豊穣の剣

藤丸セブン

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4章 最終編

50話 父と妹

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 時刻は少し遡り、七尾矢が一世一代のプロポーズをする前。七尾矢の父親である神谷賢五とレインの妹であるスノウは己が大切な人を守る為に激戦を繰り広げていた。
「はぁぁぁ!」
「ふっ!」
 スノウの氷の斧と賢五の何の属性も持たない剣がぶつかり合う。賢五の剣をスノウが防ぐと空中に氷塊を作り上げて賢五へと放り投げる。その氷塊を地面を滑る様に回避すると再びスノウへ剣を振り下ろす。
「取った」
 賢五の速度は凄まじく早く、常人では反応出来ない速度だった。それはスノウも例外ではなく、スノウの首筋に賢五の剣が衝突した。
「何っ!?」
「残念でしたね」
 しかしスノウの首は斬れないどころか、勢い良く剣を振り下ろされているというのに出血すらしていなかった。
「ちっ!」
「あら、反応はそれだけですか?もっと楽しい反応を期待していたのですが」
「お前の話はアレグリアから聞かされている。この目で目の当たりにして驚きはしたが、大した事はない」
 賢五は済ました顔でその様に口にするが内心では少し焦っていた。その理由は簡単、今のままの賢五ではスノウに勝つことは出来ないと分かったからだ。
 (どうする、迅雷の剣の力を使うか)
 賢五は本来迅雷の剣に選ばれた人物ではない。しかし本来の持ち主であり、賢五の妻であるアリアの死によって持ち主がいなくなった迅雷の剣を譲り受けた。しかし迅雷の剣は賢五を正式な持ち主として認めていない。更に賢五は異界武具の適性がなく、迅雷の剣を制限付きでしか使えない。もし使ってしまっては体へ壮絶な代償として全身に強烈な痛みが伴う。
「あら?もしかして焦っているのですか?」
「そんな訳ないだろう」
 スノウに向かって強がって見せるが、いつまでも隠し通せるものではない。今ここで迅雷の剣を抜けばスノウに勝てる可能性はあるだろう。しかし賢五にはそう出来ない理由がある。
 (七尾矢、六継紀)
 賢五には守るべき子供達がいる。そしてその二人は今幹部の一人であるレインと交戦中と考えられる。その二人を助ける為には、ここで賢五が戦闘不能になる訳にはいかない。
「だが、使わなければ勝ち目はないか」
「そうですよ。力は持っているだけでは文字通り力の持ち腐れとなります。強大な力は使わなければ」
「簡単に言ってくれる」
 賢五とてスノウの様に軽々と迅雷の剣が使えるのであれば賢五も惜しみなく使う。この体を憎んだことはないが、今ばかりは子供達のピンチにすぐ様駆けつけられないこの体を恨んでしまう。
「悪いが。あの二人の為ならば、俺は何でもするぞ」
 賢五は剥き出しの剣を一度鞘に戻してスノウを強く睨みつける。悩んでいる時間はない。今すぐにでもスノウを打ち倒し、七尾矢と六継紀を助けなければならない。
「全ては、お姉様の為に!!!」
「迅雷の剣。抜刀!!」
 目にも止まらぬ速度で地面を駆けスノウの首を取りにかかる。しかしスノウもただ斬られるのを待つだけではない。巨大な氷塊と氷槍を惜しみなく叩き出してくる。
「っ!」
 賢五は氷塊を砕き、氷槍を回避し、スノウの首を狙う。
「はぁぁぁぁ!!」
 賢五が氷を完全に砕きスノウに迅雷の剣を振り下ろす。スノウの攻撃事態は賢五に取っては脅威とはなり得ない。問題は力。スノウを殺さない様に、などという手加減は出来ない。確実に殺す為の剣。その剣が。
「なっ!!!」
 止まった。
「氷というのものは、形を作って攻撃するだけが使い道ではないのですよ?」
 賢五の腕はスノウに向かって剣を振れない様に完全に凍りついていた。
「確かに私に攻撃力はさほどありません。しかし、相手を無力化する事は得意です。故に、あなたに私は殺せません!!」
