豊穣の剣

藤丸セブン

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36話 一振りの剣

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「行こう」
 ナウラに送られたルートに沿って見慣れない道を走る。元々は整備された道だったのだろうが、激しい戦闘の影響であちこちが崩れている。その街の姿はまるで震災の後の様だった。
「俺のせいで、こんな事に」
「お兄ちゃんのせいじゃないよ。ここに住んでる人なんて、遅かれ早かれこんな結末は予想済みだろうし」
 六継紀が優しく七尾矢に語りかけるが、それでも七尾矢の傷は癒えない。だが。だからと言って止まるわけにはいかない。
「そうだな。俺は家に帰る」
「その通り!さ!一気に駆け抜けるよお兄ちゃん!帰ったらいっぱいデートしてもらうんだから!」
「え?」
 凄く、死亡フラグの様な発言が聞こえた。戦争中に帰ったら何々をする。と言う発言をするのは死亡フラグだ。
 <二人とも聞こえますか!?今すぐその道から離れて下さい!今ルートを出します!>
 無線からナウラの焦った声が聞こえたかと思った瞬間、七尾矢と六継紀の前に何かが落ちてきた。
「うわぁぁぁ!!」
「ちくしょう!やっぱり死亡フラグだぁ!六継紀!今後絶対戦争中に帰ったらの話するんじゃないぞ!!絶対だからな!!」
 何かが降ってきた衝撃や風圧などが消え、それが何かが見えた。そこにいたのは水色の髪をして優しそうな目をした少年だった。
「どうもこんにちは。ボクの名前はインク。どうぞよろしく」
「・・・お兄ちゃん」
「分かってる」
 気さくに二人に話しかけてくるインクと名乗る少年に二人は警戒を露わにする。その理由は簡単。二人は彼を知っている。名前は初めて聞いたが、以前茜が幹部の情報を伝えてくれた時に彼の姿があった。
「今思えば、あの二人の情報を掴んだのってお父さんだったんだ。どうりでアルカイアとかがちょっと笑ってた訳だ」
「え?何それどう言う事?」
 六継紀の言葉の真意は気になるが、今はそんな事を考えている暇はない。この状況をどうにかして切り抜けなければ。
「まさかとは思うけど、逃げようとしてないよな?別に結果は変わりやしないけど。歯応えがないから出来れば考え直してくれないか?」
「どういう意味?私達を瞬殺出来るってこと?」
「いやぁ!流石に正面から瞬殺は出来ないよ!ボクはまだまだ未熟だからね。でも」
 楽しそうに笑ったあと、インクは殺意を見せる。
「背中を見せた相手くらいは、瞬殺出来る」
 その言葉にきっと嘘はない。彼は組織の幹部を担っている人物だ。逃げると言う手は使えない。
「ごめんナウラさん。ルートは変えられない。正面突破する」
 <何を言っているんですか!貴方達だけでは無理です!今すぐ>
 六継紀は自分の言いたいことだけを言うと無線の電源を切る。そして、異界武具を取り出した。
「おお、いい剣だ。ならボクも」
 六継紀の剣を見た後インクも武具を手にする。インクが手にした武具は三メートル近くある大剣。情報によると属性は雷。
「六継紀、俺も」
「お兄ちゃんは下がってて」
「でも!」
「別に私だけで勝てるって油断してる訳じゃないよ。でも、お兄ちゃん今異界武具持ってないでしょ」
 六継紀に言われてから気がつく。今の七尾矢はレインに誘拐されたままの姿をしている。七尾矢の異界武具、豊穣の剣はレインに没収されており、服装もレインが買ってきたという男ものの服だ。防御力に適しているわけでもなければ戦う力などない。
「っ!分かった」
 歯痒いが、ここは六継紀に任せるしかない。
「大丈夫。私が必ず隙を作るから。その隙を見てお兄ちゃんは家に」
「六継紀を置いていけって事か!?」
「すぐ追いつくって」
 六継紀は笑顔を見せた後七尾矢に背を向け、インクに肉薄する。
「ばか!すぐ追いつくから先に行けも死亡フラグだよ!!!」
 七尾矢の言葉は六継紀には届かず、六継紀の剣とインクの大剣がぶつかり合う。
「なるほど。まずは能力を使わずに、純粋な剣技での勝負って事か!」
 インクは六継紀の剣を受け止めながら笑い、大剣を振り回す。
