かせて大樹で優しく包む。
「さてと。続けようか」
「大樹の鞭!」
 七尾矢は再び大樹の鞭を使用して地面から柔軟性のある大樹を作り出す。しかし今度は少し多めに。
「同じ技が通じるとでも!?」
 大樹の一撃をインクが回避し、大剣を振る。その大剣を大樹は受け止めるが、大剣から電撃が放出され、大樹が一本破壊される。続けてインクが放電を続けて大樹を破壊しようと動くと大樹もインクの動きを見て電撃を回避する。しかし電撃を避けた大樹にインクが取り掛かり、切り刻む。電撃とインクの剣撃のコンビネーションに次々と破壊されていく大樹。だが。
「ここだ!」
「お?」
 七尾矢も大樹に任せて何もしていなかった訳ではない。大樹の影に隠れながらインクの隙を窺っていた。
「森林の剣!」
「雷鳴の大剣!」
 完全に背後を取ったつもりだったが、インクは柔らかい体を回転させて七尾矢の剣を正面から受け止めた。
「ぐっ!おおおおお!」
 剣と大剣がぶつかる中、剣から木々による追撃を放つがインクの電撃によってインク本人には届かない。
「力勝負は、ボクの勝ちの様だね!!」
「うわぁっ!」
 大剣を振り回して七尾矢の体を吹き飛ばす。小柄なインクの体のどこにそんな力があるのか分からない程の力で七尾矢は瓦礫の中に突撃した。
「がはっ!」
「雷撃追」
 瓦礫から脱出した直後七尾矢の目の前に雷撃が映る。そして、雷撃が何かにぶつかり放電した。
「・・・やるね」
 インクが小さく呟く。もう目と鼻の先にあったインクの雷撃を七尾矢は森林壁で防御していた。
「はぁ、はぁ。あっぶねぇ」
 冷や汗を拭い前を向く。咄嗟に森林壁を展開出来たのは良かったが、まさか雷撃を全て防ぐ事が出来るとは思わなかった。
「やっぱり。強くなってるのか?」
 自然の剣を眺めながら独り言を言う。自然の剣が強くなっているのは間違いない。大樹の鞭が複雑な動きをするのも、森林壁が雷撃を全て防いだのも。全て今までの七尾矢では出来なかった事だ。しかし。
「どうやら君の剣は防御力に特化している様だね」
 インクの言葉を受け止めるのは複雑な気持ちだが、認めざるを得ない。攻撃に向けた木々はインクの雷撃で燃え尽きてしまったのに森林壁は燃える事もなく七尾矢の命を守った。自然の剣は防御力だけパワーアップしている。
「お前次第で俺一人でも勝てるかもとか考えてたけど、これ。俺一人じゃ無理だろ」
 自然の剣に弱音を吐露するが、そんな事をした所で状況が変わるわけではない。他のメンバーもそれぞれの役割を全うしているから援軍も期待できない。
「勝てなかったら死ぬだけ、か」
 相手は七尾矢より格上の人物。勝てる可能性は限りなく低いだろう。だが。負ければ死ぬ。七尾矢が死ぬだけなら諦めもつく。自分が弱かっただけだ。自分が死ぬ覚悟なら、ほんの少しは出来ているつもりだ。しかし。
「お仲間が気になるか?大丈夫。ボクは戦えない戦士を潰すのは好きじゃない。やっぱり戦士とは正々堂々殺し合わなきゃ。まぁ、周りに戦士が誰もいなくなったら殺さなきゃなんだけど」
 六継紀を寝かせた場所を目で見るとインクが気さくに話しかけてくる。ここで七尾矢が死ねば、六継紀も死ぬ。それだけは、それだけは認められない。何があろうと、六継紀を殺させはしない。
「仲間じゃない。六継紀は俺の妹だ」
「ああ、言われてみれば似てる。けど。それってそんなに重要か?そんな真剣な顔して否定しなくても」
 インクが笑いながら疑問を投げかける。確かに仲間でも妹でも、七尾矢にとっては大切な人で、何があっても守ろうと思える。しかし。
「やっぱり人間だから、救う人の優劣があるんだよ。知り合いと初めて会った人だと、どうしても知り合いを助けてしまう」
 命は平等だ。七尾矢に救える命があるのならば七尾矢は躊躇わず手を伸ばすだろう。だが七尾矢の手は小さく、能力は弱い。
「六継紀は、妹はその優先順位一位だ。六継紀だけは。何があろうと殺させない」
 七尾矢の瞳には覚悟とも殺意とも違う強烈な気迫が宿っていた。守護欲、とでも言うのだろうか。人を傷つけるのは得意ではないが、六継紀を守る為ならば、どんな事でもやって見せよう。
「いい目だ。ボク達の強さとは違うけど、君の覚悟をひしひしと感じる」
「お前が六継紀を殺そうとするのなら、何があろうとお前を止める。例え、お前と差し違えても!!」
 七尾矢が剣を構えてインクに肉薄する。地面から大樹を作り出してインクを潰そうと動き出す。その攻撃をインクはのらりくらりと避け、電撃を放つ。放たれた電撃を七尾矢は回避しようとしない。地面から生えてくる大樹が七尾矢を庇う様にその電撃を受け、消える。
「防御姿勢を取らなくてもいいって言うのは便利だな」
 大樹の防御は別段七尾矢が指示した訳ではない。勝手に動いて七尾矢を守ってくれるのだ。
「有難い限りだ。頼りにしてるよ」
 七尾矢の言葉に答える様に自然の剣が光り新たに大樹が作り出される。
「ハハッ。そう来なくっちゃな!」
 インクが笑みを浮かべて大剣を空に掲げる。すると落雷が大剣に落ち、雷が大剣に纏われる。
「雷電撃!!!」
「プラントインパクト!!」
 強烈な電撃と多数の大樹のがぶつかり合う。
「ぐっ!こっのぉぉ!!」
 大樹が一本、また一本と雷に焼かれて枯れ落ちる。この大樹達は攻撃様ではなく守りの為に展開したつもりだ。恐らく七尾矢が守りの為の大樹だと考えていれば大樹の能力が上がる。筈だが。
「消し炭になるといい!」
 大樹達は全て雷に敗北して雷電撃が勝利した。
「あれ?」
 が、七尾矢は無事に立っていた。
「無事でござるな、七尾矢殿」
 七尾矢の前には水の防壁が作られていた。そしてこの話し方から、誰が来たのかは直ぐに分かった。
「昆布アルカイア、助太刀いたす!!」
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