豊穣の剣

藤丸セブン

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4章 最終編

51話 力

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 何度も何度も金属と金属がぶつかり合う音が響く。その音の正体は氷結の槍を振るうアレグリアと岩石のナイフを振り回す一郎と名乗った幹部の一人だ。
「お前さんやるなぁ!舐めとった訳や無いけども、想像以上の実力、やっ!」
「そりゃどうも。見え透いたお世辞ありがとう!」
 互いに武器を振り回しながらの会話。一瞬の油断が命取りとなる戦いの最中、二人の戦士は笑いながら会話をしていた。
「これはお世辞やのうて本心や。あんたは想像以上強い。誇ってもええ強さや」
「でも、命の危険を感じてる様には見えない。もしかして、オレに勝てるとでも思ってるのかい?」
「よぉ分かったなぁ。その通りやっ!!」
 小さなナイフに最大限の力を込めてアレグリアを腕力のみで吹き飛ばす。しかしアレグリアの受け身も完璧でその体へのダメージはない。
「それは心外だな。オレが君如きに負ける訳がないだろっ!!」
 アレグリアが氷の槍を新しく生成して一郎へ投げつける。すると一郎は地面を隆起させて氷の槍を見事に打ち砕く。しかしアレグリアは不敵に笑う。
「舐めた顔しとんなぁ。何がそんなに楽しいんや!?」
「さあね。当ててみなよ」
「ふっ、ええやろう。お前のその余裕!ぶち壊したるわぁ!!」
 一郎が激昂して岩石のナイフを振り下ろす。すると岩石が空中に飛び交い巨大なドリルを作り出した。
「粉々にしたるわ、この裏切りモンがぁ!!」
 岩のドリルが激しく回りアレグリアをすり潰す様に蠢く。勢い良くアレグリアに迫り来る命の危険に、アレグリアは落ち着いて少しだけ足を上げた。
 トン。アレグリアの足が地面に付く音が周囲に響く。その音がしてからは戦闘の音が消えた。
「は?」
 一郎の素っ頓狂な声が口から飛び出す。今見ている景色が完全に一郎の理解不足だったからだ。
「な、何でや!?」
 一郎の作り出した巨大なドリルの主成分となる大きな岩からドリルを回す歯車となる小さな石に至るまで完全に凍りついていた。
「さて、遺言でもあれば聞くけど?」
「あ、あり得へんやろ」
 渾身の技が一瞬にして無力化させられたという事実に動揺して一郎が後退りをした。否、後退りをしようとしたが出来なかった。一郎の足も目の前の銀世界と同じく見事に凍りついていた。
「う、嘘や!」
 足の感覚が完全に無かった。それ故に自分の足の異変に気づく事が出来なかった。一郎は氷漬けになった足を動かそうと必死に足掻くが、氷は溶けないし壊れない。足の内面から凍ってしまっているので表面上の氷を砕けば動けるという訳でもなく、一郎に出来ることは必死に足掻く事のみだ。
「遺言はなしって事でいいのかい?」
「近寄んなやぁ!!」
 ゆっくりと歩いて一郎に近づいていくアレグリアに岩石のナイフで攻撃しようと右腕を振り上げる。その瞬間にアレグリアが指をパチンと鳴らした。
「っ!!」
 一郎の声にならない悲鳴が喉から飛び出す。アレグリアが指を鳴らしただけで両足だけでなく両腕も凍り付いていた。
「待て!ワイはこんな所では終われへんねん!ワイはまだあの人にデカすぎる借りを返しきれて」
「じゃあね」
 遺言は聞く。自分からそう言ったアレグリアはまだ言葉を紡いでいる一郎の首をバッサリと切り落とした。嘘を付いたつもりでは無かった。だが、一郎からあの人と言う単語が出た瞬間に、体が動いていた。
「あー。七尾矢に怒られるかな?」
 後悔したかの様に勢い良くしゃがみ込む。殺すつもりは無かったとシンプルに言えば許してくれるだろうか。いや、七尾矢は優しいので許してくれるだろうが、少し自己嫌悪してしまう。
「いや、今更か」
 自己嫌悪をして気がついた。よく考えればアレグリアは既に多くの敵の命を手にかけている。人殺しは初めてではないし、慣れっこと言っても良いほどに戦い続けていた。だと言うのに今更自己嫌悪とは。
「アハハハハハ!我ながら随分と毒されたものだね」
 アレグリアとて自分の趣味嗜好で殺しをしている訳ではないが、今まで殺しに嫌悪感などなかったのに。やはり七尾矢には人の心を動かす力があるのだろう。