「くっ!!!このぉぉ!」
 六継紀が大剣を剣で受け止め、力を込めて弾き返す。流石に大剣を扱っているだけあって力勝負では完全に負けている。
「でも」
 六継紀は剣を構えてインクに突進する。そして、岩石の剣を発動させた。
「ん?」
「誰も剣技だけで勝負なんて言ってないんだよばぁぁか!!」
 インクの真下の地面が一瞬揺れた瞬間、巨大な尖った岩石がインクを吹き飛ばした。
「ぐぁぁ!?」
「行くよぉぉ!」
 空に飛ばされたインクに更に追い討ちする為楕円状の岩石を作り出す。
「岩石の弾丸!」
 剣を銃の様に構え、宙に浮く銃弾に似せて作られた岩石を一斉に放出する。
「雷鳴の大剣!」
 インクが空を舞う体制で異界武具雷鳴の大剣を発動。インクの周囲に凄まじい電気が放電された。その放電された電気が六継紀の作り出した岩石達を次々破壊していく。
「まだまだ!」
「無駄だよ」
 諦めずに弾丸の放出を続けるが、インクの勢いは止まらない。
「さあ、力のぶつけ合いと行こう!」
 弾丸は一度もインクを捉えることはなく、インクが豪快に地面に着地。そして大剣に電気を纏わせたまま六継紀に走り出す。
「上等!」
 インクに合わせる様に六継紀も岩石の剣を強度の高い岩で纏いインクへ駆け出す。
「六継紀!」
 七尾矢はそんな六継紀の名前を叫ぶ。その理由は一つ。純粋な力のぶつけ合いでは六継紀に勝ち目はないからだ。だが。そんな事は六継紀も分かっている。そして七尾矢をチラリと見た。
「っ!」
 その六継紀の瞳からは、「時間を稼ぐからその隙に逃げて」と聞こえてくる様だった。その六継紀の表情を見て七尾矢は覚悟を決める。
「雷鳴剛毅!!」
「岩石一刀!!!」
 電撃の大剣と岩石の剣が衝突する。ぶつかり合った直後から硬さを重視して作った岩石が放電される電気によって次々と壊されていく。
「っっ!」
「お兄さんを逃がそうとしたんだろ?だが。君の力ではそんな時間を稼ぐ事すら、出来ない!」
 インクの大剣が岩石を完全に砕き、六継紀の体を切り裂いた。
「ぁぁぁぁぁ!!」
「六継紀!!!!」
 インクが大ぶりで振り抜いた大剣に飛ばされて六継紀が家の壁に激突する。倒れた六継紀に七尾矢は即座に駆け寄ると、恐らく新品であろう服を躊躇なく破り、出血が酷い六継紀の傷口を止血する。
「くっ!傷が!」
 六継紀の傷は深く、応急処置程度では血が止まらない。七尾矢は何とか六継紀を救おうと必死に止血を試みるが、血は止まらない。
「くそ!俺に治癒能力があれば!」
「残念だけど、これが現実だ」
 インクは大剣についた六継紀の血を大剣を大きく振る事で地面に移す。そして再び電撃を纏わせた。
「ボクは殺し合いは好きだけど、一方的な殺しは好きじゃないんだ。だから、苦しまない様にする」
「冗談じゃねえ。こんな所で死んでたまるか!!」
 インクは詰まらなさそうに大剣を振り下ろす。
 (どうする!どうすればいい!)
 六継紀を抱えて逃げる。ダメだ。七尾矢の足ではこの放電から逃れる事は出来ない。かと言って他の案も浮かばない。
 (俺に、力があれば。異界武具があれば!)
 ドクン、と。七尾矢の心臓が強く脈打つ。その感覚が凄く不思議で、今ならば、出せる気がした。
 (俺が強ければ。六継紀を、みんなを!守る力があれば!!)
 ドクン、ドクン。心臓の音が強くなっていく。心臓の音が高鳴っていく。今ならば。例えこの手に武具がなくても!
「芽生えろ!!!大樹の防壁!!!」
 七尾矢の叫びに呼応して、地面から一つの種が生まれ、蔦を伸ばし、木々を作り、インクの大剣と放電を受け止めた。
「なっ!!?」
 予想外の出来事にインクが飛び退き、七尾矢から距離を取る。
「はぁ、はぁ、はぁ。嘘?なんで?」
 目の前の危機を乗り越えた事で少し冷静になって七尾矢は疑問を口にする。謎。何故七尾矢はこんな技が打てたのか。
「は、はは!これはどういう絡繰なんだ?何故君の手にその武具がある!」
 インクに言われて気がつく。七尾矢の右手には先程まで何もなかった。だというのに、今は一振りの剣があった。
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