上 下
22 / 23

22話 第一王子との勝負事 その1

しおりを挟む
 シャイレーン遺跡地下8階に生息していた死神。このエリアのボス的な存在は、パトリックとラジールの二人を持ってしても強敵であった。強大な大鎌を素早く振り払う死神に、二人共手を焼いているようだ。


 エルザは補助魔法を二人にかけてはいるが、はっきり言って攻撃に回れる相手ではなかった。

「パトリック、ラジール王子……どうかご無事で……!」

 さすがに未踏遺跡の地下8階のボスだけはある。エルザでは実力的に足りていなかった。彼女に出来ることは援護支援と、死神の標的になって二人に迷惑をかけないこと……つまりは安全領域で見守ることくらいだ。

 構図的には、二人の男性が一人の美少女を取り合う形で競っているのと変わらない。非常に羨ましい状況にはなっていた。


「ゴアアアアア」

「くそっ! 強い……」

「ふはははは! 確かに強いなこれは! 単独先行では厳しい相手だ!」

 パトリックもラジールも敵の攻撃は躱し、避け切れない攻撃は持っている武器でガードしている。相手の速度には対応できている為、致命傷を負う可能性は低かった。加えて2対1なので手数は単純にこちらが2倍だ。エルザの援護支援も含めれば、勝算は高いと言えるかもしれない。

 だが、わからない部分もある。死神の致命傷と体力についてだ。このまま攻撃を続ければ心臓を貫けるタイミングもあるだろう。しかし、人間ではない存在だけにそれで死ぬとは考えにくかった。最悪の場合、粉々にする必要があるのかもしれない。

 さらに体力については無尽蔵に近い可能性がある。このまま安全策で戦っていては、先にこちらの体力が底を尽き、倒されてしまう可能性もあった。だからこそ、決して楽観視できる相手ではないのだ。

「ギシャアアアアアアアア!!」

「加速した!? くそっ!」

 そんな時だった。死神の動きが一段の素早く、強力になったのだ。

「焦っているようにも感じられるぞ! おそらくは対複数は不利と感じたのだろう、勝負を決めるつもりだ!!」

 パトリック達にとっても願ったりな状況だ。どのみち、長期戦を仕掛けるつもりはない。二人は地面にしっかりと腰を落とし、敵の攻撃を確実に防ぐ構えを取った。強力な攻撃ほど溜めが必要なはず……攻撃を弾いた後の隙も大きくなるのは明白だ。

 一気に勝負を決める……パトリック、ラジール共にそのように考えていた。


「……ギギギ」

「ん? なんだ?」

 だが……死神の標的は二人ではなかった。一瞬の油断と言えばいいのか、溜めを有する一撃が向かった先は……後方で待機しているエルザであった。
しおりを挟む

処理中です...