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10話 学内ランキング その1
しおりを挟むこの日、ランシール学園の入り口のロビーには生徒たちが溢れかえっていた。非常な広大な敷地面積を誇っている学園内ではあるが、ロビー自体はそこまで広いというわけではないので、ここに生徒たちが集中すると大変な事態になる。
天井から出ているモニターに学内ランキングが映し出されているのだ。全5000人の内、実力順に上位100名の名前が羅列されている。
「おいおい、今日も上位陣が入れ替わったらしいぜ。ほら」
「本当だ。11位と13位の名前が変わってる! 13位はリリー・シリンスで……11位は……相沢智司? 変な名前だけど、聞いたことある?」
モニターに映し出されている名前。そこには智司とリリーの名前も入っていた。本日の対戦成績が放課後には既に反映されたことを意味していた。
学園内での模擬戦闘など、公式の戦いに勝利すれば、ランキングは容易に入れ替わる。その為に、ランキング上位の者達は誇りを持つと同時に日々奪われる緊張も強いられているのだ。
「相沢智司とリリー・シリンスって今日入学した生徒でしょ? いきなり上位に食い込むとか……すごーい!」
「すげぇな……! 確か適性試験とかでも、とんでもない数値を出した連中なんだろ?」
「これは、将来は安泰だろうな」
ロビーに集まっている生徒たちは各々、興奮気味に話している。だが、そんな喧騒を静める事態も起こっていた。
学園の入り口に現れた一人の女生徒。青色の髪をポニーテールにしており、目の色も青く透き通っている。均整の取れたスタイルを動かしながら歩いてくる姿を見た他の生徒たちは、一斉に彼女に目を奪われた。
「うそ……! あれってもしかして……!」
「サラ・ガーランドさんか!? 初めて見たぜ!」
「評議会メンバーの? 嘘、めちゃくちゃ綺麗!」
天網評議会の構成員にして、ランシール学園総合ランキング堂々の1位、サラ・ガーランドが入ってきたのだ。年次で言えば3回生の17歳ということになるが、学園内ではあまりその辺りは重視されない。
「いや~、これは久しぶりの登校ちゃうか? もう、放課後やで? 寝ぼけてんのか?」
周囲は声を荒げているが、誰もサラに声をかける勇気は持っていない。そんな空気の中、陽気な声で話かけてきたのは、ナイゼルだ。彼の姿を見て、サラは笑顔になった。
「ナイゼル、久しぶりですね」
「ホンマやな。2か月振りくらいか? あんまり登校拒否が続くのは心配になるわ」
「やめてください。私はサボっているわけではありません。評議会のあの方と一緒にされては困ります」
「……? 誰のことや?」
「いえ、いいんです。評議会でもその話は出るもので……。それにしても久しぶりですね。他の人たちも元気ですか?」
笑顔になったサラは、ナイゼルに話しかける。さすがに同じ教室な為か、旧知の間柄という印象が二人には感じられた。
「ああ、みんな元気やで。また、暇な時に顔出したらええやん」
「残念ながら、そうも言っていられません。南の森へ向かう必要が出てきましたので」
「南って言ったら、ヨルムンガントの森か? なんや、バラクーダの討伐でもするんかいな」
サラの表情は真剣なものになっている。ナイゼルにもそれは伝わっていた。
「バラクーダであれば良いのですが。いえ、決して良いということはないですけど……。とにかく、しばらくは登校できそうにないです。できれば、17歳の青春を楽しみたいんですけどね」
「それやったら、おもろい奴が居るで? 相沢智司言うんやけどな、なんとパワーマシンを破壊した転入生や。素性は知れんけど、化け物やろ」
「相沢智司……そんな人が。パワーマシンを破壊ですか……面白そうですね。ちょっと興味があります」
ナイゼルからの言葉にサラも笑顔を見せている。彼なりの気遣いということであろうか。サラもそれに気付いているのか、ナイゼルには感謝しているようだ。
「モニターにも出ていますね。相沢智司、11位。あら、ナイゼルは19位ですよ? いつまであんな順位にいるつもりですか?」
「あちゃー、それは手痛いわ。俺なんてマルコフの奴にも虐められてるんやで? 勘弁してーや」
大袈裟に両腕を動かすナイゼル。それを聞いたサラの表情はどこかさっきまでと異なっていた。
「ナイゼル、いつまで私を退屈させるんですか? 本当に頼みますよ」
「本当に手厳しいな……。ま、善処してみるわ」
「そういえば、デルトはまだ暴れているんですか?」
「ああ、より一層ひどくなってるで。実力が伴ってるのがホンマに性質が悪いわ。なんとかしてや、1位さん」
ナイゼルはそこまで言うと、サラの肩に軽く手を置いて去って行った。
「森の調査まで、まだ少しだけ時間がありますね。想像以上に楽しくなっているようですし……少し様子を見てみましょうか」
サラは、去っていくナイゼルに背を向けた状態で、再びモニター画面を見ていた。
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「あ、ここって全寮制だっけ?」
「智司、それ知らないで授業受けてたわけ?」
入学初日の放課後、周囲の日も落ちて来た頃、智司は衝撃の事実をリリーから聞かされていた。正確には、ハヅキから渡されていた冊子にも記載されていたが、読み損ねていたのだ。
「呆れた……まあ、ここは基本的には全寮制だけど。別に出られないわけじゃないし、いいんじゃない?」
「それもそうか」
その気になれば、いつでも帰ることはできる。ただし、ゲートを開けた場所はデイトナ郊外になるので、そこまで移動する必要はあるが。
ふと、智司は考えた。入学金など、ハズキからは必要な資金のことは聞かされていない。ハズキは既に、その問題は解決していると言っていたことも思い出した。
「ハズキが言うんだから大丈夫かな……よし」
「どしたの?」
「いや、こっちの話だよ。とりあえず、寮に行こうか、どんなところか気になるし」
「うん。5000人以上の寮だし、かなり広大らしいわよ。巨大なリゾートホテルみたいだとかなんとか」
「へえ、それは楽しみだね」
智司とリリーの二人はそのまま寮へ向けて歩き出した。途中、何人もの生徒に振り向かれたり、軽く声をかけられたりした二人。あまり意味はわかっていなかったが、彼らの知名度が大きく上昇したことを意味していた。
そして、時を同じくして別の場所。
「なんの用だ? ナイゼル」
「ほんま、ゴメンなビシャス。いや、なんていうのかな~? ほら、サラの奴にも焚きつけられてな。ほんま困ってるねん、いつまで19位に居るねんってな」
「話が見えて来ないぞ?」
ビシャスと呼ばれた男は、デルト程ではないにしても筋肉質な大男だ。目の前のナイゼルと比べると相当な体格差があると言える。Sランクの教室内でも、比較的真面目な生徒であり、ナイゼルとの仲も悪くはない。
そんなビシャスもナイゼルの話は意味がわからないといった表情になっていた。話の先が見えて来ないのだ。
「ホンマはあんまりこういうこと言いたくはないんやけどな」
「なんだ?」
「模擬実戦やらへんか?」
「……なんだと?」
ナイゼルのセリフにビシャスの表情が変化した。元々険しい顔つきがさらに険しくなっている。だが、ナイゼルの表情は、そんなビシャスを上回るほどに変化していた。普段話している陽気な彼は存在していない。
「お前の4位の席、貰うわ」
ナイゼルは殺気を込めたように冷徹に言ってのけた。
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