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8話 城での生活 その3
しおりを挟む「ジェーン」
メイドとして、各部屋のベッドメイキングをしていたジェーンは、ミカエルに呼び止められた。
「ミカエル、どうしたの?」
「いや、君の仕事振りを見ようかなと思ってさ」
「あら、そうなんだ。まあ、いいわ、存分に見て行って」
「ああ、そうさせてもらうよ」
王子としての仕事は今はないのか、彼は客間のソファに腰を掛けて、ジェーンの仕事を観察していた。ジェーンとしても後ろから見られるのは恥ずかしかったが、彼に現在の実力を見せるのは嬉しくもあった。
ジェーンは名目上は、ミカエル・フォーマット王子の専属メイドだ。専属メイドとは言っても身体のお世話など、下世話なことをするわけではないが。彼女はファリスに教え込まれた実力を彼に見せていった。
「すごいな……いや、君ならこのくらいは出来るようになると思っていたけれど」
「あなたに言われると照れ臭いけれど……でも、ありがとう」
「ははは」
「うふふ」
少しの間、彼らの間に甘い空気が流れて行く。
「やはり、ファリスさんの指導が効いたかい?」
「まあね。でもミカエル、王子がファリスさんって……さん付け……」
「いや、あの人には俺も逆らえないよ。色々な意味でね」
一国の王子すら黙らせてしまうメイド長のファリス。彼女の権力はある意味で、国王レベルなのかもしれない……。ジェーンとしても怖くなってしまったが、彼女のメイドとしての実力と厳しいながらも気を遣う配慮などを考慮すれば、それほど矛盾したものでもないと思えた。
「まあ、そのくらいファリスさんは信頼されている。俺達からしても、ああいう方は必要だからね。女性の立場向上にも一役買っているし」
「なるほど」
事実、王国内でもファリスのメイドとしての地位の高さは有名であった。王宮内でもメイド全体の地位は決して低くはなく、身の回りの世話をしている者の存在がどれほど重要かは、国王を始め、権力を持つ者にも浸透している。
「ファリスさんって本当に凄いのね。まったく違和感はないけど……」
「まあ、彼女は以前はアーロン王国での君みたいな立場だったからね」
「そうなんだ。ということは、政治に絡んでいらしたの?」
「ああ。だから、君に近いものを感じているんじゃないかな。取り分け、君には厳しく指導しているんだろ?」
「ええ。とても光栄なことだけれど……そっか。ファリスメイド長が……」
元々はジェーンと同じような立場だった。その事実を知ったジェーンはどこか嬉しそうな表情になっていた。同類を見つけたような雰囲気だ。ジェーンはその後、ミカエルが観察している中、客間の清掃を意気揚々とこなしていった。
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