83 / 126
83話 アルビオン王国の対応 その2
しおりを挟む「南におよそ800キロメートル地点にある広大な森林地帯ヨルムンガント。そこにシルバードラゴン……果てはその主人と思しき魔神が存在しているとなると、我々マリアナ公国にとっても非常に厄介だ」
百害あって一利なし……メドゥシアナの口調はまさにそれを物語っていた。
「近衛隊所属、メドゥシアナ・タイランレイブより提案いたします。我々の誇る最大戦力を持って、一気に攻め込むのがよいかと」
メドゥシアナの発言は戦闘狂のそれを感じさせた。実際に戦闘狂というわけではないのだろうが、相当に短絡的と言わざるを得ない。それだけ自分の力に自信を持っている証か。
「おいおい、メドゥシアナの奴、天網評議会の連中も居るのに随分と大きく出たな?」
評議会メンバーと他国の者が合同で会議を行うことは珍しいことでもないが、大抵の場合は他国の者の発言力は弱くなるが……。
「当然だ。コンバットサーチで測る限り、この場の者達では彼女はライラック老師に次いで数値が高い。それはメドゥシアナ自身も感じ取っているんだろう」
メドゥシアナ自体はコンバットサーチのスキルは使えない。しかし、闘気の大まかな強さなどから、自らがこの場で第2位の強さであることを悟っているのだ。
ギリアンとグウェインの会話はアナスタシアたちにも聞こえていた。アナスタシアは苦笑いになっている。
「コンバットサーチは本当に便利さね。で? 私は22000ということらしいけど……そこのお嬢さんは幾つなんだい?」
アナスタシアは納得こそしていないが、メドゥシアナの方が実力は上とわかっているようだ。参考数値を確認したいと考えていた。
「メドゥシアナの数値は40000だ」
40000という数値……それを聞いた時、アナスタシア、ダンダイラム、サラの表情は同時に変化した。評議会序列3位のアナスタシアと比較してあまりにも高かったからだ。
「40000……? それって凄まじい数値なんじゃないのかい?」
基準数値がイマイチわかっていないアナスタシアだったが、自らの数値の22000と比較すれば相当に高いことは理解できた。実際に技などの強弱もある為に、2倍の実力差というわけではないかもしれないが……。
「参考までに……以前、測ったことがある傭兵団体トップのラーデュイが25000だった。それを考えれば、メドゥシアナの実力はわかってもらえると思うよ」
「ラーデュイで25000……そう考えると、メドゥシアナ様の実力はとても高いと言えます」
サラは実際にソウルタワーでラーデュイを見ている。その時は明確な強さはわからなかったが……こうしてコンバットサーチでの強さ指数を示されるとわかりやすいというものだ。
メドゥシアナの闘気はおそろしく強いと言える……流石に智司やデュランよりも強いということはないだろうが……それでも高すぎる数値であった。
「しかし、ライラック老師はさらに高いよ。それで? 俺としては現評議会序列1位のランファーリと2位のネロの数値を測ってみたいところだが……」
最重要の会議であるはずだが、評議会メンバーが3人しかいないことにグウェインは違和感を覚えていた。
「ああ、他のメンバーは忙しくてね。ネロはソウルタワー占領戦の現地調査に行ってるし。まあ、ランファーリの奴は孤児院を優先したってだけだけど……」
他のメンバーはそれぞれが担当する仕事があった為に、咄嗟に来ることができなかったのだ。評議会序列1位のランファーリだけは、自らの出身である孤児院の仕事を優先しただけではあるが。
「でもまあ、私たちの切り札の数値がわからないようで何よりだったよ」
アルビオン王国の最終兵器であるランファーリ。彼女の実力を、コンバットサーチで計測されなかったことは幸いであると、アナスタシアは考えていた。実際にはランファーリは強力なサモナーである為、総合的な強さと直結した数値を出すのは難しいのだが。同時に、ネロの数値も出されなかったことも良かったと言えるだろう。
アルビオン王国の決して底をみせないという教えは守られたことになる……。交渉の為の会議はそのままの面子で続けられていった。
------------------------------
「じゃあ、ヨルムンガントの森に交渉へ向かう人物は、私とサラ、ライラック老師、メドゥシアナにグウェインの5人でいいわけさね?」
「あまり多くても問題があるだろうし……その面子でいいんじゃないか」
協議は進められていき、最終的にアナスタシア、サラ、ライラック、メドゥシアナ、グウェインの5人で向かう手筈が整った。万が一の為に、後方の待機役としてハンニバル率いる部隊が検討されている。
「ライラック老師とメドゥシアナの二人は護衛役だ。万が一、敵側が強行手段に出た場合にそれを排除する役割を担う」
「そして……私とサラが交渉役だね」
「そうなるね」
魔神の軍勢も休戦協定を言ったのだから、問答無用で攻撃は仕掛けてこないだろうという希望的観測だ。王国最強のランファーリは簡単に出すわけには行かない。かといってネロたちも状況的には難しいのだ。
やはり、先ほどの5人で行くのがもっとも効率的であると言えた。ライラックとメドゥシアナが護衛を務め、アナスタシアとサラで休戦協定についての交渉を行う。そして……」
「その間に、俺がコンバットサーチで敵の戦力を把握という流れさ」
抜け目ないグウェインの計画だった。休戦協定が上手くいこうがいくまいが、敵の戦力の把握は絶対に必要だ。もしも交渉が決裂した場合でも、彼のコンバットサーチは必ず役に立つ。
幾つかの想いが錯綜している休戦協定だが……こうして、アルビオン王国とマリアナ公国側でのメンバーも決まることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる