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6話 カラオケ その3

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「なあなあ、ハズキちゃんさ。どうやって智司なんかと知り合ったの? マジで信じられねぇんだけど」


 ドリンクバーの場所で飲み物を入れている間にも、隆也はハズキに軽口を叩いていた。無視され続けているが、話題が智司のことになっている。

「あなたに話す意味はないわね」

「うっわ、マジで辛いわ……。だってよ、全然釣りあい取れてないじゃん? 付き合う相手は選んだ方がいいって」


 隆也の智司を貶める言葉は尚も続いて行く。ハズキとしてもそろそろ限界であった。智司の知り合いでなければとっくに殺しているところだ。


「あなたには、智司さんの魅力は永久にわからないでしょうね」

「いやいやいや……だから言ってるじゃん。あいつ中学の頃は虐められてて……理不尽なことにもあいつは何も言い返せなかったんだぜ?」

「そう……理不尽な暴力。あの方の慈悲深い原点はそこにあるのね。ありがとう、勉強になったわ」


 ハズキはこの時点で初めて、隆也に視線を合わせた。彼女が言った慈悲深さとは、智司の優しさだ。彼女に手を出すことをしていない……ハズキとしては不満な点ではあるが、智司の感情を最大限に尊重しているのだ。

 それぞれの見方次第ではあるが、智司は慈悲深い魔神とも、消極的な魔人ともとることが出来た。


「あ、ああ……ハズキちゃんに礼言われるとかね……なあ、よかったら写真撮らない?」

 ハズキからお礼を言われ調子に乗った隆也。周りの友達に自慢する目的で、彼女とのツーショットを要求したのだ。

「一つだけ、こちらも勉強をさせてあげる」

「……え? ハズキちゃん?」

 ハズキはほんの少しだけ闘気を強めた。隆也は得体の知れない気配に、持っていたグラスを落としそうになっている。


「理不尽な暴力……嫌いな言葉ではないわ。私も問答無用で追い剥ぎをしていたから。この世は弱肉強食、その点はこの世界も変わらないわね」

「え……なっ……」

 次の瞬間、隆也は首を狩られた。正確には気絶させただけだが、彼女は手刀で彼を攻撃したのだ。当然、目で追うことなど出来ず、防犯カメラでも捕捉できない速度だ。

 隆也はその場で倒れこみ、持っていたグラスはハズキが地面に落ちる前に回収していた。透過武装を使えばカメラなど一切気にすることはないのだが、加減しても隆也が死にかねない。智司に迷惑がかかることを懸念したのだ。


 カラオケボックスの周囲には隆也がいきなり意識を失ったように映っていた。


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 智司たちの部屋へと戻って来たハズキと隆也だが、明らかに隆也の態度が変わっていた。わが身に起きたことはよくわかっていない彼だが、なんとなくハズキに恐怖を感じ、こじんまりとしている。

「てかあんた、スマホ持ってないわけ? どういう生活してんのよ? あはは、ウケる!」

「いや、まあ……色々とね。ははは」


 ハズキが部屋に入り真っ先に見た光景……それは、美由紀が智司をバカにしている状況だった。スマートフォンを持っていない彼を笑い者にしているのだ。しかし、そこに蔑んだ感情を捉えることは出来ない。美由紀はむしろ楽しく智司とおしゃべりをしている印象だ。


「……飲み物を持ってきました」

 智司も美由紀との会話を楽しんでいる様子だ。ハズキは無意識の内に頬を膨らませ、テーブルに置くグラスに力を込めていた。

 主人が楽しんでいることは純粋に嬉しいが、それとは別のどうしようもない嫉妬心がハズキを包んでいたのだ。

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