「さて、それじゃあ動こうか」
 いつまでの笑っている場合ではない。アレグリアは立ち上がり他の仲間の元へ向かった。
  ◇
「疾風圧!」
「紅蓮!」
 マリーゴールドに侵された兵隊に異界武具の能力をぶつける。焔の風に押されて自我を失ってしまった兵隊達は自らヨゾラの炎に飛び込んで焼けていく。
「あ、りが、とう」
「・・・すまない」
 自分の意思は残っているが自分の意思で体を動かす事の出来ない兵隊は涙を流しながら二人に感謝の言葉を残したが、その言葉に焔は顔を背けて謝罪する事しか出来ない。
「ヨゾラ」
「あのマリーゴールドを除去する事は出来ない。体の内側に根を生やしているから、根を除去するには体の植え付けられた場所を取り除かなきゃならない」
 マリーゴールドが根を付けている場所は人間の心臓。故にマリーゴールドを除去する為には心臓を抜かなければならない。優秀な医者なら取り除く手術が出来るかも知れないが、戦場でそんな手術が出来るわけもなければ意識を刈り取っても動くので無力化もできない。つまり自分が死にたくなければ兵隊達は殺すしか無いのだ。
「だから私は反対だったんだ!」
「でも彼らがいたからこそボクやアレグリアがかなり自由に動けた。さっき隊長の雷が鳴った後に強大な力が一つ減ったし、隊長が邪魔されずに幹部を倒せたのも彼らの存在が大きい」
「そんな事は分かってる。正論言うなよ、私だってヨゾラが正しい事くらい分かってる」
 焔が拗ねた様に、それでいて悲しそうに呟く。その姿は実に弱々しく流石のヨゾラもそれ以上の口は開かなかった。
「まあ、ボクらをこんな気持ちにさせた張本人には罪を償ってもらおうか」
 ヨゾラがそう言って一点を見る。その視線の先には小さな花畑が出来ており、花畑の中心に筋肉質な男が寝転がっていた。
「む?まさかここに辿り着かれるとはのう。ワシの兵隊達は全滅してしまったのか」
「こんな戦場でのんびりお昼寝とは、いいご身分だね」
 男はあくびをしながら立ち上がる。身長は百九十以上、先程も言った様に随分と筋肉質で服の上からでも立派な筋肉をしている事が分かる。しかし髪の毛からは色素が抜けていて話し方は老人のそれだった。
「何じゃ?ワシの見た目がそんなに歪か?」
「見た目と言うか、見た目と話し方が合わないんだよ」
 見た目は二十代の男性。しかし話し方と声は七十代と言われても可笑しくはない。
「お前が、父さんと母さんを」
「ん、なんじゃ?最近耳が遠くての。言いたい事ははっきりと大きな声で言うのじゃ。コミュニケーションの基本じゃぞ」
「お前が!!父さんと母さんを殺したのか!!」
 焔が激昂して我を忘れて疾風の鞭を男に振るった。強力なかまいたちが男に迫るが、男の前に花が咲き男を守った。
「いきなり酷いことをするもんじゃ。まだ自己紹介もしておらんのに」
 男は首を鳴らしながら伸びをする。
「ワシの名前は、何じゃったか」
「疾風刃!」
「紅蓮!」
 二人の技が男を襲うが地面から花を咲かせて風の刃と火炎放射を回避する。
「ほっほっほ。思い出せんから適当に付けよう。ワシの名前はハナコじゃ。どうじゃ?かわしらしいじゃろう?」
 筋肉質な男が年老いた男性の声で可愛らしくウインクをして女性らしい名前を名乗る。その情報だけで脳がバグりそうだ。
「ふざけやがって」
「焔、焦ったらダメだよ。このままじゃあいつのペースだ」
「ぺーす?それは何じゃ?ワシはそんなモン知らんけどな」
 ハナコと名乗った男はペースという言葉の意味が分からず首を傾げる。その動作は何処となく女性らしい仕草に見える。
「マジであいつは何なんだよ」
「何でもいいさ。殺すだけだ」
「怖いのーぉ。女の子がそんな物騒な事を言うもんじゃない。昔から男は度胸女は愛嬌と言ってなー」
「風刃連鎖!!!」
 この男(?)と言葉を交えていると神経が苛立ち冷静でいられない。確実にこいつを殺す為には言葉を交わさずに即効を仕掛けるべきだ。
「そうじゃ。一つ訂正させてくれ」
 ハナコが目に見えない風の刃をアクロバティックに躱しながら口を開く。
「ワシは人殺しをした事がない。故にお主の父と母を殺したのはワシではない。・・・お主じゃろ?」
 ハナコの言葉が焔に深く突き刺さり、当時の記憶を蘇らせる。
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