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15話 思惑 その1

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 舞踏会はその後も滞りなく進められていった。エルザとパトリックの二人は、ホールの中央で軽くダンスを踊っていた。他にも踊っている者たちは何組も居るが、先ほどの剣術勝負の影響からか、彼らはとくに目立っているようだ。

「さすがエルザ様は美しいですな~」

「確かに……外見だけであれば、非の打ちどころがない」


 エルザとパトリックの踊りを見ている貴族たちの言葉だ。事実、エルザはかなりの美人として通っている。ミュヘルが最初は婚約者として選んだのも、彼女の外見が良かったからだ。

 しかし、冒険者のような振る舞い……実際には魔導士ではあるが、貴族らしからぬ立ち振る舞いから、婚約破棄に至ってしまった。

 まさに、「黙っていれば美人」タイプの人間である。


「ふう……剣術勝負と聞いてどうなるかと思ったけれど……大丈夫だったみたいね」

 遅れてホールに入って来たのはセレスだ。兄であるミュヘルが、パトリックに剣術勝負を挑んだことは既に把握しているようだ。

「おやおや、セレス様ではございませんか」

「これはハイライド侯爵。お久しぶりですね、楽しんでいらっしゃいますか?」


 セレスの姿を見て、真っ先に声を掛けてきたのは有力貴族であるランパー・ハイライドだった。白いひげを生やした白髪の初老の男性だ。

「それはもう、楽しませてもらってますよ。先ほどは実に面白かった」

「……」

 ハイライドはわざとオーバーリアクションで、パトリックの方向を指差した。

「彼……パトリック君でしたかな? 冒険者のようですが、ミュヘル第二王子を見事に打ち破りましたからな。はははははっ」

「……兄上」

 ハイライドはこれ見よがしに笑っている。セレスとしては苦手な人物だ。ハイライド家は有力貴族である為、王位の座を狙っているとも噂されているのだ。本来であれば、ハイライド家にそんな権限はないが、ミュヘル王子の失態を上手く利用してくるのかもしれない。

 セレスは真顔になり、警戒心を強めていた。同時に、兄であるミュヘルに恨み言を言いたい気分にもなっている。

「おっと、少し無駄話が過ぎましたな。彼らの踊りが終了したようです。功労者の二人に声を掛けてあげては如何ですかな?」

「言われずともその積りです」

 セレスは不機嫌な態度が表に出てしまったことを後悔した。ハイライド侯爵は彼女の心情を見透かしたかのような目つきでセレスを見ると、一礼して去って行った。
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