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6話 ミュヘル第二王子 その2

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 ミュヘル第二王子はこの日、伯爵令嬢に会っていた。自らの統治している領地から、王都アルトシュにある貴族街へやって来ているのだ。


「リンダ、其方は美しいな」

「嫌ですわ、ミュヘル王子。心にもないことを……他の方々にもおっしゃってるのでは?」


「はははは、こんなことを言う相手は其方だけだよ」


 貴族街の庭園ではイチャイチャしている男女の姿。ミュヘルは黒髪を背中辺りまで伸ばし、後ろで束ねた髪型をしている。目つきは鋭く、まつ毛にも手入れを忘れていない。髭などは脱毛しているのか、全く生えていなかった。


 ミュヘルは今年で21歳になる。エルザたちよりも歳上ではあるが、まだまだ若い。美人の娘たちはその日の内に持ち帰るほどに手が素早いことで有名であった。

 剣技にも優れ、魔法の技術はエルザには及ばないが、彼らが婚約していた頃は、最強の貴族夫婦と言われていた。夫婦間で、男が強い場合は多いが、女が強いことは滅多にない為の呼び名だ。


「でも、エルザ様はよろしいんですの? とてもお美しい方でしたのに」

「ふん、あのような粗暴な娘は私の妻には相応しくないさ」


 身体を重ねることなく終わった関係。目の前のリンダも21歳であり、とても美しいが、エルザには敵わない。今になって彼は、早計だったかと思い始めていた。


「まあいい。それより、ちょっと向こうの寝室で休憩と行かないかい?」

「ミュヘル様……」


 リンダは乗り気で差し出された手に触れた。そのまま二人は庭園から姿を消す。女たらしのミュヘル……その異名は顕在であった。


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 その頃、貴族街の別の場所では……二人のメイドと思しき人物が話をしていた。


「もうすぐ舞踏会よね」

「そうね……まあ、使用人の私達には関係ないことだけど」


 10代と思われるメイドたちは、舞踏会で綺麗なドレス姿になることを夢見ているようだ。掃除は続けながらも、心はここにあらずであった。

「ミュヘル王子は、今回は何人の方と関係を持たれるのかしら」

「数人は確実にいきそうだけどね……。エルザ様との婚約破棄事件以降、少し冷めて来ちゃって」

「聞こえたら大変よ? まあ、その気持ちもわからなくはないけど……」


 そう言いながら、彼女達は掃除を続けていた。時期国王の座に二番目に近い存在のミュヘル……甘いマスクで人気を勝ち取っていたが、このように冷めて来ている者達も存在する。

 来るべき舞踏会で、彼はどのような顔を晒すのか……。
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