 腕が完全に凍りつき動かす事の出来ない賢五の腹部を氷の斧でスノウが思い切り斬りつける。賢五は血を流しながら住宅に激突した。
「クソッ!」
 賢五が迅雷の剣に力を込め氷を砕く。これで再びスノウに刀を振れるが出血が酷く、全力で動く事が厳しい。
「いいや、動けるなら。斬れる」
「恐ろしい人ですね。しかし、私は殺せませんよ!」
 腹部が痛みによって侵食されている。力を込めると激痛が走るが、だからと言って全ての力を込めないとスノウには勝てない。いや、込めたところで勝てないかも知れない。
「関係ない。何があっても、あの二人は俺が守る」
 賢五が今出せる全ての力で、刀に気力を込める。そして、剣を抜く直前に、声が響いた。
 <戦争中の諸君!今戦況が大きく動いた!我らが組織の幹部、レインが破られた!レインを破ったのは我らが敵のスーパールーキー!神谷七尾矢君だ!!しかしオレは心配などしていないよ。君達は強い!必ずオレに勝利をもたらしてくれると信じている!さあ諸君!戦争を楽しんでくれたまえ!!!>
「はぁぁぁ!?お姉様が!!!?そんな!!あり得ません!!!」
「・・・ハハッ」
 賢五の口から乾いた笑いが、しかし心の底から安堵したかのような笑いが出る。
「そうか。お前達は既に、親離れしていたのだな」
 ならば、賢五は全てを出せる。七尾矢が無事なら六継紀も無事だ。確証はないが確信がある。そしてレインが倒されたと言う事実にスノウは完全に動揺している。七尾矢は自ら自分の安全を確保したと同時に賢五にチャンスを与えた。我が子の成長が実に嬉しく、誇らしい。
「迅雷、一刀!!!!」
「しまっ!!」
 スノウの姉への感情は狂愛としか言いようがない。そんな狂愛の対象が倒されたと知ったスノウは完全に動揺し切っており、隙だらけだった。そんな隙だらけのスノウを、最大限の賢五の剣撃が切り裂いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
 一閃。賢五の剣はスノウの左肩から斜めに綺麗な線を描く。その後にスノウの体を高電圧の電撃が焼き焦がした。
「はぁ、はぁ、こふっ」
 荒い呼吸を何とか鎮めようと深く深呼吸をしようとする。が、口から出る出血が止まらない。口だけではない。スノウに切り裂かれた腹部からも、迅雷の剣の使い過ぎによって頭部からも出血していた。この流れ出る血を止める方法は今の賢五には無いし、あったとしても体が微動だにしない。
「ここ、までか」
 まともに立つ力すら残っていない賢五はそのまま地面に倒れ込む。倒れた状態で自分が切り裂いたスノウの体を見ると向こうもピクリとも動かない。賢五とスノウの戦いは相打ちと言う形となった。
「隊長さん!」
「・・・ナウラか」
 もう顔を動かす事も出来ない賢五は駆け寄ってくる足音の正体を声で判断する。体の感覚は既にないが聴覚と視覚はまだ生きている様だ。
「違います。自衛隊の者です。ナウラ殿は現在幹部の位置を特定するのにお忙しい様子です」
「・・・そうか」
 女性の自衛隊員は小さなバックのチャックを開けて躊躇わずに小瓶を取り出す。その小瓶の中身はナウラが作った回復薬だ。
「かなり沁みますが我慢して下さいね!」
「それは嫌、ぁぁぁ!!」
 普段冷静で無口を貫いている賢五にしては珍しい情けない悲鳴をあげる。しかしこればかりは仕方がないと許して欲しい。女性の自衛隊員は全身から出血している賢五の傷口全てに塗り薬を惜しみなく塗りこんでいるのだから。
「死んだらダメですよ。息子さんと娘さんは無事みたいです。あと茜さんも」
「そ、うぅぅうか」
 苦痛の声を抑えながら賢五は小さく呟く。安心しきったのだからここいらで意識を失いたい所だが、傷口の痛みは賢五の意識を覚醒させてしまっていた。
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